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星の町  作者: えもと
15/18

星の町 2

私は、えっちらおっちら坂を登っていた。


英理さんは店があるので、北斗君と二人で散策に出掛けて今に至る。


この町は、どうやら駅から少し外れると、坂ばかりの町らしい。

緩やかな長い坂道が、縦横無尽に伸びている。

他にあるものといえば、民家。

それ以外には、特にこれと言ったものは見当たらない。


ひたすら歩き始めて、約30分あまり。

一体どこに行くつもりなんだろうか。


「ちょ、北斗君、あとどのくらい?どこまで行くの?」


私の上がった息が、白く空に溶けていった。


「もうちょっと、ほら、見えたよ」


言いながら指をさす方に見えたのは、古い建物だった。


さして大きくも無い長方形の二階建ての建物は、長い間、雨風にさらされていたせいだろう、ぼんやり汚れた白い色をしていた。

その周りには木々と広場がある。

遊具の無い公園と言った感じだろうか。


「ここは?」


「公民館だよ」


北斗君はそう答えて、さっさと歩き出す。

子供は元気だなと思いつつ、北斗君の後に続いて入り口をくぐると、


「おじちゃん、おはよう。今日は誰も使ってないよね?」


北斗君は、管理人と思しきおじさんと話しかけた。


「ああ、おはよう。この間は、運が悪かったね。普段は北斗ぐらいしか使わないのにね」


「ほんとだよ。でもその後、あの人から楽譜もらったから、ラッキーかも」


「そうかい。それは良かったね。おや、今日はお連れさんがいるんだ?」


そう言って、おじさんは私の方を見た。


「どうも」


私は、おじさんにペコリと頭を下げて会釈をする。


「どうも、北斗の知り合いですか?」


「ええ、まあ。そんな所です」


私が曖昧に返事をすると、


「泊まるとこ無いって言うから、昨日拾ったんだ」


北斗君はそう説明した。

いや、間違ってはいないが、何かが足りない。


「またかい?」


おじさんは北斗君にそう聞いた。


「また?」とはどういう事だろう。

前にも誰か「拾って」来たんだろうか。


そういえば、英理さんは私を見ても、あまり驚いた様子は無かった。

あの家では、日常的に人を拾ってきているのだろうか?

そんな事ってあるもんなんだろうか。

いや、普通は無い・・・はずだ。

が、この兄弟ならやりかねない。

などど考えていると、


「まあね。それより、おじさん、鍵かしてよ」


北斗君が言う。


「ああ、はい」


「ありがと。かりてくね。響子ねえちゃん、こっち」


おじさんから鍵を受け取り、奥の部屋へと入っていく。


私も続いて入ると、そこには一台のグランドピアノがあった。


「ピアノ弾けるの?」


「ちょっとだけどね」


質問に答えつつ、ピアノの蓋をガタンと開ける。


「もしかして、とっておきの場所って、ここ?」


「そうだよ。ここの窓から、町が見えるんだよ。」


言われて窓の外を見てみると、全部とは言わないが、かなり広範囲の町が見渡せた。

覚えてもいないのに、どこか懐かしさを感じさせる田舎の町並みが。


「おれさ、ここでピアノ弾いてると、いやな事とか忘れちゃうんだ。響子姉ちゃんは、何か弾ける?」


北斗君はそう言いながら、鍵盤をいくつか指で弾いた。


「うーん。『ねこふんじゃった』くらいは」


私がそう返すと、


「じゃあ、一緒に弾いてみようよ」


笑顔でそう言った。


「ええ?ちゃんと弾ける自信がないなぁ」


「大丈夫だって。やってみようよ」


言いながら椅子の半分を空けて、ぽんぽんとその場所をたたいた。

どうやら、座れってらしい。

まあ、自信は無いけど、やってみるか。



ピアノの長い椅子に、二人で並んで腰をかけた。

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