銀山であうあう
帰省ついでに石見銀山遺跡まで足を延ばしてきた。
約20年ぶりに足を踏み入れた石見銀山、大森の町は昔と変わらず世界遺産だ何だというバブルみたいなものを感じさせずそこにあった。
この地に足を踏み入れたのはたった2回だ。なぜだろうか、とても懐かしく思える。
街並みは江戸時代の建物がそこかしこにあるのだが、実際には昭和の頃に手を加えたものや大正昭和期に建てられたものが多い。
なのだが、青春時代をここで過ごしたかのような……そんな感じがした……。
「お帰りなさいませ……殿……」
どこからかそんな声が聞こえた……。
周囲を探るように見渡す……しかし、誰もそこには居ない。時が止まったかのような古い街並みがそこにあるだけだ。
「こちらでございます……殿……」
今度は確かに聞こえた。
振り向くと先程までそこには居なかった筈の存在がそこには居た。銀髪の美女だ。
「君は誰だ?」
そう尋ねると彼女はふっと笑った。とても美しく、そして可愛らしい微笑だった。
「もう一度尋ねる、君は誰だ、何者だ?」
彼女が人間ではないと直感が告げている。しかし、禍々しいものは一切感じない。何だと言うのか。
彼女をよく観察する。
長く美しい銀髪に黒い着物姿。テレビでよく見るようなタレントが裸足で逃げるような美女だ……。いや、美少女か?
だが、彼女の瞳は赤く、肌も透き通るほど白い。
どう見ても生身の人間だと思うことが無理だろう。
「殿、そんなに熱心に見られますと恥ずかしゅうございます」
「質問に答えてくれ……君は……」
彼女は再びふふっと笑う。
「思い出してくださいませ、殿……」
彼女の言葉の意味を探ろうとした瞬間のことだった。
――脳裏に凄まじい勢いで見たこともない光景がフラッシュバックした。
「思い出してくださいましたか……殿?」
彼女の言葉とともに送られてきた生々しい動画……記憶……で自分という存在が何者であったか思い出させられた。
「そうか……俺は……」
「はい……思い出していただけましたね……我が殿、尼子晴久様……」
戦国時代、尼子家、大内家、毛利家との間に銀山をめぐる争いがあった。最終的には銀山争奪戦の勝者は毛利家となったが、かつての俺、尼子晴久は存命中、毛利家に銀山を奪われることはなかった。銀山の発展期であった頃のほとんどは尼子家による統治下であったのだ。
「そうか、君は……」
「ええ、銀山の精霊……あなたから頂いた名では白露……」
「久しいな……」
彼女は先程までの笑みとは違い、心を許した相手にだけ見せる笑みを浮かべてる。
「長くお待ちしておりました……」
それが彼女との再会であった。
最初は銀山と言えばあの男、ご存じ、『銀命、石見銀山は俺の嫁』でお馴染みの本城常光さん(石見在住)を主人公にしようと思いましたが、銀命のこの人だと話を創るの難しいなと思ったので、主家筋の尼子晴久さん(出雲在住)に変更しました。
ええ、実際に石見銀山に年末に行ったときに思いついた構想なんですけどね。
まぁ、「明日も葵の風が吹く」との兼ね合いもありますので、更新間隔は開くかもしれません。その辺りはご容赦を。