10. 召喚された理由 -3-
次は何を聞くべきか。とりあえずは相手の戦力か。
オーキッドさんの連れてきた従魔の内訳ってわかる?
『はい。ドラゴン系列の究極体が属性別に一人ずつと、MODで追加した輝晶龍が一人です』
そういえば、オーキッドさんはドラゴンが大好きだったな。
『リ・マルガルフの希望』の属性は火水風地光闇の六種。ドラゴンも昇格時にこの属性に合わせて六種に分岐する。
バニラにもいたドラゴンが六人と、MODで足したドラゴンが一人で、合計七人か。
ということは、支配者の七宝はちょうど一つずつ配られているってことだな。七つの装備品は、どれも首装備の装飾品であり、重複して装備することはできないという制限があった。二つ以上持つ意味は薄い。
『そうですね。おそらくそれぞれが一つずつ所持しているようです。誰がどの七宝を持っているかまではわかりませんが』
わからないのか。
『物質界の様子を詳しく知ることはできないんですよ。私が見れるのは、神前室の中だけです。神前室に来た人から情報をもらう以外ですと、世界をマクロな視点で眺めてリソースの流れを追うくらいしかできません』
なるほど。
『あ。ドナさんにはマーカーをセットしてありますので、どこにいるかはわかります。……オーキッドさんも同じだったんですが、もう反応は返ってこないんですよね』
居場所がバレるのか。いいことなのか悪いことなのか。風呂とかトイレとかわかるってことだろう?
『そこまで詳しくはわかりません。現在座標はわかりますが、そこに何があるかはざっくりとしかわからないんです』
干渉できないって、思ったより制限多いな。
『そうなんですよ。私としては、こうしてお願いができる物質界側の協力者だけが頼りなのです』
なるほど。なるほど。
では、報酬とか強気で要求しても大丈夫そうだな。
『え?』
報酬とか強気で要求しても大丈夫そうだな。
『……お手柔らかにお願いしますね』
あれ。いいのか。
『こちらも無理矢理お願いしている自覚はありますから、まったくの無報酬はさすがに気が引けます』
そっか。今は特に思いつかないけど、何かあればお願いしよう。
『わかりました。オーキッドさんの戦力の話に戻りますが、ドラゴンの他にダークエルフの少女が一人います』
ダークエルフ? 『リ・マルガルフの希望』にダークエルフっていないよね?
『MODです』
オーキッドさんは大量にMOD入れる派だったからな。後で、MODの確認もしないとダメか。
でも、まずは戦力確認の続きだ。次は私の方の戦力だな。
私の従魔は百八人いたはずだけど。
『はい。全員こちらの世界に呼んでありますよ。基本的には拠点で待っているはずです』
あー……。やっぱり拠点にいるのか。
現在の私の拠点は、作成中のMODで作っている拠点なんだけどさ。出入口の機能が未実装なんだよね。
『……はい?』
で、その拠点は異空間にあるっていう設定なんだけど。なんとかして移動できないかな?
『さすがに場所がわからないと転移するのも難しいですよ。それに、転移はリソースの消費が激しいので、あまりやりたくないのですが』
そうなのか。バニラには転移門っていう町の間を繋ぐ転移装置があったけど。
支配者の七宝の一つ、虚ろの回廊はどうなの? あれは転移能力だけど、回収しなくて大丈夫なの?
『私が介入せず、そういうアイテムとして作られたものを利用する分には大した問題はありません。私が介入すると、位置を特定するために無理矢理物質界に干渉しないといけないのですが、結局干渉はできないため大雑把な転移になるうえ、消費も激しいのです』
大雑把な転移ってのは、怖いな。
『高密度の物質同士が干渉するような転移は自動で回避されるような仕組みになっていますから、想像しているような転移事故は起きませんよ。理論上は』
最後にフラグ立てるのヤメロ。
『それで、拠点が異空間にあるという話ですが。ドナさんを召喚した際にMODの変換も行いましたが、異空間に相当するようなものが作られたログは残っていませんでした。たぶん、この世界のどこかにあるのではないですか?』
あれ? そうなのか? じゃあ、場所がわかれば転移してもらうことは可能?
