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徒然なるままに、キーボードを叩いたもの

寒い夜に

作者: 亡霊

 妥協して、諦めた先に何がある。

 

  何かはあるのだろう。世界は思ったより暖かに人々を包んでくれているのだから。

  妥協しても、別の妥協点が待っているだけだし、諦めても、別の何かには手が届きそうなのだから。探せばいつまでも何かは見つかるし、欲すればどこまでも高く何かが(そび)え立つ。

  人生は登山と違って山頂が無い。もしくは、登山の最中にも登っている山が変わる。

  こんな長い夜も、きっと誰かにとってはとても短く、かけがえのない一夜となるのだろう。

  つまり意識の問題だ。一人一つの脳内で、世界は完結しているのだから。

  つまり価値観の問題だ。ある人にとって、時はまさしく金なのだろう。またある人にとっては、金以上の価値があるのかも知れない。しかしある人にとって、時など枷でしかない。命を繋ぐ枷。自らそれを切り捨てる力も無いため、ただ枷を見つめることしか出来ない。

  見つめたところで何も起きない。だって起こさないから。理解している、が、行動しない。動けないのだろうか、動かないのだろうか、それとも動こうとしているのに、そう見えないだけなのだろうか。わからない。

  同情も理解も出来ない。だって全てが違うから。良く言えば個性、悪く言えば優劣。皆違って皆良い。皆違って皆悪い。

 

  何が悪い?良いんだよ、あなたにそう見えないだけで。

 

  じゃあ悪い。私にそう見えないのだから。


  どちらが正しいか、決めるのは多数決だ。どちらかに手を上げて、上がった手の多い方が正しいし良い。

  横暴かもしれない。じゃあ、横暴の何が悪い。これを決めるのも多数決だ。いくら間違っていると叫んでも、上がった手の数が全てだ。必死になって上げたって、ただなんとなく上げたって、同じ一という数になる。

  三つの選択肢、手を上げる、手を上げない、参加しない、今回なら、このどれかを選ぶ。ゲームと違って選ばなくても物語は進むが、ゲームと違って道のりは不鮮明だ。

  でも、だ。ゲームと現実、違うのはそこだけだ。攻略情報がネットで調べられるのも、レベル上げも、リセットだってその気になればできなくはない。最近のゲームは自動的にセーブしてくれるのだから、気に食わない選択をしてしまったら最初からやり直すか考えなければならない。

  選択の重さが違う、攻略法の信憑性が薄い、レベルアップしたときに音が鳴らない、そんなところも違うと言えば違うが、それは些細な問題だ。

  問題は選択。選択肢は自分の努力でつくり、その中で一番良いものを予想し、選択する。その回答が正解だったのかもわからず、間違っていたのかもわからず、つまりは何もわからないまま、ストーリーを過去に描き続ける。

 眼前に広がる真白なキャンバスに、鮮やかだったり濁っていたりしている水彩絵の具で、必死になったり疲れたり無心になったりしながらも、ただただ何かを描き続けている。

  振り返れば、今までに描いた不細工な絵画が、額に飾られたり、野ざらしにされたりで、展示されている。

  展示館はどこまでも広がっているようだけど、途中にロープで立ち入りを禁止されている所があったり、黒く塗り潰されている絵があったりして、全部は見ることができない。

  見る価値が無いから、見るのが怖いから、見ると変わってしまうから、他にも沢山ある理由のせいで、今まで描いてきた絵画の殆んどが閲覧できなくなっている。

  こんなに寒い冬の夜に、かじかむ手で描く絵なんかは、丸めてどこかに投げ捨てられて、ゴミ同然になるだろう。

  キャンバスの数には限りがあるし、絵の具だって無限には無いけれど、一枚一枚を丁寧に描こうとは思えない。

  けれども、こんな寒い夜すらも羨むようになった頃に描く最期の絵ぐらいは、丁寧に描くのだろうな。妥協して、諦めた先にあった何かを。


 

 

 

 

 

 

 

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