暗殺者
「話は終わったのか?」
「うん、終わったよー」
コルローが帰ったので、私とリオンはリビングに戻った。
ロナウドに声をかけられたのだが、ドクとミーとエルの姿が見えない。
「みんなは?」(花凜)
「魔法訓練場で遊んで来るそうだ」(ロナウド)
「花凜は暇が出来たら、ドクとミーを練習相手に戦うといいだろう。
実戦の戦闘訓練をすれば、逆にドクとミーも成長するはずだ。
力の強い相手との戦い方を覚えるのに、花凜は丁度いいからな」(リオン)
「そうだね、私も戦うのは苦手だから…」(花凜)
「危険が無いのが1番なんだがな…身を守る術は必要だ」(ロナウド)
私達は、リビングでのんびりお茶を啜る。
何か忘れてるような?
「あ!パパとリオンについてきて欲しいところがあるんだけど、少しいいかな?」(花凜)
「「いいぞ」」(リオン、ロナウド)
意外とこの2人って、雰囲気似てるんだよね…
「何処まで行くのだ?」(ロナウド)
「ちょっと市場まで♪美味しいらしいから、夜ご飯までに持って帰りたい」(花凜)
「わかった、すぐに行こう」(リオン)
「美味しい?持って帰る?」(ロナウド)
リオンがすぐに動き出したので、私もすぐにリオンについて行く。
美味しい物と聞いたら、リオンの行動はとても早い…
コルローとの話し合いが長くなったので、市場に到着する頃には夕方になっていた。
夕焼け空が海に溶けて、白い砂浜が綺麗に茜色に染まっている。
朝市場に来た時は、人が多くとても賑わっていたのに、今では屋台も片付けられていて誰も歩いていない…日本と同じように、夕方の市場は閑散としている。
「あのー…すいません」
市場の職員が片付けをしていたので、うなぎの事を聞こうと思い声をかけた。
「あ!貴方は妖精王の花凜さん!トッポさんが、物凄く感謝をしておりましたよ」(市場の人)
「助けられて良かったです」(花凜)
「怪我をしていた者は、トッポさんにとっては息子のような存在でね…」(市場の人)
トッポは依頼人で、私が冒険者になり初めて仕事をさせていただいた相手だ。
その後うなぎ騒ぎでバタバタしてしまったが、あの瀕死だった男の人はちゃんと治したので大丈夫だと思う。
「あの〜…解体をお願いしてあったのですが…」
市場の中を見渡しても、お肉が少しも無かったので聞いてみる事にした。
「あれは大き過ぎて運べないから、海辺でそのまま解体してるよ。
ミミックさん達も頑張って解体してたから、ほとんど終わってると思う」
「ありがとうございます」
市場にうなぎの肉が無い理由はわかった。
(確かに…あんなに大きいと運べないもんね…)
リオンとロナウドがどういう事?みたいな顔をしている。
確かにまだ何も教えていないので、そんな顔になるのも当然だ。
説明しようかとも思ったけど、質問されなかったのでそのまま向かう事にした。
市場から海辺を歩いていくと、私が生やした竹林が見えてくる。
うなぎから街を守った竹林は、何処か誇らしげだった。
「なんだ?あれは…」
ロナウドが目を丸くして見る視線の先には、周りの風景に溶け込めていない奇妙な物体がある。
厚手の布や大きな葉っぱを使って、うなぎの体を直射日光から防いでくれていたのだろう。
継ぎ接ぎされた洋服を大スケールにしたような、そんな印象を受けるような物で、うなぎは覆われている。
「おー、来たか!物凄く苦労したぞ…やっと今解体が終わったんだよ。
使いを出そうか相談していたんだが、来てくれたのなら丁度いい」(ミミック)
「ありがとうございます」(花凜)
私は解体を任されてくれた人達全員に頭を下げた。
彼等は全員冒険者のようで、言わば私の先輩達なのだ。
これからお世話になる人達に、無礼な態度を取るのは良くないだろう。
「いったいどうやって倒したのか…」(冒険者)
冒険者の1人が不思議そうな顔で、解体したうなぎを眺めている。
ミミックはうなぎの肉を覆っていた継ぎ接ぎ状の布を、数人がかりで剥がしていく。
「これは!何なんだ?」
次第に見えてきた肉の迫力に、ロナウドはとてもびっくりしているようだ。
「うなぎの皮や牙や毒のある所は全て外してあるからな、後は全部食べれる部分だよ」(ミミック)
「美味そうだな…」(リオン)
「うなぎだと?1度だけ食べた事がある…小さい時に一欠片だけだが、あれは美味かった」(ロナウド)
「冒険者の宿で素材は買い取る!解体費用は30人で半日かかったから金貨60枚でいいだろう。
素材は金貨1500枚で買わせていただきたい」(ミミック)
「ありがとうございます」(花凜)
ミミックが金貨の袋を3つ持ってきたので、受け取り鞄に入れた。
解体料金の金貨はまとめてミミックに手渡す。
私がロナウドとリオンを連れてきたのには、ちゃんとした理由があるのだ。
「お肉はパパに売り捌いて欲しい。
保存はリオンが氷漬けに出来るからね♪」(花凜)
「しかし…花凜、こんな大きな物を運ぶ手段がないだろう?