『可能ですが……先程も言ったように、リソースの消費が激しくてですね』
いいや。問題解決の報酬は強気で要求するね。
『その話に戻るのですか。わかりました。銀月の庭と未踏の道標を対処したうえで、拠点の場所を見つけることができれば、転移を行うことにしましょう。……でも、回数は相談させてくださいね』
よっしゃ。やる気出てきた。頑張ろう。
『拠点は異空間にある設定で出入りも難しいという話でしたが、そこに残された魔物たちは長時間放置しても平気なのでしょうか』
え。隠れ家(仮名)には水場も農場もあるから、自給自足できると思っているけど。
『なるほど。ドナさんが自給自足できる、と思っていたなら、そのように実現されているはずですから、大丈夫ですね』
こちらの世界のシステムに変換するときに、私の記憶も参照してるって言っていたっけか。
MODで思い出したけど、『デバッグコンソール』は使えるようにならない?
『ドナさんが入れていたMODですね。……あれ? こんなMODありましたっけ?』
私の自作で未公開。
『なるほど。MODはそのまま使える状態になっていると思うのですが』
メニューかショートカットキーから起動するんだけど。どうすればいい?
『ああ、それは。専用の実行コードを使って繋げば使えるようになります。起動キーワードを決めてください』
「デバッグコンソール起動」で。
『……はい。繋ぎました。現状ではドナさんだけが使えます。起動キーワードは声に出さなくても大丈夫なので、使ってみてください』
どれどれ……。
見慣れたデバッグコンソールの操作画面が目の前の空間に表示される。マウス操作はできないけど、指でタッチして操作できるようだ。
よし。それぞれの機能が使えるかは、後で確認しておこう。一部だけでもデバッグコンソールが使えれば、この先がだいぶ楽になる。
とりあえず、今は閉じるボタンをタッチして画面を閉じておく。
ところで、これと同じ要領で、ゲーム中にあったメニュー画面は開けないのかな。
『あれはゲームだけのもので、こちらの世界には実装してないんですよね』
そうなのか。あれば便利だったのにな。
メニューを置き換えるMODとか入れておけば使えたのだろうか。まあ、ないものは仕方がない。
私のMODについての確認は終わった。次は、オーキッドさんが使っていたMODの確認だな。
『百個以上あるんですよね』
マジか。
とりあえず、リストだけでももらえない?
『読み上げることはできますので、メモの用意をしていただければ』
うへぇ。一覧が書かれた紙をもらうとか、できないの?
あ、いや、もしかして物質界への干渉とやらに相当するのか。
『そうなりますね』
ぐぬぬ。
仕方ない。詳細な情報を聞き出すのはもう少し用意をした後にして、特に注意すべきMODだけ教えてもらおう。
『支配者の七宝』はわかるからいいか。
それ以外で、すでに聞いた中でわかっているのは、輝晶龍を追加するMODと、ダークエルフを追加するMOD?
『輝晶龍の方は単品のMODでしたが、ダークエルフの方は複数の人間種族を追加する『統合型亜人種MODver.3.02』でしたね』
ああ。そんなMODあったな。
知らない種族が存在している可能性があるのか? それとも、配下にしたのがダークエルフだけなら、他の種族は実体化していないのか?
