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■□■□■□■■□■□■   バイト   ■□■□■■□■□■□■



バイトを始めて、数週間が過ぎた。

モギリに清掃、自販機ジュースの補充など、

午後五時から九時までの四時間ほどの仕事。

仕事自体難しいモノでは無いが、時間の使い方を考えないといけないな・・・

あかりは自身に自覚を促していく。

ここのところ、毎日夜10時過ぎの帰宅だし・・。 

食事の用意が億劫になり始め、弁当も酢飯・稲荷寿司の回数が増え始めている。

日記もここ2.3日書いていないし、かあさんにはホント申し訳ない。

放課後の部活動を少し減らさなければならないな。


文芸・郷土研究部、通称「ふみさと」。

ただ本を読んだり、喋ったり、ぐだぐだしているだけの部活。

活動目標として、新聞作りや発表会がある訳でもない。

りんごしか在籍していなかった廃部寸前の部に、

みんなで雨宿りの勢いで押しかけ、

何となく放課後、旧校舎三階の部室でたむろしているだけだ。

でもミキはこないだ、捨てられていたソファを

あかりに運び込ませたりしていたので、彼女は熱心な部員だと思う。

洋平もなんだかんだ言って、図書室に入りびたり本を借りているみたいだ。

それに洋平は部活に入ってからというもの、ちょっと違う一面を見せていた。

あかりが必死の思いで部室に運んだあのマッサージチェアは、

やはり故障していた代物だったが、なんと彼が、

あれを起動できるように直したというのだ。


ミキの話だと、

連休の中日に故障個所である電力供給がされていないことを

テスターで調べあげると、プラグを新品に交換して見事直ったという。 

彼の実家は家電屋さんで、洋平も家電・配線関係に強いらしく、

意外な一面を垣間見ることができたらしい。

あかりが洋平にそのことを尋ねると、

『 中学の時、技術は結構成績良かったからな~ 』と、

洋平は自嘲気味に笑った。

あかりは素直に カッコいいヤツだな、と思った。

今までそんな素振りが無かった分、頼りになる特技を見せつけられ、

あかりの中で洋平の株が一気に急上昇した。

やっぱり男というものは、いざというとき頼りになるところを見せないと。

自分も見習わなくてはいけないな、そう魅せ方も含めて・・・。


そしてエリとの関係だが、正直微妙だった。

あれからというもの、着かず離れずといった曖昧な関係が続いていた。

以前よりは断然話す機会が増えたが、やはり告白はタブー、

無かったことにされ、その後話題にすることはなかった。

あかりは部室にあるパイプ椅子に座りながら、エリィのことを思い描く。

エリといると、正直窮屈に感じることが多くなった。 

以前よりもくだけた感じでバカな話をすることも多くはなったが、

正直あちら側の住人であるシンソウ中のエリィが出てきてくれている方が、

なんとなく楽で、実は期待していることに自分でも驚く。

エリはエリのはずなのに・・・。

なんか頭が混乱してきて、結局はぼーっと何を考えていたのかさえ見失う。



いま、部室にいるのはあかりとりんごの二人だけだ。

あかりは、ちらりとりんごの様子を窺う。

りんごはいつも通り窓際奥の椅子に陣取り、熱心に小説を読んでいる。

純色の黒髪が軽くハネていたが、そんなことは気にも留めず、

一心にページを追っている。

しばらく眺めていると、彼女の顔がみるみると赤くなっていく。


( あっ、見ているのに気づかれたか? )


あかりは条件反射のように目を逸らす。


( あと、三分で帰ろう。うん、そうしよう。 )


