第二話
さて、何から語ろうか。生まれてから現在に至るまでを追ってみても、いいけれど、それでは実に味気ない。作者が太宰治であるならば、話は別であろうけれど。
実際の作者はこの僕であって、太宰治でもなければゲーテでもない。人間失格の烙印をおされるにはまだ早いし、若人の悩みと呼べるほどの悩みを僕は経験したことがない。
では、どうしようか。
人間とは、常に刺激を求めている生き物であるが、だとしたら、その欲を満たせるような話はあるだろうか。ああ、そうだ。ある、あるある。
男だとか女だとか関係なく、興味をもてるものがあるではないか。他人の色恋沙汰を覗き見ることほど、愉快なものはないだろう。こちら側にまでその被害が及んでしまったら、途端に興醒めしてしまうけれど、文字を読んでいるぐらいでは、一切の害がない。
決まりだ。僕は僕の恋愛譚を書こう。英雄譚とは呼べず。怪異譚とも呼べず。けれども人間の本質を知ることのできる愛情は、存外に楽しいものなのかもしれないのだから。
いけない。ああ、またやってしまった。話の論点がずれているではないか。
まあ、いい。人生とは脇道を歩くことであるように、たかが人間一匹の話もまた、しょっちゅう逸れてしまうものだ。世間へのささやかな反抗は、やめておこう。出る杭は打たれるのがこの世の節理であるのだから、出過ぎた真似はやめておこう。