夜空 2
食事の後、
「宿題は?」と英理さんに聞かれ、渋々と北斗君は自室で宿題を片付けていた。
英理さんはカチャカチャと皿洗いをしている。
私はというと、その横でせっせと皿を拭いていた。
「ここって、料理も提供してるんですか?」
この店は、喫茶店と言う割には調理器具がかなり充実している。
喫茶店、兼台所として使っている様なので普通かもしれないが。
二階には寝室しかなく、店はリビングとダイニング代わりらしい。
「ええ、と言ってもちょっとしたお菓子とか、軽食くらいですけど」
彼はそう答えた。
「へー。英理さんが作ってるんですよね?」
「そうですよ。何とかお客さんにも提供できる腕になりましたし」
彼は笑顔で答えて、最後に「まだまだですけどね」と謙遜の言葉を付け加えた。
「すごいなぁ。お店の経営もやって、料理も作って。大変そう」
「両親を亡くしてから、知識も無く、そのまま店を継いだんですけど、料理もコーヒーも好きなので、趣味がそのまま職になったという感じですね。それなりに苦労はありますけど、好きでやってる事だから楽しいですし、僕には向いてると思うんですよ」
そう言って、にっこりと笑った。
そんな彼を見て「しまった」と思ったが、もう遅い。
この家には、両親が居ないんだろうという事は予測がついていた。
北斗君の歳を考えて、お兄さんと二人暮らしは、少しばかり不自然だからだ。
だから、その事には触れない様に気を付けていたのに・・・。
自分の不用意な発言に後悔しつつ、無言になった私に、
「どうしました?」
と英理さんが聞いてくる。
「あ、嫌な事を、言わせちゃったと思って、その・・・」
はっきり言うのも悪い気がして、口ごもる私に、彼は何が言いたいのか解った顔を見せて、
「もしかして、両親の事ですか?」
念のため、といった感じで聞いてくる。
「えぇ。すみません、変な事を言わせてしまって」
そう言った私に、
「こちらこそ、気を使わせてしまって、すみません」
何故か彼も謝って、「でも」と続けた。
「全然、気にする事は無いんですよ。あれは、もう五年も前の話で・・・」
「わー。言わなくて良いです!」
何事か説明しようとする彼の言葉を、私は途中で遮った。
「聞きたいとか、言わせようとか思ったんじゃなくて、言いたくない事言わせちゃったかなって思っただけで・・・悪い事したなと。だから、言わなくて良いんです!」
自分でもおかしいくらい、必死になって、話を中断させた。
別に、身の上話に興味があるわけでも、聞きたいわけでもない。
彼だって、話したいわけじゃないだろう。
もう過去の事だとしたって、話して良い気持ちになる話題じゃないのは確かだ。
だから、言わせたくないし、聞きたくない。