りんごからの怒号に備えたが、期待に反して何も起こらない。

訝しがるあかりは、おそるおそるりんごの顔を再度見つめる。

りんごは文庫本を力なく握り、目はうつらで焦点が合っていない。

ああ、ひいきのキャラでも殺された顔だ。

そう思うのと同時に、

りんごが超音速スピードで文庫本をあかりに投げつける。

『 ごっ 』

あかりはりんごの急襲を受け、短い呻き声を上げる。

『 その本、あかりにあげる 』

そう抑揚のない言葉を呟くと、彼女は溜息を一つ付く。

『 くれるのなら、そんな投げつけることないだろ 』

あかりは猛然と抗議の声を上げる。

『 ありがとう、は? 』

彼女の威圧的な顔つきがあかりを捉え、

あかりの怒りは高度を失った風船のように萎んでいく。

『 ありがとう、ございます。 』

あかりはたどたどしく、礼を述べる。


『 あんた、バイト始めたんだって? 』

『 うん。 あれ、言ってなかったか? 』

『 聞いてない。 』 そう言うと、りんごは立ち上がる。

『 アスカ座っていう、映画館なんだけど・・・ 』

『 楽しい? 』 りんごはあかりの言葉を切り、一瞥する。

あかりは正直に「 楽しい 」、と言おうとしたが、

なんだかりんごの憂いを帯びた顔を見て、言うのが躊躇われた。

『 そこそこだよ、仕事なんだし・・・。でも、なんか、ごめん。 』

『 なんで、謝るの? 』

『 なんか、部活に出る回数も減ってきそうだし・・・

でもバイトをしないと、いけないし 』

『 あかり、この部、辞めてもいいよ 』

『 へ? 』 あかりは、りんごの顔を見返す。

りんごはあかりから目を逸らし無表情のまま、扉の前まで進んでいく。

『 無理して、私と一緒にいることないから・・・。 』

『 ちょっと・・・ 』

『 じゃあ私、本屋寄ってくから・・・また明日、教室でね・・・ 』

そう告げると、りんごは静かに扉を閉め、部室から出て行った。

あかりはりんごの投げつけ付けた文庫本を手に取る。

そのタイトルは、

あかりのバイト先で公開されている映画と同タイトルの原作本であった。





■□■□■□■■□■□■   デート   ■□■□■■□■□■□■



その日のバイト終了後。 あかりは帰宅しようと

映画館の脇の路地裏に置いてある自転車に手を伸ばしたところ、

薄暗闇からびっくりするような美しい人影が現れた。


( こんな夜中に・・・もしかして )

『 エリィさん? 』

『 エリィ? 』 その美しさを纏った影が疑問の声を投げかける。

『 あ、すみません。 

俺が勝手にそう呼んでるだけで・・・その心の中で、ですけど・・ 』

『 君は面白いなぁ 』

『 そ、それよりどうしたんです? こんな時間に 』

『 君を待っていたんだよ。 』

そう言って、声の主はようやくあかりに姿を見せる。


黒と紫のチェックの半袖ワンピース。

シックな黒のシャツに膝から見える黒のストッキング。

そして、つばのひろい黒の帽子。

あかりは彼女の姿に心臓はびくんと高鳴らせる。


『 そ、そうですか 』

『 これから何か予定でもあるのかい?

無いのなら、ちょっと、私とデートしよう。 』

『 デート? 』 

あかりが驚きと戸惑いを混ぜ合わせた声を出す。

『 いや、密会と言った方がいいかな。 』

エリは普段の清純さなど消し去り、魅惑的な不純な声で呟く。

『 なにか、話でもあるんですか? 』 

あかりが戸惑いながらの会話を続ける。

『 いや、個人的に会いたかっただけでは、駄目かな 』

『 な、なに言ってるんですか 』

『 ・・・ 』

エリィは体をくねらせながら、俯き恥ずかしがってみせる。

『 なに恥ずかしがってるんですか!

