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星の町  作者: えもと
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夜空 4

上りきった先にあったのは、小さめの屋根裏部屋らしき空間だった。


真っ暗だった階段とは違って、部屋の中は不思議と明るく感じられた。

電気も点けていないのに、だ。


「上、見て下さい」


そう言われて顔を上げ、部屋が明るい原因を理解した。

斜め上に取り付けられた大きな天窓から、月と星の光が差し込んでいたのだ。


「うわぁ・・・」


それを見て、私は思わず声をあげる。


満点の星空に、半月が大きく輝いて見えた。

私が住んでいる所から見えるものとは、全く違う夜空だ。


「星って、こんなに明るかったんですね。知らなかった・・・」


「田舎だから、街灯もあまりないですしね。だから明るく見えるんだと思いますよ」


「こんなに明るく輝く星なんて、初めて見ました」


私が窓の外を見ながら言うと、


「知っていますか?あの星の光が僕たちの目に届くのに、何億年という時間がかかる事。そんな時間をかけて、あの光はここまで来てるんですよ」


彼はそう言った。


「聞いた事はあります。100年だって長いのに、そんなの想像もつきませんね」


「気の遠くなるような時間ですよね。それに比べれば人が過ごす時間なんて、きっと瞬く間です」


「それこそ、あっという間ですね」


「ええ。宇宙の大きさに比べたら、僕はとても小さい存在なんだって感じました。昔、落ち込んでいた時に星を見ながら思ったんです」


彼はそこで一度、言葉を切って、


「短い時間しかないんだから、悩んで過ごすよりも楽しく生きて行こうって。あの星の様に明るくいられるように」


私は黙って話しを聞いた。


「もちろん思い悩む事もありますけど、そればかりじゃ、もったいないような気がして。出来るだけ好きな事をして、笑って過ごしてゆけたら幸せだなって」


彼は、穏やかに笑いながらそう言った。


「好きな事・・・か」


呟きながら、私は考える。


私の好きな事、これからやりたい事とは何だろう。

日々、生活に追われるばかりで、そんな事を考える余裕なんて無かった。

すぐに浮かんで来ない自分に、少し悲しくなる。


「今すぐ見つけなくても、良いんじゃないですか?」


黙って考える私に、彼はそう言った。


「必死に考えてたの、バレました?」


「顔に書いてありますよ」


少し笑いながら、彼は続ける。


「今の響子さんは、そういう時なんだと思います」


「悩む時期って事ですか?人生は短いのに?」


「休憩とでも言った方が良いかもしれませんね。言ったじゃないですか、「悩む事もあるけど」って。悩まない人なんていないと思いませんか?でも、それだけじゃダメだと思うんです。悩んだら、進んでいかないと」


彼の言葉を聞きながら、私は、自分が戸惑っていた事に気が付いた。


突然、得た自由というものに。

自由な時間が無くて辛かったのに、いざ手にしてみると、どうして良いか解らなかった。

何かしたい事があるわけでもない。

先が何も見えない、何にも縛られていない事が不安で仕方が無かったのかもしれない。

我ながら、何とも矛盾していると思う。


「でも、それって、何でも出来るって事かな」


呟く私を見て、彼は何も言わずに微笑んだ。


私も、あの星の様に、明るく生きてゆけるのだろうか。

この先に、何かを見つける事が出来るのだろうか。

「幸せだ」と胸を張って、日々を過ごせる様になるだろうか。


先が見えない不安はある。

それでも今なら、何か見つかる様な気がした。



空を見上げながら、私は心が軽くなったのを感じていた。


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