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水と僕

作者: 郁多 述

   「水は僕の」

               

 

 僕は気付いたんだ。水という存在は僕にとってかなり大事なものだということを。

 だから、もっと彼(彼女かもしれない)と仲良くしようと思い立った。

 まずは挨拶代わりの握手を試みた。結果、手ごたえのないまま手が濡れた。

 それなら外国風にハグで挨拶を……既に結果が見えているのでそれはやめておいた。

 最初からコミュニケーションができないだなんて、なんて食えない(飲めないのが正しいかもしれない)やつなんだと思う。ここまで掴みどころの見つからないやつだとは正直頭の片隅にもなかったため、僕はじっくり作戦を考え、そして次の行動を思いついた。

 物理的に掴めるようにするために、凍らせることにした。

 ……なんてクールなやつなんだ。こんなに冷たい堅物になるなんて、まるで別人というか別物じゃないか。この作戦も失敗に終わった。

 

 心を入れ替えてもらうためにも、一度思いっきり温めてやろう。強烈な温もりに触れれば水のやつもきっと今度は……。

 なんか今度は、すっごい暑苦しいやつになったなあ。熱血漢というかなんというか、うかつに触れると火傷してしまいそうである。煮えたぎった感情が前面に出ていて、なんとも接しづらいやつへと変貌を遂げてしまった。

 ここでまたどこにあるのかを冷やしてやろうという考えは甘い。僕はここであえて、更に熱くしてやろうと強烈な温もりを与え続けた。水は化け物による咆哮に似た音を響かせながらどんどん自身を煮え滾らせている。

 水と仲良くなりたい一心で行動しているが、果たして正しい行動といえるのだろうか。目をぎゅっと瞑って熟考している僕の耳に、水の方向は次第に聞こえなくなってしまった。弱弱しい乾いた声へと徐々に変わっていった。僕が目を開けると、状況が一変していた。

 あれ、どこにいったんだ……水。

 直接火に当てるのは可哀想だと思い、鍋に入れてあげていた水は姿を消していた。そこにはむわっとした暑苦しさが残っていて、湿気が肌でわずかに感じられる。空気と一体化することでこの場から逃げ出したようだ。今回僕が水に強いていた歩み寄るための行為は、どれも自身を犠牲にしなければ乗り越えられないものだったのだと悟った。

 水は僕の大事な存在で、親友と呼べる存在になってもらおうと頑張ったが、水にとっては重荷であり求めていないものだったことが残念である。だったら、水から見た僕はどう映っているのだろう。水面にどう映し出される存在なのだろうか。

 

 僕は、水の……。


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