安値でも商人に売るしかないと思うが」(ロナウド)
「いい物があるんだよ〜」(花凜)
渡す時がきたのだ!私はロナウドの前に、魔法箱を取り出す。
「パパが昔使ってた魔法箱だよ」
ロナウドが魔法箱を見て固まっている。
さっきのコルローが妖精王を見た後みたいだ…
「これは!私が金貨3000枚で売った魔法箱じゃないか!」
「魔道具屋さんに行ったら置いてあったんだよ」
(あの魔道具屋のお婆さん…無理矢理安くしようとしてくれてたんだね…)
「それでまた商人できるよね」(花凜)
「ありがとう…花凜…これはな、母さんと頑張って買った大事な魔法箱なんだ…」(ロナウド)
「そうだったんだ…」(花凜)
「う…よかったな…ぅぐ…」(ミミック)
ロナウドは大事そうに箱を撫でている。
久しぶりに帰ってきた相棒のような感覚だろうか…箱に這わせたロナウドの手が、何かを語りかけているように私には見えた。
ミミックはそれを見て号泣している…涙脆い人なのだろう。
「お肉はパパを通して買ってください」(花凜)
「う…わかった…」(ミミック)
ロナウドからは、そこまで安く買えないだろうと思っているのかもしれない…何だかちょっと可哀想だ…
「お肉少し置いていきますので、ここの人で食べてください」(花凜)
「「「「「わーー」」」」」(解体作業員達)
冒険者達は、肉を100キロくらいのブロックで分けてくれた。
リオンはそれを冷凍して、箱の中に投げ入れていく。
作業のペースが物凄く早くて、私はおろおろしてしまった。
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「花凜、本当にありがとう…売ってしまった手前説得力に欠けるが、本当に大切な物だったのだ」
うなぎ回収の帰り道、ロナウドの嬉しそうな顔が見れて私はとても嬉しい。
私の顔も自然と笑顔になってしまう。
私が笑顔だとリオンも嬉しそうなので、良い事尽くめなのだ。
しかし、このうなぎは本当に美味しいのだろうか?
「これで商人できるね」
「このうなぎは、私が責任をもって高く売ろう!」
うなぎの肉は全部で約190t…内臓や食べられない部位を除いたが、大きな鯨の数倍の重さはありそうだ。
「帰ったら皆で食べようね」
「もちろんだ」
帰宅する頃には既に日が落ちていた。
「「おかえりなさいませ」」(騎士の2人)
「ただいま~」(花凜)
騎士の2人が挨拶をしてくれたのだが、そろそろ名前をつけてあげたいと思った。
(何がいいかなー?)
「いかがなさいましたか?」(騎士A)
入口で立ち止まる私に、騎士の1人が声をかけてくる。
「名前をつけたいの…」(花凜)
「名前か…」(ロナウド)
「しかし、見た目も同じだぞ?」(リオン)
「んー…わかった」(花凜)
私は騎士達のお腹に触り、魔力を流し込んでいく。
「貴方達がなりたい姿を想像しなさい。
そのための力は注ぎ込みます」(花凜)
「「おお」」(騎士達)
ビキビキと音を立てて、鎧にヒビが入っていく…
この2人が自分の意思で思う理想の姿とは、いったいどんな見た目をしているのだろうか。
騎士達の2メートルを超えていた身長が、明らかに縮んでいく…2人共身長にコンプレックスでもあったのだろうか?
