疑惑は深まった
「先生、私は……陽性ですか?」
「陰性ですよ」
今年大流行。
まさかここまで酷いとは……死者も重症者も増えて来ている。
「でも、その匂いが分からなくて……陽性じゃないんですか?」
「結果は陰性ですよ」
毎日のようにその数が世界中に出されて、ワーキャーワーキャー騒ぎ出す。
検査を受けよう。検査を受けよう。
そんな流れに乗ってやってくるのも構わないし、そうした方が良いとは思う。
ただ、我々の国はそーいう設備があるだけに恵まれており、もっと落ち着いているべきだ。設備があれどそれを取り扱える人材はまだまだ少ないのだから。
「味覚もその……ないような、あるような……陽性だと思うんですけど?」
「陰性ですって、大丈夫ですから!」
人材が少なければ、負担が起きるもの。それを理解してもらって欲しいと思う人もいる。
「熱もあるような……やっぱり陽性だと思うんですよ」
「じゃあ、おでこ出してください。熱を測りますから」
ピピッ
「平熱ですね。36.1度」
「でも、その一瞬で測る体温計って合ってるんですか?……陽性じゃないんですか?」
ちなみに陰性か陽性かの判断は、検査を受けてから1日ほどかかる。
つまり
「陰性って結果が出たら、陰性なんです!!いちいち、また来ないでください!!」
「疑惑は深まります」
◇ ◇
「接骨院の感覚でPCR検査を受けに行くんじゃねぇーよ!!」
地域の町医者、接骨院、歯医者などに老人達は集まらなくなった。代わりに内科などに通い始める老人達。PCR検査を受けなきゃ、……みたいな感じで
「人混みのところに行ってどーすんだよ!!ホントにそこに、陽性患者いたらどーするんだよ!!」
『でも、俺が陽性だったら……』
「結果、陰性だったんだろ!!」
『でもっ……不安で不安で」
「検査を受けたからって、治療薬は特にないの!!安静する事しかないの!!だいたい、若者よりもそーいう集まりはお前等の方が多いだろうが!!病院のクラスター率見てねぇのかよ!」
ガチで親にキレている三矢正明。ゲーム会社に勤務。
「とりあえず!しばらく、実家に帰らないからな!」
『え、ええっ。久しぶりに年末年始に顔を見せるって言ってたのに……?』
「当たり前だろ!!俺まで濃厚接触者になったら会社に迷惑だろうが!!検査受けても、治らないって何度も言ってただろ!」
久々に大きくなった子供が帰ってくるっていうのに、大チョンボ。
『そんなぁ』
「”そんなぁ”って……俺が言いたいぐらいだよ!!とりあえず、食って寝て休んでろ!!ちょっと嗅覚が効かなくなってきたって、自分の歳も考えて動け!!ゆっくりしてろ!会食してないし、マスクもして、消毒してんだから、大丈夫だって!」
ピッ
「無症状で陽性患者もいるんだよ。はぁー……ったく。瀬戸の面倒をみねぇとな」
そこらへんの人間1000人をテキトーに検査させれば、5,6人は当たりそうなもんだと思っている。
何が困るって。陽性患者になった時は、周囲の消毒やら接触者への対応やら……。そーいう事を考えずに、不安の一言で受けに行く。おまけに自分が陽性なんじゃないかと医師に訴える始末。
感染したら死ぬわけじゃないし、ちゃんと完治した人もいるんだから。
病は気から。
家族からの緊急電話を受け、席を外していた三矢が現場に戻って来て
「悪い。そんで例のデータの搬入は?」
「ごほごほ……あー、なんか風邪かな……熱が出てたら休むべきかな」
「またそれかよ。体温測ってみっ」
ピピッ
「”平熱”だぞ。頑張れ、瀬戸」
「…………おかしい」
ホントに熱があるかのように、三矢が席を外している間に蒸しタオルを額に乗っけてるのに。朝と熱が変わらないし、毎日同じ体温になる。
「ほれ、頑張れ。平熱だったぞ。冷えピタ張ってやる」
「ぐぐっ……」
「体調悪くても平熱だったら、休ませないからな」
あの体温計。細工してんじゃねぇかって。瀬戸はちょっと睨んでしまう。
体温計への疑惑は深まった。
もし、瀬戸に熱があった場合:
瀬戸はナースさんに○欲の発散、もとい看病をしてもらうため、必死に熱がある事をアピールしました。
ただ、こんなに元気な患者さん達の相手をする暇も体力もないので。
使用されていない掃除ロッカーの中に彼を閉じ込め、隔離をし、同じような連中も一緒に海に流して処理しましたとさ。
めでたしめでたし。
っていうか、看護師さんも対策してるんで、色っぽい格好をしてるとは思えないんですけどね。
最近というか、11月辺りから増え始めたのって。ぶっちゃっけ、アレだなーって思ってるんですけどね。一体、どーいう方が陽性患者なんでしょうかね。
3,4月は患者の渡航歴とか調べて発表されてたはずなのになぁ(棒読み)。