マンホール
深夜、誰もいない道を通って帰宅中。
マンホールのふたが、開いている。
誰だ、開けたのは。
危ないじゃないか。
周りを見渡しても、誰もいない。
こういうのってさ、警察とか立ち合いの人とかがいるもんなんじゃないの。
開けっ放しにして事故でも起きたらどうすんだ。
…仕方がない、誰か来るまでここにいるか。
フタのないマンホールの横に立ち、中をそっと、のぞく。
…意外と狭いな。ガタイの良い人だったら、ハマっちゃうんじゃないの、これ。
真夜中という事もあって、マンホールの中身は良く見えない。
ふたは…どこを探してもないな。どうしたんだろう。
最近マンホールのふたの人気が高まっているとか聞いたことがあるぞ。
もしかして盗まれたとか、そういう奴じゃないだろうか。
どうしよう、警察呼ぶか?
…呼んだ方がよさそうだな。
俺はスマホをポケットから取り出して。
「あの、大丈夫ですから。」
!!!
マンホールの中から、声がした。
びっくりさせんなよ、もう!!!
「でもふたがないですよ、こんな暗いところで、危ないじゃないですか。」
「今、コンビニに相方が出かけちゃってて。もう、じきに帰ってきますから。」
「すみませーん!」
あ、帰ってきたみたいだ。…逆光になっててよく見えないけど、おっさんか?
「じゃあ、帰ります、夜遅くまでご苦労様。」
俺は夜道を歩いて、家に帰って風呂に入って寝た。
翌朝、俺は朝飯を買いにコンビニに行こうと昨日通った道を歩いて…あれ。
マンホールが、ないぞ?!
昨日見かけた場所は、ここに間違いない。
親しげなチラシの貼ってある、電信柱の横。
…ちょっと待て、この電信柱、ライトがついてるじゃん!
昨日は消えてたはず。
…ちょっと待てよ。
そういえば、マンホールのふたが丸い理由。
ふたがホールの中に落っこちないように、丸いって聞いたことがある。
チェーンでくっついてて、むやみに動かせないようになってるとかなんとか。
ふたはなくなるはずが…ない!
昨日俺の見たマンホールはいったい?!
「もう開けませんから、大丈夫ですよ。」
!!!
どこからともなく聞こえてきた声にビビって、飛びあがってしまったじゃないか!!
その日以降、俺は足元を必ず見て歩くようになった。
うっかり異世界行きは御免だ。
うっかり捕食されるのは御免だ。
あんたもさ、足元は、ちゃんと確認して歩けよぉおおおおおおお?!