騎士の1人の甲冑が砕けて、人間の顔が現れた。
整った顔に金色の長髪で、身長は180センチくらいだ。
緑色の目が鋭く、生命力も格段に強くなっている。
「わ、かっこいい」(花凜)
「ありがとうございます」(騎士A)
「凄い…見違えたな」(ロナウド)
「良くなったな、かなり力も上がったようだ」(リオン)
「花凜様のおかげです…ありがとうございます」(騎士A)
ここまで変わるとは予想外だったが、これなら名前をつける事が出来るだろう。
(あ、もう1人も同じ姿だったらどうしよう…)
少し不安に思ったが、その心配はいらないようだ。
もう1人よりも身長が低く、だいたい160センチくらいで安定する。
ビキビキと音を立てて、今度は全身の甲冑が砕け散った。
長い黒髪に焦げ茶色の瞳、純血の日本人のような見た目だが、私の元の姿を大人にしたような感じにみえる。
「女の子になっちゃった…」(花凜)
「花凜様のようになりたくて…そう思ったらこうなりました」(騎士B)
「俺は何か着る物を持ってきてやるか」(ロナウド)
ロナウドは館の中に入って行った。
見た目はひ弱そうに見えるが、こちらも生命力がかなり強化されているようだ。
「私が大人になったら、こんな姿になるのかもね」(花凜)
「きっとそうだと思います」(騎士B)
「花凜の元の姿は知らないからな…こんな感じだったのか」(リオン)
リオンは騎士Bのとある場所に視線を向けるが、すぐに別方向を向いて誤魔化している…
何かと思い私もその場所を見てみると、その現実に打ちのめされる…
「やっぱり…成長しないのかな…」
イメージの大人花凜は、胸だけ大人とは言えないようだった。
私の一言で、その場にいる全員が凍りついた…
私からは今殺気が放たれているのかもしれない…地面の雑草が私を中心に枯れ広がっていく。
リオンも騎士2人も冷や汗を流していた。
「とりあえずコクヨウから服と下着もらってきたぞ」(ロナウド)
扉が開きロナウドが出てくる。
リオンも騎士2人も私を見ないようにして、ロナウドの帰りを歓迎しているようだ…
(まだ話は終わってないよ?)
「そ、そうか!早くて助かった」(リオン)
「一時はどうなる事かと…」(騎士B)
「どうしたんだお前達は…」(ロナウド)
「ちょっと…納得出来ない未来があってだな…」(騎士A)
「…」(花凜)
私はすぐに調理場へ歩き出した。
(名前はおあずけです!)
「花凜様…?」(アカネ)
「しー!今はダメよ!」(ギンカ)
シスターズに見守られながら、私はうなぎの肉を切り分けた。
こんな時は料理でストレス発散しよう…そうしよう!
(んー…とりあえず1切れ焼いて食べるかな!)
「おおおお…」
(おーいーしーいーー!)
脂がのっているのに、サラッとしている!
胃もたれの心配はなさそうだ!しかし体の内部構造が適当な私が言っても、何も説得力はないだろうが…
赤身をレアで焼いてステーキに、脂がのっている部分はハンバーグにする。
うなぎと言うならひつまぶし?蒲焼き?
試しに、蒲焼きを作ってみる事にした。
香ばしく甘辛いタレが食欲をそそる。
試しに1口…
(悪くは無いけどぱっとしない…かな?)
