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拜島さんへの想い

東村さんは、ビールを飲んで話し出す。


東村「私は、皆のように向島に仕える事を定められた人間ではなかった。15歳の頃、私は父親の借金を返すために年齢を偽り夜の世界でボーイとして働いていた。」東村さんは、その頃を思いだし苦しそうに話す。


東村「母親は、借金から逃れる為に私を捨て新しい人生を選んだ。その事を責めるつもりはなかった。だから、必死で働いたよ。」


そう言って眉をひそめている。


東村「大雨の日、私は客の一人を殴りつけて店の外に立たされていたんだ。私は自分のした事に後悔はなかったよ。15歳だった。夜の世界のルールなんてわかってはいなかった。おっさんが、女の子にいやらしい事をしたら殴ってしまうのだよ。」そう言ってフッと笑った。


東村「ただ、ここをクビになれば父親の借金を返せなくなる事に怯えていた。ずぶ濡れで、心も体も冷えきった頃。真っ黒な大きな傘が私の視界にはいった。」そう言って目を細めている。


東村「拜島さんの父親だった。ずぶ濡れの私に傘をさしたのだ。拜島さんと同じような暖かさを持つ人だった。風邪をひきますよ。そう言って私に声をかけた。冷えきった体に、あの人の言葉は太陽のように暖かかった。心をどんどん暖かくする。あの人は、私を覗きこんで何か温かいものを買ってきましょうと柔らかい笑顔を浮かべたんだ。」そう言って拜島さんを見ている。


東村「あの人は、私に傘を渡して駆け出していった。しばらくしてずぶ濡れで戻ってきたあの人は私の手に暖かいお茶を渡した。私は、泣いたよ。」そう言うと東村さんの目から涙がどんどん溢れていく。


東村「何かを察したように、あの人は私の隣に並んだ。そして、社長が店から出てくると私をすぐに紹介したんだ。社長は、すぐに私をやとってくれると言ったよ。店に文句を言われたけれど、未成年だと話したらすぐに出ていけと言われたよ。」俺も泣いてる。拜島さんが、あれだけ素敵なんだ。お父さんは、もっと素敵な事はわかる。


東村「社長が、私みたいな汚いガキを拾い上げたのは、捨て駒に使うためだったんだろう。」そう言って笑った。


東村「でもな、店長。私は、拜島さんの父親に感謝してるんだよ。あの日、拾ってくれたお陰で一億円という父親の借金はなくなって自由になれたのだから。訓練をしてる皆に会えたのだから。」そう言ってビールを飲む。


東村「拜島さんはね、何もわからない私を丁寧に指導してくれたんだ。泣き虫だけど強くて、私はあの人に憧れた。そして、あの人の父親にも恩がある。だからこそ、拜島さんの目が覚めなかったらと思うと怖くて堪らなかった。」そう言うとまた泣いている。


東村「拜島さんを見てるとね。あの人を思いだし感じる事が出来るんだよ。それだけで、幸せなんだ。店長、これからも拜島さんを支えてやって欲しい。」


洋「俺に出来る事があるならやります。」


東村さんは、俺を見る。


東村「店長にしか出来ない事がたくさんある。」


そう言って俺の肩を叩いた後で、東村「店長の事は、皆が支えて守ってくれる。だから、店長は自分の思う通りにやってくれ。」


俺は、涙を流す。


東村「泣いてどうする。まだ、始まったばかりだ。」


洋「そうですよね。」


東村「店長は、一人じゃない。だから、羽田さんも守ってやってくれ。」そう言って頭をくしゃくしゃ撫でる。


洋「はい。」


東村「皆、店長にどんな人間かわかってもらいたいし、店長がどんな人間か知りたがってる。」


洋「はい。」


東村「そう言ったらきたな。」


春日井「東村さん、吉峯さんが呼んでますよ。」


東村「春日井も、店長に用事か?」


春日井「店長?あっ、そうですね。芦野君は、この店の店長ですね。」


東村「私達の上司だぞ。まぁ、ゆっくり店長と話せ。」そう言って東村さんは去っていった。


春日井「隣に座ってもいいですか?」


洋「はい」


春日井「何から話しましょうか?店長さん」


そう言って春日井さんは、優しい笑顔を俺に向けた。



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