『Free World Online』
本日二話目!
「ふむ、つまりゲームをして欲しいということか?」
「そういうことじゃ」
う、うーん、いつも儂の事を頼らない昌幸が頼って来おったから、もっと重大なことかと思ったわい。いつの頃からじゃったかのう。こう、真面目な相談されなくなったのは。むう、秋子さんに告白しようか悩んでいる昌幸に「当たって砕けるつもりで行け」と言ったときか、それとも会社の事で悩んでいる彼奴に「まーた小難しいこと考えてるのか?だったら、木刀をもって素振りでもしたらどうだ?頭がスッキリするぞ!」と言ったときからじゃったか。うーむ分からん。
「で、どうじゃ?」
「む、その程度なら構わんぞ。しかし、お主からゲームに関する依頼とはどういう風の吹き回しじゃ?」
そう、こやつからゲームに関する依頼が儂に来ることはまずない。昌幸自身ゲームはあまりせんし、したとしてもパズルや謎解きじゃ。儂にゲームのテストをやらせるのは儂が苦難や窮地を楽しむ質であり一般人とはかけ離れた実力を持っている以上、有り得ぬ。
「うむ、実はのう、桜がやることになるゲームをやって欲しいんじゃ」
「・・・ん?儂的には万々歳じゃが、桜もいい歳じゃぞ?儂がいなくても大丈夫じゃろう」
「いや、まあ、そうなのだがな」
「何じゃ煮え切らんのう!・・・まさか、桜の事が信用できないわけではあるまいな?」
桜はしっかりした子じゃ。ゲームと現実の区別はつけられる。MMOじゃって、今までもいくつか保護者なしで遊んでおる。そもそも、保護者が付く事自体が世間一般では稀なのじゃ、高校生にもなってゲームで遊ぶのに保護者が付くなど、流石に過保護も過ぎるというものじゃ。ここは昌幸に折れてもらうしかあるまい。
「のう、昌幸「兄さん、待って欲しい。何も理由がなくこう言っているわけではない」・・・ほう、良かろう、聞かせてみぃ」
「うむ、桜がやろうとしているゲームは『Free World Online』というんじゃが、リアルなグラフィックや一般のNPCにも高度な人工知能を搭載している事、時間加速、そして、人型以外にも成れること、在り来たりに言えば人外のアバターを作れることを売りにしておる」
「ふむ、確かに面白そうではあるの」
「それでのう、桜は友達に誘われて人外、まあ、魔物のキャラクターで遊ぼうとしておる」
「ふむふむ、別にかまわんのではないか?遊び方など人それぞれじゃしの」
「それだけなら良かったんじゃが・・・調べてみたところ、魔物プレイヤーは不遇らしいのじゃ」
「む?」
「何でも、町には入れぬらしくての。そうなると当然消耗品は買って補充できぬ。更には、ログアウトしてもアバターはそこに残るらしく、安全な場所でログアウトせねば、魔物に襲われて死んでしまうらしい」
「むむむ!?」
「更に更にプレイヤーだろうと人類は青、魔物は黒に統一されるらしく、人類や他の種族とは言語が違うのかコミュニケーションも取れん有様じゃ。・・・どうじゃ?心配になって来んか?」
「うむ、確かに心配じゃ!そういうことならこの儂に任せておけい!!必ずや桜の不愉快の原因となりそうな存在を排除して見せようぞ!!」
「おお、流石兄さん!頼もしいのう!情報収集は既に儂が持てる全て使って行っておる。その情報を元に兄さんのキャラメイク方針を立てようではないか!!なぁに、正式サービスの開始は八月からじゃ、じっくり戦略を立てていくとしよう」
「おう!!」
待っておれ、桜!景じぃがお主の前に立ちはだかる愚か者をバッサバッサ切り裂いてくれよう!!
■■■■■
あれから、三日が経ち、現状集められる情報は集めきったということで昌幸の書斎で作戦会議を行うこととなった。
「まず、兄さんが種族を決める上で重視することは何じゃ?」
「そうじゃのう、出来るだけ異常状態に掛からない方が良いの。更に言えば、動きやすさかの」
「なるほどなるほど、ならば、兄さんの種族は骨人で決定じゃ。まあ、東の方ではコツジンやホネビトと呼ばれとるようじゃが。それと、回復手段なぞいらんだろう?」
「うむ、いらんのう」
『修羅の國』でも回復手段なんぞ無かったからのう。問題ないわい。
「次じゃ、始めに選べるスキルの数は五じゃ。スケルトンはそれに加えて種族特性である<異常状態無効>、<暗視>、<弱点:光属性(大)Lv10>、<弱点:打撃(大)Lv10>が付いてくるぞ」
「弱点って何じゃ?」
「うむ、まあ、受けるダメージが上がるんじゃよ。小で1.2倍、中で1.5倍、大で2倍、特で3倍といったところじゃ。ただ、気を付けねばならんのは、<弱点:光属性>の場合、中以上で日光によるダメージを受け、大以上になるとその身が灰になる。しかも、防具ではなく直に光属性の攻撃を受けると灰になって部分欠損が起こる。」
灰になってしまうのかぁ、そうかぁ、そうなのかぁぁぁぁぁ!いや、結構一大事じゃないかのう!?光属性の攻撃を受けたら部分欠損はまずいのう!つまり、遠距離攻撃だったら、完全にアウトじゃろ!?流石の儂も光速で飛んでくるものは躱せんぞ!?・・・しかし、ここで引いては儂の威厳に関わる、要するに当たらなければ良いんじゃ、当たらなければ!!
