異世界転移「GMコールは届きません!」 <短編> ~エルフの秘湯・前編~
異世界転移「GMコールは届きません!」 <短編> ~エルフの秘湯・前編~
作:すめらぎ
私の名前はリル。
フルダイブ型MMORPGのゲームマスター(GM)をしていたのだが、
いつの間にかGMアバターの姿で異世界に転移していた。
私は聖女イリーナ、洞窟エルフのソフィアと共に温泉旅館へと、
疲れを癒やす為に来ていた。
「そもそも、ファンタジーの世界に純和風の温泉旅館って、どうなの?」
「まぁまぁ、お姉様」
イリーナが私をなだめる。
ソフィアが続ける。
「姉様、これは遊び回。細かい事を気にしてはダメ」
「そういうもの?」
「そういうものです」「そういうもの」
イリーナとソフィアの声がハモった。
私はしぶしぶ、旅館の暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは……って、あれ? ソフィアのお母様」
「ぴんぽ~ん! 大正解。ソフィアの母親のユフィーちゃんでーす。旅館の女将もやってまぁす」
この世界のダークエルフは、洞窟エルフと呼ばれ、肌が青白い。
また、純血種ほど若く見えるのだ。
ソフィアは中学生位の見た目だが、
お母様のユフィーちゃんは小学校生位に見える。
「うふ。どう? ソフィーちゃん、お母さんの着物姿」
「んー。”孫にも衣装”?」
「あら! ありがとう」
(いや、褒めてないから……)
「とりあえず……、お世話になります」
私たちは、ユフィーちゃんに二階の部屋を案内された。
窓からは遠くに雪が残る山脈を見渡せる。
「うん。良い景色だ。これぞ秘境の旅館」
三人でとりあえず、座卓の周りに座る。
「そうだ。お姉様、お茶でもお出ししますね」
「ありがとう、イリーナ」
イリーナはお茶の準備をしてくれた。
「ところで、何でこういう所って昆布茶なんだろうね。あ、イリーナ、私は梅昆布茶でね」
「さぁ、どうしてでしょう? きっと今頃、神様が調べてくれていますよ。あ、少々お待ちを。神託が……。『調べたけれど分からない。緑茶だとゴミが出るからじゃ?』だそうです」
「なんか、いい加減な神さまだなぁ」
「ズズー」
イリーナが入れてくれたお茶を三人ですする。
「ああ、美味しい。やっぱり梅。私は梅の方が好き」
「お姉様、梅みたいな色の髪の毛ですものね」
「!!!!」
「?」
「イリーナにディスられた!」
「ディスっていませんよ?」
「この世界にも有ると良いですね、梅」
「私はもし梅があったら、梅酒が飲みたい……ロックで」
「ふー。暖まる」
ソフィアは一人静かに正座し、昆布茶を飲んでいた。
「よーーし! じゃあ早速、温泉に入りましょう!」
私はお茶菓子を瞬殺した後、皆で露天風呂へと向かった。
番台(=受付)には、エルフのお兄さんが、当然のように座っていた。
「いらっしゃーい」
「あ、スパスだ」
ソフィアが呟く。
「いやいや、旅館の温泉に番台いらんでしょ」
そう突っ込むとほぼ同時に、スパスは金髪のお姉さんエルフに襟首を掴まれ、連れていかれた。
「やれやれ……」
服を脱ぎ、軽くタオルで前を隠して、脱衣場を抜けた。
乳白色のお湯だ。
「あ、これ知ってる。円盤買わないと見えないやつでしょ?」
「お姉様、よく分からないのですが、円盤と言う物を買うと、お湯の濁りが取れるのですね!」
「そうそう。それ目当てで買う人が居るのよ」
ソフィアが呟く。
「最低……」
「ソフィア、それ、私のセリフ……」
三人で並んで身体を洗った。
そして各々髪を束ねた。
私は赤い髪を後ろで束て捻り、頭の上に乗せて軽く紐で結わく。
イリーナは青い髪を全て右側で二重に束ね、紐で結わく。
ソフィアは薄紫の髪を後ろで分けて、上の方で左右に束ねてツインテールにし、先を折り返して一緒に結わく。
(ソフィア、あれ、そんなキャラが平成の時代にいたわね。私のリルって名前を逆に読んではいけないって事かしら?)
皆で温泉に浸かる。
「ふう。生き返る……」
「お姉様、何だかお年寄りみたいですよ」
「そう?」
「はい」
「そういえば話しが変わるけれど、私が八英雄の事を知ろうとすると、いつも邪魔が入るのだけれど……。何か神懸かり的な力を感じるわ」
「お姉様それはきっと、神が設定を考えていないからなのでは?」
「マジかぁ!」
「はい。『先日もストックが枯渇するどうしよう!』という神託を私は得ました」
ソフィアが呟く。
「姉様、私、八英雄の内の七名は知ってる」
「!!!!」
「えっと、キュリアでしょ、スパスの兄でしょ、聖導教の巫女でしょ、ドルイドに、竜……」
「おや? 誰か来たようだ」
ガラガラ
「ユフィーちゃんでしたぁ。一緒に入りましょう♪」
「え? それマズいんじゃ?」
「あらら、こんな400歳超えたオバサンの私の裸なんて、誰も見やしませんよ」
「いやいや。マズいって、マズいって」
「平気ですよぉ。ほらほら」
「ちょっ! ダメ!ダメ!」
後編へ つづく?