次は酢豚にしようと思ったが、豚じゃないから酢鰻とでも言った方がいいだろうか…
衣を付けてカリッと揚げる。
この頃にはシスターズも一緒に手伝っていた。
うなぎが美味し過ぎて、先程の事はもう頭から離れていた。
「お腹空いた〜」
料理の香りに釣られたのか、ミーが厨房を覗きに来た。
「ミー、なんでそんなにぼろぼろなの?」
中に入って来たミーは全身傷だらけで、私は思わず料理の手を止める。
「ドクとエルと訓練場で模擬戦してたんだけどね…エルの装備反則過ぎない?」
「色々仕込んだからね」
「結界でガードするし、姿消えるし飛ぶし速いし…」
「戦闘系の装備はリオンが考えたんだよ♪何にでも戦いやすいように、単純で尚且つ強いよね」
少しむくれたミーを正面から抱きしめて、体の傷を癒してあげた。
気持ち良さそうな顔で、ミーは尻尾を振っている。
ミーとそのまま話をしながら、食堂に出来た料理を運んで行った。
料理の仕上げはシスターズに任せても大丈夫だろう。
食堂には既に全員集まっていた。
リオンは少し申し訳なさそうにしているが、私は怒っているのでは無い…さっきのは私の八つ当たりなので、リオンは何一つ悪くはない。
なんだか少し寂しい気がしたので、私はリオンの隣の椅子に腰掛ける。
「今日はうなぎ尽くしです」(花凜)
「「うなぎ!!?」」(ドク、エル)
うなぎの存在を知らなかったドクとエルが驚いた。
テーブルに並んだ料理は、今まで食べた事がないくらい贅沢で美味しい…歓迎会よりも豪華になってしまったが、みんなで食べているから美味しいのだろう。
昨日も今日も忙しいかったので、体はともかく疲れた気がする。
(今日もお疲れ様でした)
楽しいご飯の時間も終わり、リビングでゆったりお茶を啜っている。
そんな時ふと思い出す…まだ昨日の夜からエルとまともに話をしていないのだ。
別に嫌いな訳じゃないんだけど…気まずいままじゃ嫌なので、明日時間が作れたら話をしようと思う。
(ちょっと夜の街でも見て来ようかな♪)
私は何となく、1人で家の外に出た。
「花凜様、どちらへ?」(騎士A)
扉を出てすぐに、新しい姿になった金髪の騎士に呼び止められる。
「あ、さっきはごめんね…貴方の名前は、ん~…ヘイリね!」(花凜)
「ありがとうございます」(ヘイリ)
「貴方はコバちゃん」(花凜)
「コバ…まさか!」(コバ)
「そうだよ!私の名前、小橋花凜のコバをあげるよ♪」(花凜)
「あ、ありがとうございます!この名前、一生大事にしていきたいと思います」(コバ)
2人の騎士は嬉しそうに微笑んだ。
「ちょっと街を見てくるだけよ」
「お気をつけて」
ヘイリとコバは私に深々と頭を下げ、私の姿が見えなくなるまで体制を崩さなかった。
(そこまでしなくていいのになー…すぐに帰るのに)
この世界はまだわからない事が沢山あって、街を見ているだ けでも飽きないのだ。
その1つがこれだ!
(やっぱり自動車?)
魔法に頼った世界なのは事実だろう…しかし自動車があるということは、それなりに科学も発展しているのではないだろうか…
(この車ぴかぴかでかっこいいな〜)
目の前の車はタイヤが8個もついていた…日本のトラックのようにも見えるが、タイヤはゴムではなさそうだ…
形はコンボイのように頭が突き出ていて、とても迫力がある。
後部は荷台のようになっているが、屋根は無く人が沢山乗れそうだ。
道中の魔獣対策だと思うのだが、バズーカみたいな武器が6つも付いている。
(こんな物があるのに、馬車も見かけるんだよね…)
私はじっくり観察しながら、車の周りを歩いている。
「なんだお前は?」
車を観察していたら、急に後ろから声がかけられた。
私はびっくりして、両手を万歳してしまう…
「お前はなんだと聞いているんだが…」
「私、怪しい人じゃないよ!」
そうだ、私は人の姿をしているが人では無い…嘘は言っていない。
声のする方へ顔を向けると、そこに居たのは身長140センチくらいの少年だった。
見た目は12歳くらいだろか?私の方が少しお姉さんである!
髪色は明るい茶色で、短髪のストレート。
薄青い瞳が綺麗で、引き込まれるようだった…
「ごめんね…ぴかぴかしてて綺麗だったから…」
私は素直に感想を告げた。
少年は私の顔を見て、何故か赤くなっている…
怒らせてしまったのだろうか?
