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ライフ・ァ・ライフ  作者: ばんこ。× つぶらやこーら × 緋和皐月
2/5

忠実

作:つぶらやこーら

(ちょこっと編集:緋和皐月)



 俺は女の尻に敷かれていた。



 あ、今、こう聞いただけで引いただろ、あんた。

 引いてない? 本当だろうね。

 とにかく、俺は女の尻に敷かれていたんだよ。自分の上に乗っかってもらい、その重みをじっくりと味わう。

 相手から去っていかない限り、接点は失われない。なんとも絶妙なポジションだと思わないかい? 俺はかつて、そんな立ち位置だったのさ。


 ん、どうした? 変な顔で俺を見て。

 冗談は顔だけにしておけ? お前にまたがる女などいるか?

 おい、勘違いするなよ。確かに彼女の重みは感じたが、あんたが考えるような、やましいことなど、一切やっていないぜ。

 だいたい、そんな変態チックなことに付き合ってくれる女性が、この世にいると思っているのか? 時には、はいて捨てるほどいる、と喩えられるが、いささか女性の皆さんに失礼だと思わんのかね、まったく。

 なに、さっきと言ってることが違う? そりゃ、お前さんがせっかちなんだよ。あるいは想像力が足りないのか……。まあ、続きを聞きねえ。


 俺は確かに言ったぜ。「女」の尻に敷かれていた、と。「女性」とは言ってない。

 つまり、人工的な「女」というわけさ。

 あ、今度こそ引いただろ。悪趣味だって言いたいんだろ!

 あんた……俺が節操もなく、誰にでも身体を許す変態ヤローとかって思っていやがったのか?

 安く見られたもんだな。どうせ味わうならば、職人の手による至高の逸品を、という欲求があんたにはないのか? 少なくとも、俺にはあるね。女なら誰でも、なんて考えは吐き気がするわ!


 そう、つい先ほどまでは、俺は人工的な「女」の尻に敷かれていたのさ。

 さすがは職人芸とでもいうべきか、接する俺自身がぶるっちまうくらいの、いい女だった。これで相手がバランスの崩れたブスだったりした日には、己の不幸を呪うしかないね。限りある時間を、醜女に踏みにじられるなんてよ……考えただけで、寒気がしてくる。

 まあ、美人の常って奴で、彼女はツンとお高くとまってた。もちろん、俺も敷かれる側として失礼がないように、おめかししてもらったんだぜ。専門家の手を借りてよ。至高の女に敷かれる至高の俺。素晴らしい図式じゃないか。


 どうしたい、あんた。今度は近寄って……あ、いだだ、なんで俺を引っ張る! 説教のつもりか? 確かに重みを失った俺は、軽いヤツにしか見えんだろう。だが、自分より下と見るや実力行使に出るなど、恥を知れ! たわけ!

 まったく、乱暴な奴だな、あんた。話はちゃんと最後まで聞け。どういうしつけを受けてんだ。


 ま、物理的な重さを認める俺だ。物理的な力ってのは否定しねえよ。気に食わねえけどな。いつだって力は正義って風潮はある。結果が確実に出るんだ。言い訳もできねえ。

 俺とあの女の仲も、そんな感じだ。人工物のお決まりってもので、あの女は自分の考えって奴を持っていない。好き嫌いなんぞもない。

 だから俺みたいな奴に腰かけても、誰かが自分に手を出してこようと、身じろぎ一つもしやしない。言われるがまま、流されるがまま、というわけさ。美人は得だねえ。向こうから群がってくるんだから。


 あとはわかるだろう。あの女は力づくで連れていかれちまった。

 尻に敷かれることしか知らねえ、無力な俺に止められるわけがない。

 必要なところだけいただいて、あとはポイ。そして、文字通りの腰ぎんちゃくだった俺は、放り出されて、あの女の残り香だけを味わいつつ、あんたに会ったってわけさ。


 さて、俺の話はこれで終わりだ。ありゃ、まだこんな変態に用があるのか?

 なんだ? しきりに俺を嗅いで。ははあ、さっきの彼女の残り香って奴が気になるのか?

 ようやく、あんたのオス臭いところが見えたな。安心したぜ。いつだって、美人の香りってものは、いいもんだ。


「マックスー、ごはんよー」


 おっと、あれはあんたを呼んでいるんじゃないのかい?

 香りじゃ腹は膨れねえ。早く行ってやれ。

 ああ、もしかしたら、あんたもあの女に出くわすかも知れん。その時には俺の話を少しは思い出してくれよ。

 いや、別に俺のことは、あの女に話さなくていいさ。一方通行で、返ってこない思いほど、空しいものはねえ。

 なに、会ったら伝えておく? ふふ、予想以上に甘ちゃんだな、あんた。

 ま、礼を言うぜ。悪い気はしないし、今更ながら、はっきりわかったんだ。


 俺に、あんたに、職人に、あんたの家族。

 あの女みたいな「甘いもの」が好きな連中に、根っからの悪い奴はいないってことがな。

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