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ほぼ日が落ちてしまった夕方の商店街を北斗君と並んで歩いていた。
と言うのも、北斗君がおつかいを忘れて手ぶらで帰って来た為だった。
私と会った時、彼は夕飯の買い物の途中だったらしい。
が、私を連れてそのまま家に帰ってきてしまったのだ。
それで、買い物をするべく二人こうして商店街に戻って来たという訳だ。
「何が食べたい?」
そう聞く私に、
「カレー!」
と北斗君は元気良く答えた。
うむ。
冷蔵庫に何があるかチェックさせてもらってから来れば良かったなと思ったが、もう遅い。
全部材料買い集めて帰るしかないか。
そう思って、八百屋と肉屋、小さいスーパーらしき所に寄ったのだが、北斗君はここらでは有名なのか、行く先々で声をかけられた。
「今日はたくさん買うね。じゃ、タマネギはサービスしちゃうよ」
「あら、今日もお使い?えらいわねぇ」
「お、キレイなおねぇさんなんか連れて、どうした?」
などなど。
すれ違う人とも、何人かと軽く挨拶をしていた。
しかし、しばらくして、北斗君が特別という訳ではないという事がわかった。
良く見れば、あちこちで同じような姿が見られる。
田舎独特の「町民みんな知り合い」という感じだろうか。
都会では信じられない光景だ。
近所の人ですら、ろくに挨拶なんてしない人もいるし、同じマンションにどんな人が住んいでるかなんて、全員は把握していない。
たった、9部屋しかない小さなアパートなのに。
そのギャップに少々面食らいつつ、買い物を終えた私達は、あの喫茶店に戻ってきた。
「ただいま」
と帰ってきた私達を、
「お帰り」
そう言って、英理さんは笑顔で迎えてくれた。
英理さんは、私達の荷物を見て、
「今日のメニューは何にしたんですか?」
そう聞いてきた。
「カレーです。北斗君が食べたいって言うから。あ、キッチンかりますね」
言いながら、私はカウンターの奥に入った。
そこには、たくさんのコーヒー豆とそれを落とす器具、フライパンや鍋なんかもあった。
料理が出来る環境はバッチリ整っている。
感心してキッチンを眺めていると、英理さんが追いかけて来て、
「あの、僕がやりますから」
少し慌てたように言った。
「泊めてもらうんだから、このくらいはやりますよ。作るの結構好きなんで、それなりに出来るつもりなんですけど」
笑顔で答える私の言葉に、
「でも・・・」
と何か言いかけたが、
「一応、味の保障はしますよ。友人にも好評だったんで、大丈夫だと思います」
笑顔全開で言う私に折れて、
「じゃあ、お願いしますね」
と引き下がった。
「笑顔全開」攻撃は、時に、有無を言わせない絶対的な効果があるのだ。
さすがに、いきなり泊めてもらうのだから、何もしない訳にはいかない。
お金払って泊まるホテルじゃないんだから、出来る限りの事はしないと申し訳が立たない。
一宿一飯の恩を、仇で返すわけには行かないのだ。
と、私は心の中で拳を握った。
キッチンから追い出された彼は、店内で本を読み始めた。
そんな姿を横目で見つつ、袋から材料を出していると、今度は北斗君がキッチンに入ってきた。
「どうしたの?おなか減った?さすがに、まだ出来ないよ」
そう声をかけた私に、
「そうじゃなくて、おれも手伝う」
と、言いだした。
この年頃の男の子にしては、ずいぶんと感心した事を言う。