「そ、そうか…気に入ったのなら、好きなだけ見て行くといい!」
「ありがとう」
私は少年に御礼を言った。
(はぁー…びっくりしたー)
言葉は偉そうだけど嫌味はなく、清潔感のある格好に好印象を受ける。
「名は何と言うのだ?」
「私は花凜だよ?貴方は?」
「花凜か、良い名だ!余は…ごほん!私はリーフだ!」
「よろしくねリーフ」
私達は互いに自己紹介をする。
最初は緊張したが、この子には少し親近感を感じた。
人を惹きつけるような独特な雰囲気と、正義感の強そうな真っ直ぐな瞳が私を安心させたのだ。
(でもこの車って、この子の持ち物なのかな?)
車がとても高級そうなので、普通の人には手に入れられないんじゃないかと思った。
この世界の車にどれ程の価値があるのか知らないが、軽く家くらい買える値段ではないだろうか。
「花凜よ、夜にこんな所で何をしているのだ?」
「夜の街も見てみたくてね」
「この国は、奴隷の商いは禁止されている…しかし人攫いも無い訳ではない!
そなたのような見た目の者が、夜の街を彷徨くのはとても危ないであろう?」
「私のような見た目?」
(え?私ちゃんと人間に見えてるよね?世界樹とはバレない筈よね?)
リーフは私を疑っているのだろうか?
私は少し後ずさりした。
「だ、だから、その…なんだ…今まで、変な奴に追っかけられたりしなかったか?」
(この子まさか知っているの?誤魔化せるなら誤魔化したいけど…う〜ん…困った)
「そうね、2000人に森の中を追いかけられた事はあるよ…」
私は嘘をつけなかった…
「なんじゃと!2000人とな!」
「うん、みんな私の身体が目当てみたいで…でも何とか逃げ切ったのよ?」
「な、な、な、なんて事だ!」
「でもね、友達が守ってくれたんだよ!」
「そ、その友達と言うのは男なのか?」
「とっても強い女の子だよ」
「なんだ、女か…」
リーフは何やら安心したみたいだ。
私は誤魔化したりはぐらかしたりすのが苦手らしい…バレてない事を祈るしかない…
(今日はとりあえず帰ろうかな)
「私そろそろ帰ろうかな〜」
「危なくはないか?家まで送っていくぞ?」
リーフがとても心配そうな顔をしている。
紳士的で真っ直ぐで、これから良い大人になりそうだ。
帰りは近くなので、危なくはないと思うけど…
(リーフが心配そうにしているし、送ってもらおうかな)
「ありがとう」
私は笑顔で返事をした…何故かリーフが更に赤くなっている…
「リーフ?」
「あ、すまない!では行こう」
リーフはしっかりエスコートしてくれるみたいだ。
私に手を差し出してきたので、私は少し戸惑う…
(繋いだ方がいいのかな?リーフは子供だけど、いきなり手を繋ぐのは緊張するよ)
私は急に不穏な気配を感じた…
(何…なんかザワザワする…)
辺りに殺気が溢れ出した。
その殺気は私に向けてではなかったのたで、一瞬判断が遅れてしまう…
狙われているのは目の前のリーフだ!
「危ない!」
「な!」
リーフに向けて飛び出す人影…日本刀のような物を振りかぶり、リーフの首を飛ばそうと横薙に刀を切り込んでくる。
私は身体強化で強引に間に割り込んだ!