そんなキャラでしたっけ、そちらのエリさんは? 』

『 エリィ、っぽくしてみた。 』

そう言うと、彼女は不敵な笑みをあかりに投げかけた。

『 まったく・・ 』

そう言いながらも、あかりは自然と笑顔を漏らしていた。



その後、エリィは煉瓦作りの落ち着いた感じの

喫茶店へあかりを誘い入れた。

内装にも煉瓦を使用したその店は、他の客とはあまり接点を持たない

隠れ家的な作りになっていた。

あかりは食事がまだだったので、海鮮スパとコーヒーを頼んだ。

エリィもしばらく考えていたが、

やっぱりあかりと同じモノを選び、飲み物は紅茶を頼んだ。

あかりは入店の際、あまりの大人な空間に多少どぎまぎしたが、

一通り注文を終えると、落ち着きを取り戻したように

革張りのシートに身を沈める。 店内の照明は薄暗く、

壁には喝采が聞えてきそうな音楽家の写真が飾られ、

天井にはゆっくりと回る空調のプロペラが見える。

店内を流れるオールド・ジャズも、とても異国情緒があり

エリィの存在感と妙に合っていた。


『 なんか、大人な感じのお店ですね。 』

『 こういうの、嫌い? 』

『 いえ、今はエリィさんと一緒だから、なんか心地良い感じなんですけど、

自分一人だと何だか身の丈に合っていないというか・・・。 』

『 私たちは、お客だ。 そんな堅苦しく考える必要なんてないよ。 』

『 そうなんですけど、初めてというか・・・ 』

そう言い、あかりはエリィをちらりと見る。

『 デートのことか? 』

『 そう言われてみると、デートっぽいですね・・・。 』

その言葉に、ふふふ、とエリィが笑みをこぼす。

あかりもつられて顔が綻ぶ。

デートなんか、一度もしたことない。 

しかも、これがデートなのかもわからない。

そもそも、何故こんな夜中に自分を誘い出したのか?

先ほどまで笑っていたはずなのに気付くと、

いつもの邪念に捕われていた。


『 デートというには、ちょっと強引だったかな? 』

エリィの独り言が届く。

『 今日は、何が目的です? ただのデートじゃないですよね?

っていうか、なんかおかしいし 』

『 いや、特段気にするようなことではないのだが・・・

上からの命令で、ちょっと探りを入れたいことがあってね。 』

『 探り? 』

あかりの疑問に、エリィは小さく頷いた。

『 君が何か良からぬ思考や行動を起こしやしないかって、

私たちの上司が心配している。 』

『 俺が、何か企んでいるとでも・・・ 』

『 分かり易く言うと、そうだ。 』

『 なんで、そう思うんです?

エリィさんもそう思っているんですか? 』


そのあかりの発言で、その場の空気が少し変わった。

しばらくの沈黙のうち、料理が運ばれてくる。

店員の「 飲み物は食後ですか? 」の声に

エリィは「 今、出してくれ 」と短く告げる。

注文したものが、すべてテーブルに並ぶと、

『 さぁ、とりあえず食べようか 』と、

エリィが作り笑いをした。



なんと重苦しい空気。

やっぱり、デートでもなんでもなかった。

ちょっと、嬉しがった自分がバカみたいだ。

いや、そもそも好意なんて抱いてないはずだし、

期待外れってこともないのか。

あかりは黙ってパスタを食べるエリィを見る。

何処となく、いつものエリィらしくなかった。

なんか余所余所しく、

わざと無口で無骨なキャラを作っているようにも見える。

しかし、あかりの視線に気づいても、ニコリともせず

視線をパスタに戻したときは、正直ぞっとした。

そして、想像以上のショックも受けた。 

それはじわじわと効いていき、

あかりの思考が全てそれで埋め尽くされるくらい、

ゆっくり強く揺さぶった。


『 もう、いいのかい? 』


先に食べ終わったエリィが、

ナプキンで口を拭きながら、あかりに尋ねる。

あかりはフォークをもったまま無言で頷く。

あかりは大半を残し、諦めたように冷めた苦いコーヒーを啜る。

雰囲気的には、まるで

「 万引で捕まった弟、引き取りに来た姉。 」 のような感じだ。



『 では、さっきの話の続きをしようか。 』

エリィが容赦なく、あかりに投げかける。

『 いいですけど・・・俺は、何も・・・ 』

と、あかりは言い淀む。

『 さっきの質問だけど、答えはイエスよ。

私も勿論、そう思っている。 』

『 え・・ 』

あかりの心の中とは裏腹の言葉に、あかりは衝撃を覚える。

『 君が何かを企んでいるかもしれない。そう、思っている。 』

念押しのようなエリィの言葉。

『 そんな・・・ 』

『 君は、そう、君は、私たちの話を聞いても、まるで動じない。

父親に関して、心動かされていない。 

それが、私たちには不可思議だ。 なぜだ?