ここで考えてもわからないか。とりあえず覚えておこう。
ええと。他にオーキッドさんが使っていたMODで影響が大きそうなものはあるかな。
『『冒険者MOD』と『魔導学園MOD』が入っています』
……ああ。オーキッドさんが作ったMODだものね。そりゃ入っているか。
それぞれ総合ダウンロード数一位と二位の有名な追加シナリオMODだ。システム的な便利系MODやバグフィクスMODの方がダウンロード数としては上になりそうにも思えるかもしれないが、そういうMODは大体公式に取り込まれて、リストから消えてる。
なお、我が『支配者の七宝』のダウンロード数は、五位から七位辺りをフラフラしていた。公式のMOD置き場が公開されて即座にアップロードした、記念すべきMOD第一号だからな。歴史と知名度だけで順位を稼いでいたようなものだ。
『先程ドナさんが思い浮かべていたシィの様子ですが、あれは『冒険者MOD』の影響ですね。シィに冒険者ギルドの本部がありますので』
王都じゃないんだ。
『王都には土地が余っていなかったので、辺境の村を改造したと言っていました』
へー。
つまり、シィに入り損ねたのはオーキッドさんのせいってことか。余計なことしやがって。
『冒険者MOD』とは、他のゲームやアニメやラノベの影響でも受けたのか、冒険者という存在を追加するMODだ。
冒険者とは、主に魔物を狩ることを生業とする者だ。基本的には少人数でパーティを組んで行動する。大体の場合は定職に就けなかった者が最後に辿り着く仕事であり、その日暮らしの生活をしている者ばかりらしい。
バニラでは冒険者は存在せず、素材としての魔物狩りを行う者は猟師であり、害獣駆除としての魔物狩りは公的な兵団の仕事であった。
『入れたことがないMODの割には詳しいですね』
掲示板を眺めているだけでも情報は入ってくるからね。
でも、『魔導学園MOD』の方はよくわからないな。
『西の果てに魔術師の学校が中心となった都市を一つ追加するMODです。なんか色々イベントも追加されていますけど、大体は都市の中で閉じていますね』
あ、いや、待てよ。一つ思い出した。
『魔導学園MOD』の前提に、『統合型亜人種MOD』があったはず。対応バージョンまでは知らない。
一時期掲示板で話題になっていたんだ。
魔導学園の学園長がヴァンパイアで、これが『統合型亜人種MOD』に含まれる種族なんだけど、既存の魔物にヴァンパイアがいて名前が被っているって。亜人種MODの頃はそれほど問題視されていなかったけど、ダウンロード数二位の有名MODが前提に指定していたことで、問題になっていたんだ。興味がなくて流し読みしていたので、結末は覚えていない。
なお、魔物のヴァンパイアは蝙蝠系の獣人っぽい感じだけど、MODのヴァンパイアはアンデッドタイプだ。そもそもバニラにはアンデッドっていう概念すらないけどな。
『うーん、でも、今の学園長は、オーキッドさんの配下だったダークエルフの少女のはずですよ』
そうなのか。一応気にしておいた方がいいのかな。
ところで、物質界の詳しい情勢はわからないようなことを言ってなかった? 一個人の居場所とかわかるの?
『オーキッドさんから直接聞いた話ですので』
ああ。オーキッドさんも使徒なんだし、今の私のようにデザケーと話くらいしていたか。
他に影響の大きいMODはあるかな。ゲームシステム自体を変更するようなMODとかは?
『そういうMODはありませんね。というか、そういうMODを使っていたら、召喚していません』
それは安心。
他に気になるのは、えーと……そうだ、拠点だ。オーキッドさんの性格からして、バニラの拠点は使わないだろう。何かMOD入れてなかった? 『空中楼閣』? 『海底神殿』?
『オーキッドさんが使っていた拠点は、『賢者の黄金塔』ですね』
え。
『『賢者の黄金塔』ですね』
よりによってか。何で?
『私に聞かれましても。選んだ理由までは聞いていませんし』
ぐぬぅ。
『賢者の黄金塔』は、私が以前作って発表した拠点MODだ。
拠点自体は多機能で使いやすいのだけど、立地が山奥という点だけが欠点だ。オーキッドさんの趣味だと、人間の都市から遠いのは不便じゃないのかな。
いや、オーキッドさんなら虚ろの回廊を使えばいいのか? でもあれは使用者個人だけが対象の転移能力で、従魔は置いてけぼりのはずだが。
『あ、そうです。『スグカエル』が追加されています』
何だそれ。
『使い捨ての転移アイテムです。一回の使用で壊れますが、パーティ全員を登録しておいた場所へ転移させることができます。見た目は名前の通りカエルの形をしています』
何故カエル。
『MOD制作者が女性型魔物にハマるきっかけになったゲームの転移アイテムが、カエル型だったそうです』
ふーん?
便利そうなアイテムだけど、使い捨てなのか。どうやって補充するの?
『主人公のマジックアイテム作成スキルで作れます。ドナさんも作れるはずです』
それはいいことを聞いた。後で確認しよう。
その後もしばらく話を続けたが、気がつけば雑談になっていた。
聞き出すべきことは聞き出したし、何かあればまた神像経由で話をすればいい。やるべきことができたし、その準備も時間がかかるものばかりなので、対話はお開きとなった。
『次は新しく建てられた神殿の神前室を望みます』
間に合えばね、と答えたら、デザケーは頬を膨らませながら金属の神像に戻った。……さすがに神像のポーズ自体は最初のままだったが。
さて。まずは何から手をつけるべきかな?