――――ガキン――――
「チ!護衛は始末したんじゃなかったのかよ…」
リーフに刀を向けた暗殺者の男が、苛立ちの声をあげた。
間一髪で、リーフの代わりに私が斬られる。
「花凜!」
「大丈夫」
私はリーフを庇うのに精一杯で、肩を斬られてしまった…しかしコートのお陰で無傷だ。
もしコートが無くても無傷だとは思うが、そこは女の子として秘密にしておきたい…
「リーフ怪我は?」
「おいおい、こっちは無視かよ…」
私はリーフに顔を一瞬向けて様子を見る…しかしあまり余裕は無いのだ…
(この人、ドクちゃんくらい速いな…どうしよ)
「きゃあああ」(通行人)
事態に気づいた女の人が、大きな悲鳴をあげた。
「貴方はだれ?」(花凜)
「とりあえず死んどけ!」(暗殺者)
リーフを狙った暗殺者は、全身真っ黒の布を纏い特徴が掴めない。
低い声から男だとは思うが、それ以外何もわからないのだ。
私は暗殺者に何者か訪ねたが、素直に答えるとは思っていない。
少し頭を整理する時間が欲しかったが、暗殺者は問答無用で飛びかかってくる。
「花凜!下がれ!逃げろ!」
リーフが私の右の二の腕を掴んで引っ張った。
(ちょっと待って余裕無いんだから!)
掴まれた右腕で、リーフをそのまま抱き寄せる。
私は左手を暗殺者に向けて、コルローから貰った魔道具を発動した。
「ぐ、なんだ?」
暗殺者は空中に捕えられ、身動き出来なくなった。
ただの運搬用魔道具だと言う話だったが、私が使えばここまでの事が出来るのだ。
「チ!今度は魔道具かよ!何なんだよお前は」(暗殺者)
「貴方こそ何なの?」(花凜)
暗殺者は黒い霞に包まれた…魔道具でしっかり捕まえていたはずなのに、急に手応えが無くなってしまう。
折角捕まえたのに、気付いたら脱出されて距離を取られてしまった…
「花凜、お前は何者なのだ?」
リーフが今はどうでもいい質問をしてくる…私は本当に余裕が無いので、頭の中がパニック状態だ…
表情に出さないだけ褒めて欲しい…誰に?あ!
『リオン!助けて!』
『ん?何処だ?』
『家を出てすぐ右真っ直ぐ!』
『わかった!』
高鳴る心臓?私は心臓を作ってないので…リーフの心臓の音だろうか?
早鐘のような心臓の鼓動が、リーフを通して私に伝わって来る。
リオンに念話で救援要請をしたので、これからは時間を稼ぐ戦いだ。
(創造生命魔法…)
私の魔力が石畳の地面に浸透していく。
こんな場所で魔力の遮断を解けば、街は大変な事になるかもしれない…限界までは我慢するが、いつまで堪える事が出来るだろうか?
小規模になってしまうが、出来る範囲で魔法を行使した。
(早く早く早く~)
石畳の隙間から、淡い水色の光が溢れ出した。
――――ボコボコ――――
イバラの蔦が、石畳を押し退けて飛び出してきた。
私とリーフを起点にして、360℃死角なくイバラが展開される。
「なんだよそれは…」
強靭なイバラが唸りを上げて、暗殺者の男に叩きつけられていく。
暗殺者を捕らえたと思ったが、見切られて尽く避けられてしまった。
(うぅ…戦闘って苦手…本当に)
「こんな魔法見た事ねぇ、そんな情報ねえぞ畜生!」(暗殺者)
「もがむむ!」(リーフ)
暗殺者が憎々しげな声を張り上げている。
リーフは私のまな板…みす!巨乳に埋めているので喋れないのだ。
「おい!いつまでやってんだよ!」
「誰だその女…」
「知らねえよ、勘弁して欲しいぜ」
「あのコートは!」
(ピーンチ…新手が3人やってきた…勘弁して欲しいのはこっちだよね?コートはほっといて下さい!あげません!)
いつから居たのかわからない…急に現れた新手に、私の焦りはピークに達する。
このまま戦闘になれば、私はリーフを守るのに魔力を解放するだろう…
「何か来るぞ!」
暗殺者は全員黒布を纏い、その正体はわからない…実力は相当なものになるはずだ。
冒険者で言えば、多分ナンバー持ちクラスだろう…
新手の暗殺者達は、民家の屋根の上で周囲を警戒していたので、リオンがここに向かっきているのに気づいてしまった。
「危ない気配がする!逃げるぞ!」
リオンは魔力を解放していないのに、リーダーっぽい男は危険を感じたようだ。
その男の言葉を聞いて、暗殺者達はすぐに行動に移す。
逃走しようとしたところで、遠くからリオンの氷の魔眼が発動した。
「なんだってんだ!」
私と戦っていた男が、路地裏に逃げ込んだ。
しかし一瞬逃げるのが遅れたようで、リオンの魔法に片腕を凍らされている。
加減など全く無かったのだろう…その腕はすぐに砕け散った。
「あああぁああ!」
激痛を意思の力で捩じ伏せるように、暗殺者の男は空に吠える。
暗殺者はリオンの死角に隠れると、そこから私を睨みそのまま逃走した…
「花凜!」
「リオーン…怖かった〜」
駆けつけてくれたリオンを見て、私は安心した…
リーフをポイ捨てして、リオンに抱きつく!
