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No.001 出会イ

視界いっぱいに映るオレンジ色の液体。


口元に雁字搦(がんじがら)めにされた酸素マスク。


ふわふわと浮く自身の体と髪の毛。


腕に数え切れない程ついているコード。


頭に入り込んでくる記憶、感情、知識。


キリキリと機械仕掛の心臓が脈打つ。



虚ろだ。


霞む視界の中、最後に見えたのは気色の悪い笑みを浮かべた研究者だった。



♦︎



味のしない食事。


頭にインプットされた美味しい、という状態を口内の食物に重ね合わせて、働かない胃に押し込める。


右手首についている鉄製の枷。


まるで僕を離さないと言っているかの様に執拗に絡んでくる。


真っ白な部屋に僕は一人、ポツンと机に向かって座っていた。


食べ終わったと判断された食事は消え去り、目の前にメニューが浮かぶ。

迷わず、『読書』の項目を選んだ。


目の前に現れた大量の本。


その一つを手に取り読む。


『眠れる森の美女』というタイトルの童話だった。


呪いにかかったお姫様が王子様のキスで目覚めるというストーリー。


すぐに読むのを辞めた。

理由は単純明快、つまらなかったからだ。


次に、茶色の表紙の本を手に取った。


今度は『ピノキオ』だった。


操り人形が本物の男の子になる為に頑張る話だ。


これは読む。


どうやってニンゲンになるのか興味があったから。


魔法の力でニンゲンになったピノキオを少し、羨ましいと思った。


だが、そんなチンケな感情はすぐに消え去る。


読書はもう辞めた。


次は睡眠にしようか、運動にしようかと迷う。


考えていると、メニュー画面が赤く染まった。

真ん中に点滅する<ERROR>の文字。


侵入者のセンサーがけたたましく鳴り響く。


僕の様な実験体は自室で待機、合図があれば戦闘用の実験体が出動する。


勝手に片付く、そう思っていた。


突如として吹っ飛ばされる扉。


巻き込まれそうだったので身体守護システムを稼働させて自分の身を守る。


役目を終えた分厚い壁は自動的にするすると地面に沈む。


吹っ飛んだ扉の向こうは砂煙が濛々と立ち込めていて、辛うじて誰かいるのが把握できるだけ。


その人影はコツコツと部屋に入って来て、僕の前にまで近づいてきた。


「............」


その人は何かを言うわけでも無く、ただジッと僕を見つめていた。


僕も見つめ返した。

こういったシュチュエーションに対するプログラムをまだされていないからどういった反応が正常なのか、今の僕に組み込まれたデータだけでは判断できない。


「......お前も、人造人間......なのか?」


辿々しい言葉を分析した結果、若干の諦めた感情の類が含まれている。


その問いにYESかNOのどちらかだと言われれば、YES。

コクリと頷いた僕に人は銃口を向けて来た。


「お前にはなんの恨みも無ェが、人造人間って言うことはあのクソジジイ共の言いなりなんだろ」


決めつけた様な口振りに僕は疑問符を浮かべた。


僕は......僕は?


「......僕は、マスターの言いなりなのか?」


わからない。


僕は人造ではあるが人間でもある。


この前見た本にはニンゲンは自由で、誰かの言いなりになるのは良く無いことだと書いていた。


「......どういう意味だ」


「理解ができない。僕は何故破壊されなくてはならないのだ?」


問われたものには答えず、僕の疑問をぶつける。


マスターの命令は絶対だという回路が何度もインプットされたが、僕の知識の回路の邪魔になるので何度も削除してきた。

僕はマスターの命令に自分の意思で逆らえる。


他のミンナがマスターの奴隷の様になるのを見て何故か心臓がいたんだ。

『あんな風になりたくない』ただ、それだけは思った。


そんな僕をマスター達は『不良品』又は『未完成』と称していた。


「......僕は、不良品、なのか?」


「っ!」


少し落胆して言葉を零すと、人は僕の手首を掴んで顔を近づけた。


その時に初めて見えた顔は、資料で見たことがある顔。


数少ない成功作の内の一人、No.000。


燃える様に赤い髪の毛に、緋色の瞳。

何もかもが資料で見た通りの配列。


「お前は、不良品なんかじゃ......!」


苦しそうに眉根を寄せて、僕の言葉を否定するNo.000は本当にさっきまで僕に銃口を向けていた人なんだろうか。


「おい!早く始末しろ、愚図共!!」


聞こえてくる嫌なマスターの声。


それと同時に複数の足音。


恐らく、他の戦闘用の人造人間だろう。


さて、早くしないと彼は破壊されてしまう。

なんだかそれには不快感を覚えた。


「お前は、早く逃げなくちゃ......」


まで言いかけると、彼は僕の右手首に繋がっている鎖に銃口を向けた。


ガンッという音がして、視界の隅に僕を束縛する手枷と繋がっている鎖が千切れたのが見えた。


彼は僕を肩に担ぐと、廊下に飛び出してマスター達がいる方向へ走る。


「何をしている?お前まで、破壊されるかも......」


「煩い、黙ってろ」


発言は許されないという様に彼は、僕を掴む力を強める。


バタバタと近づく足音に少し不安になってしまう。


怖い......。


ぎゅっと彼の服を掴み、目をつむる。


彼は僕の行動にピクリと反応しただけだった。





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