なぜ、そんな冷静でいられる?

君の父親のことだぞ! 』

エリィは非難めいた口調で捲し立てる。


あかりは、言葉に詰まる。 

それはあながち間違えではないからだ。

死んだと思っていた父が生きてると聞いても、まるで動じない。

不自然。 そう、確かに不自然だ。

こんな次元の違う輩がやってきて、突飛な環境に見舞われ、

命まで狙われた。

それでも、父を恨む訳でも真相を掴もうとする訳でもなく、

じっと現状の生活にしがみ付いている。 

それが、異常なことだと、エリィが言っている。 

全くその通り。 その通りなんだけど・・・


『 ショックを受けていないわけではない。

ショックなら、最初から受けていた。 』

あかりは彼女の顔を見ずに、言い訳めいた言葉を口にする。

『 そう、なら聞かせて。 』

エリィの冷徹な受け答えに、あかりはちょっと押され気味に

言葉を探り、話しはじめる。

『 実の母親が死んだとき、

俺はなんで母さんはあんな男と結婚したんだろうって、思った。

父はとにかく家にいない人だったから・・・。 

母さんが死んでから、少しは家にいることも多くなったけど、

すぐに妃花さんがやってきて、また居なくなった。

そして挙句の果てには、失踪。

特に恨みは無かったけど、

母さんが死んですぐに妃花さんがやってきたのは、正直腹が立った。

家にいないで女の人と会っていたかと思うと、ほんと殴りたくなった。

だから、妃花さんのことも最初は嫌いだった。

でも、俺と陽鞠は幼かったから、いろいろ甘えたかった。

そう、父親にも甘えたかった・・・ でも、いなかった。

それが、ショックだった。

父の遺産だと思ってあの土地で暮らそうと思ったのは、

衝動的だったかもしれないが、心の何処かで、

もう諦めがついてたんだと思う。

もう、甘えるなんてことも考えもしなくなった。 』

あかりは長い独白を終えると、少し恥ずかしそうにエリィを見上げた。



エリィは少し表情を曇らせながら、紅茶を口に運んでいた。

『 父親のことはあまり考えないようにしていた。

普段から・・・、今まで、ずっと・・・。

それは陽鞠の病気のこともあったし・・・

いや、俺自身が拒んでいたのもある。それが全てだと思う。 

今更甘えられない相手に何の絆を求めるのかって・・・・

そんな歪んだ考えが、心の何処かで根付いていたんだと思う。 

それが父親に対して、あまり熱心になれない基本的な原因だと思う。

よく、わからないけど・・・たぶん、合ってる。 』

あかりは言い終ると、丁寧に頭を下げた。

『 終わり? 』

『 はい。・・・・だから、俺は危険分子なんかじゃない。

なにも企んじゃいない。 』

『 本当? 』

訝しそうにあかりを見つめ、そして少し体をずらしながらエリィは続ける。

『 まあ、いいわ。 それと・・・、上の人たちは、あなたにも特別な力、

あるいは公一郎氏と同レベルの何かを備えている、とも考えている。 』

エリィの目が鋭くなる。

『 特別な力? 』

なんの話だと言わんばかりに、あかりは狼狽える。

『 そう父親譲りの特別な力。なにか身に覚えはない? 』

そう言うと、エリィは少し怖いくらいの笑みを漏らす。


( 力って、なんだ? 身に覚えなんか・・・ )