リオンは何もわからない表情だが、とりあえず私を抱きしめ返してくれた。
「どんな状況だ?」(リオン)
「状況わからないのに、魔眼使ってくれてありがとう…ごめんね」(花凜)
「すまなかった!巻き込んでしまった…」(リーフ)
リオンは私の無事がわかると、ホッとした顔になった。
いきなり切り札を使うなんて、リオンらしくないのではないだろうか…しかしあの距離なら、リオンが何をしたのか敵からはわからなかったと思う。
リーフが私に謝ってきたが、無事だったので何も問題は無い。
今度からは必要がない限り、夜の一人歩きはやめようと思う。
「夜道って、こんなに危ないんだね…勉強不足でした!気をつけて帰るね!またねリーフ」
「なんだかわからんが、夜は危険が多いからな…帰るか…リーフとやら、またな」
私とリオンはリーフに別れを告げた。
しかしリーフは、複雑な顔をしているようだ。
「どうしたの?リーフ?」
「あ、いや、その…」
何かリーフの様子がおかしいような?
「大丈夫だよ?私気をつけて帰るから!リーフの言ってた事わかったもん…夜道は暗殺者に気をつけろって事だよね?」
「いや、あのな…余の常識がおかしいのか?」
質問に質問を重ねてきたリーフ…難解な問いだ…
面倒事に関わりたくは無いのだが、ここは大人しく話を聞いてあげよう。
「どうやら護衛は殺られたか囚われたようだ…余の戦闘能力は低い…すまないが、安全な教会か絆の宿か…もしくは公爵邸まで連れて行ってもらえぬだろうか」(リーフ)
「凄い…リーフは護衛さんとか居たんだね…私は教会も公爵邸も場所知らないから、絆の宿でいいかな?」(花凜)
「うむ!よろしく頼む!」(リーフ)
私はリーフを、絆の宿まで送る事を了承した。
確かに折角助けた後で、すぐに狙われたのでは寝覚めが悪いだろう。
「では私も行くとしよう」(リオン)
「ありがとうリオン」(花凜)
今日だけでどれだけ動いたのだろう…
私達は絆の宿に向かって歩き出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「おーいミミック、リオンだ」
「おう!入ってくれ」
ロナウドの真似だろうか?リオンはミミックの扉の前まで来ると、大きく声をかけた。
中に入ると、ミミックは巨大な剣を磨いていた。
ミミックの愛刀ミミック丸である…今勝手に名付けました。
「花凜さんも居るじゃないか!うなぎ美味しかった!みんな凄く感謝してたぞ…是非嫁に」(ミミック)
「嫌です」(花凜)
「ダメだ!」(リーフ)
「即答!そして誰?」(ミミック)
初対面の時も口説かれたが、あの時よりは仲良くなれた気がしないでもない。
とりあえずリーフを連れて来てしまったが、路地に車が放置されたままだ…通行人の邪魔かもしれない…
ミミックの口説きにリーフが反対する…しかしお父さんポジションは、既に埋まっているのだ。
「道端で襲われてて、連れてきました」
「なるほどな…全然わからん」
私の説明に冷たい返しをしたミミック…減点1…
ミミックはリーフを見て、椅子に腰掛けた。
多分厄介事だと判断したのだと思う。
「急に押し掛けてすまない…余はリーファウスだ」(リーファウス)
「リーフじゃないの?」(花凜)
「!!?」(ミミック)
「今まで隠していてすまない…しかし正体がバレるわけにもいかないからな…」(リーファウス)
リーフの名前は本当はリーファウスらしい…
ミミックは、リーファウスの名前を聞いて驚愕している。
私は全然話の流れがわからない…
「リーファウス?正体?リーファウスって誰?」(花凜)
「私も知らんな」(リオン)
「!!?」(リーファウス)
やはりリオンも知らないようだ。
ミミックはびっくりのあまりに、さっきから口をあんぐりさせている…