「・・・ふむ、当たらなければ良いのだな?ならば、問題ないのう」
「流石は兄さん、頼りになるのう。では、話を続けるとしようかのう。武術系スキルは・・・まあ、兄さんは基本的に何でも出来るから、どうとでもなるじゃろ。ただ、スケルトンの初期地点は廃村か洞窟、地下道らしいからのう。そのどれにでも対処できる武器が良いの」
「ならば、槍は論外として、骨に格闘術は自爆そのもの、となれば、剣術が妥当じゃろう。あ、短槍とかがあれば、話は別じゃが」
「うむ、初期スキルとしては確認されておらぬ」
「ならば、剣術じゃな。しかし、西洋剣と日本刀では、使い方が違うんじゃが・・・そこはどうなっておるんじゃ?」
西洋剣は日本刀のように叩いて引き、小さい力で断ち切るのではなく、叩き切る、若しくは突くことを目的としておる。まあ、ゲーム的には斬撃と打撃を合わせたダメージ判定になるの。む、スケルトンの儂にとっては相性が悪いのう。
「うむ、どうやら、東の二つある大陸のうち、中央大陸側の大陸は中華、もう一つの方が日本をモチーフにしておるようじゃ。剣術も十レベルになると、派生スキルをてに入れられるらしい、その中に刀術もあるから。初期地点をその大陸にすれば、何ら問題はないのう」
「なるほど、しかし、桜はどこの大陸で始めるつもりなんじゃ?」
「それがのう、中央の大陸、トランティアス大陸なんじゃよ。あの大陸では刀を購入することが出来ん。兄さんの戦闘能力も下がってしまうじゃろう」
「いや、桜のためならば、多少の弱体化も受け入れるが」
「うーむ、儂個人としてはありがたいんじゃが、流石に高校生にもなって爺に付きまとわれるのはのう?そこで、お主にはいざというときの避難場所になって欲しいんじゃよ。ほれ、桜は負けず嫌いじゃろう?辛くなってキャラクターをリセットしても、魔物で再スタートすると思うんじゃ」
「ふむ、確かにのう」
桜には護身術として棍術と空手、柔術を学ばせておったのう。それならば、心配は要らんか。
「さて、話を戻すぞ。武術以外にはある程度、儂のほうで目星を付けておいた。候補は六つ。一つ目は、<錬金術>じゃ。此れがあれば、応急処置程度ならば、武器の整備が出来る」
「確かに大切じゃのう」
「二つ目と三つ目はセットじゃ。<付与術>と<闇魔術>、此れがあれば、一時的なステータスのかさ増し、上手くやれば、光魔術も切れる・・・恐らくの」
「いい加減じゃのう」
「仕方無かろう。魔術を切ろうとした奴なんぞ、いなかったんじゃから。どちらにせよ、光を防ぐには闇が必要じゃろうて」
つまり、憶測ということか。しかし、一理あるのう。
「まあ、確かにの。それで、残りの二つは何じゃ?」
「相も変わらずせっかちな。先に言っておくが、後二つの内どちらを選ぶかは兄さんに任せる。一つ目は<言語学>、これは書物を読むのに必要なようじゃ」
「む?待て待て、プレイヤーは読み書きが出来んということか!?」
「いや、そうではない。プレイヤーは生活において困らない程度の読み書きは出来るが、書物に出て来る難しい言い回し等は理解出来んらしい。ただ遊ぶ分には必要のないスキルじゃから、あまり人気はないの。ただし、魔術書を読むには必要じゃし、それを読めば、ただで魔術を習得できる。まあ、どれもそれなりに分厚いらしいがの」
なるほどの。儂は魔物じゃし、本は易々と手に入るものではないだろう。しかし、プレイヤーや商人を襲ったり、人がもう住んでいない場所にある廃屋で手に入れたりすることがあるか。
「もう一つはなんじゃ?」
「もう一つは<鑑定>じゃ。レベル差があると分からんこともあるらしいが相手の情報が見られる。相手を知り己を知れば百戦殆からずと言うじゃろ」
「もうそれ一択じゃろ、鑑定にするわい」
「あ、やっぱり?」
ぶん殴るぞ、弟よ!
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そして、流れるように時は過ぎ、遂に八月一日、『Free World Online』――通称FWOのサビース開始日となった。本当に色々なことがあった。ある時は、逸る心を落ち着かせようと儂の後を継ぎ道場を切り盛りしておる甥の勝利の所に赴き、百人抜きをして秋子さんに怒られ、またある時は、昌幸と深酒をして秋子さんに怒られた。む?秋子さんに怒られてばかりな気がするのう。まあ、気のせいじゃろう。
桜がこちらに来るのは八月五日からじゃし、それまでには大伯父としての威厳を見せられるくらいには強くなっておきたいの。
サービスの開始は午前八時からか。あと二分程度じゃのう。それにしてもFWOは神ゲー確定と呼ばれておったせいで、第一陣は抽選で選ばれたはずなんじゃが、どうやってソフトを手に入れたんじゃろうか?これを作った会社の株主じゃったのか、それとも、ただ単純に金を積んだのか・・・まあ、考えるだけ無駄じゃのう!
エアコンの設定はエコでマイナス二にして、水筒を枕元に置き、VR機器をセットする。準備万端じゃ!
「さてと、水分補給とお手洗いは済ませた。・・・ふむ、昼食までは続けられるじゃろうし、時間加速は三倍じゃ、大体十二時間といったところか。よしよし、廃人には劣れども老骨の暇な時間がどれほどあるか見せつけてやろうかのう!いざ、仮想世界へ!」