強いですよ
春日井さんは、ニコニコしながらビールを開けて飲んだ。
春日井「言うのが遅くなりましたが、今までお疲れさまでした。」
そう言って春日井さんは、頭を下げた。
洋「俺は、何もしていませんよ」
春日井「していますよ。灰谷さんから、話しは全て聞きましたよ。」
洋「最後までやってくれたのは、春日井さんと灰谷さんですから」
春日井「そんな事ないですよ。店長さんと宮守君が、頑張ってくれたから私と灰谷さんも頑張れたのですよ。」そう言って笑う。
春日井「前に、店長さんが灰谷さんに強いですねって話をした事を覚えていますか?」
洋「はい。」
春日井「あの時に言えなかった言葉を言いますね。」そう言って笑う。
洋「はい。」
春日井「店長さんは、強いですよ。」そう言って春日井さんは笑った。
洋「強くなんてないですよ。」
春日井「人の強さは、力だけなのでしょうか?」
洋「いえ。」
春日井「店長さんは、心が強いです。少なくとも私は、そう感じました。」そう言って俺の手を握ってくれる。
春日井「店長さんの身に何が起きたかは、三岡の件が片付いた時に知っています。今でも悪夢を見るのではないですか?」俺は、春日井さんの言葉に涙を流す。
春日井「普通の人は、壊れてしまいますよ。でも、店長さんは壊れずに立っている。それは、とても強い事です。」
そう言って俺の手をギュッとしてくれる。
洋「普段は忘れられてるんです。でも、あいつ等に似た人を街で見かけると足が震えて動けなくなる。そんな夜は、悪夢を見ます。ワーって叫んで起きるんです。亜香里を守らなくちゃいけないのにしっかりしなきゃいけないのにって思うほど苦しくて」涙が流れてくる。
春日井「私達は、店長さんの役に立てませんか?」
洋「もう、充分役にたってますよ。」そう言うと春日井さんが、俺の手から手を離して。
春日井「まだまだですね。」と笑う。
洋「そんな事ないですよ。」
春日井「店長さんに悪夢を見せないようにならないと意味がありませんよ。」そう言って俺の頭をポンポンしてくれる。
洋「そんな日が、きますかね。」
春日井「くると信じています。私達と共有しませんか?店長の痛みも苦しみも。」
俺は、泣く。
こんな人達に出会うって俺は知らなかったよ。
向島に出会わなければ、会わなかった。
拜島さんと関わらなければ、出会えなかった。
春日井「すみません。無理な事を言ってしまいましたか?」
俺は、首を横にふる。
洋「どうして、皆さんはそんなにいい人なのですか?」
春日井「いい人ですか?そんな風に言われた事は初めてですね。」
洋「そうなのですか?」
春日井「えぇ、私達にとって息をしている事とかわらない事ですから」
洋「やっぱり皆さんは、すごいです。俺は、皆さんみたいにはなれません。」
春日井「私達になる必要はありませんよ。店長さんは、店長さんのままが一番です。」
洋「でも、皆さんみたいになれたら俺もっと強くなれます。」
春日井さんは、俺の言葉に首を傾ける。
春日井「店長さんが、私達みたいになる必要がどこにありますか?」
洋「ありますよ。俺は、こんなにも弱い。亜香里を守らないといけないのに、あいつ等の事」俺は、また泣いてしまった。
春日井「私は、店長さんと同じように弱い人間ですよ。」そう言って俺の肩をポンポンする。
俺の目から涙が流れて止まらない。
春日井「弱い事は、悪い事ではありませんよ。私は、感情に蓋をして強いフリをしています。ださないように、見せないように。そう教えられてきたからですよ。」そう言って春日井さんは、笑った。
洋「俺、皆さんの話を聞く事ができて嬉しいです。」
春日井「そうですか。」そう言ってビールをいっきに飲み干してから、春日井「一つだけ、私の昔話を話しましょう」と言って笑ってくれる。