リーファウスも私とリオンにびっくりしている…
「余は…誰なんだろうな…」
リーファウスは混乱しているみたいだった。
「花凜さん、リオンさん…
リーファウス様はラグホーム王国の王子様だよ」(ミミック)
「じゃあ偉い人なんだね」(花凜)
「偉いんだな!」(リオン)
「あー…リーファウス様、2人は特徴なのでお気になさらないでください!」(ミミック)
「…うむ」(リーファウス)
なんだか微妙な空気になったが、私もリオンも悪い事はしていないはず…
「それで、リーファウス様…今日はどういった御用向きでしょうか?」(ミミック)
「実は、護衛とこの街を視察しておったのだが、乗り物が調子悪くなり、護衛が乗り物の確認をしていた。
余は中で待っていたのだが、花凜が余の乗り物を観察していたので、外に出て声をかけたのだ。
しかし、身分を偽る必要は無かったな…
花凜に声をかけた事で、護衛は気を利かせて離れているのかと思っていたが、どうやら殺られたか囚われたみたいだ…
暗殺者が余を殺しにきたのを見て、花凜が助けてくれたんだよ」(リーファウス)
リーファウスの説明を聞いて、ここに来るまでの流れがリオンとミミックに伝わった。
「それでな、花凜に安全な場所までの護衛を頼んだのだが、教会と公爵邸の場所は知らないらしく、絆の宿に来た次第だ」
「状況はわかりました…リーファウス様、お立場故狙われる理由は多いと思われますが、もしかして…いえ、滅多な事は言うべきではありませんね…」
なかなか難しい話だ…というのも、私達はこの国の事を良く知らないから。
リオンも街の名前くらいしか知らないだろう…
ソルに入ったのも、私のためだからだ。
「きっと今回の襲撃は、計算され尽くしていたんだろう…花凜を見て、情報に無いとか何とかって言っていた…」(リーファウス)
「そうなると、早急に公爵邸まで護衛をさせていただいた方がよろしいでしょうか?」(ミミック)
「うむ!よろしく頼む!」(リーファウス)
「やめた方がいいと思うよ?」(花凜)
「私もやめた方がいいと思う」(リオン)
「!!なんでそう思う?」(ミミック)
私はさっきの襲撃者を思い出す…やっぱり変だ…
「私が駆けつけると、すぐに暗殺者は逃げた。
それが街の外ではなく、街の中へだったからだ…
裏道を使い逃げるのはわかるが、死角まで選んで道を決めるとなると、この街の事を知りすぎていると思うのだ…」(リオン)
「私もそこが疑問、それとこのコートの事を知っていた。
このコートはこの街の人には有名なんでしょ?」(花凜)
「…という事は、犯人は街の人間を雇ったって事か…?」(ミミック)
「ただの街の人間かどうかわからないよ?
実力が、ドクちゃんやミーちゃんくらいあったもの…
そんな実力者を匿って、街を自由にさせるなんてなかなか出来る事じゃないと思う」(花凜)
「なんだと!」(ミミック)
ミミックはこの短い時間に、何度驚愕したのだろうか?
驚き過ぎて、目がずっと見開いている。
暗殺者達はとても強かったのだ…
この街を良く知っている事からも、ソルに長い間潜伏しているのかもしれない…
「あの2人くらいの実力のある者を抱えている人間など、多いとは思えないがな…
犯人は公爵の仕業に見せかけて殺した…と、見せかけた公爵じゃないのか?」(リオン)
「リオン、私眠くなってきた…」(花凜)
「そろそろ帰るか?」(リオン)
「うん、帰ろう」(花凜)
「よしよし」(リオン)
何だかリオンがとても過保護な気がする。
私は過保護モードのリオンに甘えてくっついた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」(ミミック)
私はいつになったらこの世界でのんびりできるのだろうか…




