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TIPS 奥野刑事の本名
『そうだ嬢ちゃん、また不審者に襲われたなら、迷わず署まで連絡をくれよ。 奥野刑事って言えば電話取った奴もわかると思う』
『はい、それでは』
そう言って私は電話を切ろうとしたが、妙に思ってやめた。
『その奥野刑事って、どっちのけいじなんですか? 階級の刑事なのか名前の刑事なのか、気になります』
弥陀羅修二や植野楼は奥野と苗字で読んでいるし、奥野自身から名前を名乗られたことも無い。
『言ってなかったか? 奥野慶次で、階級も名前も両方けいじだ。 ほら、花の慶次の慶次、わかるか?』
『花の慶次?』
『…………いや、知らないならいい。 時代の流れか…………』
前田慶次の慶次、そう説明してもらった時に何となく、私の知人には珍しい苗字や名前の人間が多いのだな、と思った。
『それじゃ嬢ちゃん、今後は夜道には気をつけることだな』
『肝に銘じておきます』
電話を切ると、ダイニングからテレビの音が漏れて聴こえてくる。
何かの音楽のようだった。
しばらく考えて、弥陀羅修二はどうしているだろうか、家に居るのだろうかと、思い立ったのだ。