「 あ! 」


あかりは絶句する。

そういえば、なんか、おかしなことがあった。

駅のホームで頭に届いたあの不思議な声。

そして、エリと出会った時に響いた鈴の音。


『 君の妹には、もうそれが備わっているんじゃないかと

私たちは、考えている。 』

『 はっ、陽鞠に? なに言ってんだ! そんな訳ないだろう。 』

『 私は可能性の話をしているだけだ。 現に・・・ 』

エリィが話をしている途中で、

急に電池が切れたおもちゃのように口を閉じた。

『 エリィさん? 』 あかりは訝しそうにエリィを見つめる。

彼女は焦点の定まらないうつらな瞳をしていた。

『 ちょっと、どうしたんですか? 』 あかりは再度、声を掛ける。

彼女はまるでマネキンのように硬直し、動かなくなってしまった。

そして、瞼も重さに耐えきれないようにゆっくりと閉ざされていく。


( 一体、何が起こった? )


シンソウ行為が終わったのなら、いつものように本来のエリに戻るはず。

でも、いまはそんな気配もない。

あかりは立ち上がり、エリィの座るベンチシートに駆け寄る。

『 エリィさん・・・ 』

彼女はまるっきり無反応なマネキン状態になっていた。 

あかりは彼女の隣に静かに座ると、

冷静に彼女の鼻と口付近に手をやる。

静かだが、どうにか呼吸はしているようだった。

すると、なにかの拍子に彼女の身体があかりにもたれ掛る。

その柔らかい感触と、とても軽い華奢な身体に思わずびくりとする。

彼女の甘い髪の香りが届き、

あかりは自分に投げ出された彼女の身体を抱き留め、

彼女の顔に掛かった髪を直す。

美しい顔がすぐに現われ、あかりは呼吸を整える。


( いったい、何が、どうなったんだ? 自分はどうしたらいいんだ? )


ただ、気を失っているようにも見えるが、自分は何をしたらいいのだろう。

店内では二人の状況などお構いなしに、

軽快なスウィングナンバーが流れ始めた。



彼女は何かを言う手前で、ストップを掛けられたような気もするが、

正直よくわからない。

あかりは周りの様子を窺いながら、ゆっくりエリィを見つめる。

助けを呼んだ方が、いいのか? それとも、別な策があるのだろうか?

あかりはエリィの額にそっと手をやる。 熱は無いようだ。

でも、次が全然思いつかない。

『 手はその位置? もっと、下じゃない? 』

『 え? 』 あかりが息を飲む。

『 私、そんなに魅力なかった? 』

突然の復活の声に、あかりは飛び跳ねる。

『 エリィさん! 大丈夫なんですか? 』

そのあかりの声にエリィは悪戯っぽく笑う。

『 ごめん、ごめん。 

ワードアラートが掛かって、上司と喧嘩してた。 』

あかりは無理解のまま、まん丸の目をしてエリィを見つめる。

『 まぁ、私もこちらの世界で言う、中間管理職みたいなものだ。

今回の件では、結構任されて自由にやってよいことになっているが、

ダメなこともある。 現場と会議室が舞台のドラマと一緒さ・・・ 』

そう言うと、エリィはいつもの笑顔をあかりに向けた。

あかりは何のドラマの喩か判らなかったが、一応小さく頷いた。


( 戻ってきてくれて良かった )


『 それにしても、私はそんなに魅力がなかったか? 』

『 え? 』

( なんの話だ? )あかりが怪訝な顔になっていく。

『 借り物の姿で言うのもなんだが・・・、私がフリーズしている間、

エロい事し放題だったのに・・・ 』

と、エリィは胸の下に腕を入れ、女性らしさをアピールする。

『 しませんよ、そんなこと 』

あかりは吹き出しそうなのを抑えつつ、苦い珈琲を口に運ぶ。

『 どうせ、夜は一人でHなことしてるんでしょ? 』

『 はぁ? 』

『 私で何回出されちゃったのかなぁ? 』

その発言にあかりはみるみる顔を赤く染めていく。

『 そんなにしてないですよ! 』

『 そんなにって・・・可愛いね、正直で 』

あかりが誘導尋問に引っかかったことに、

エリィは短く照れたように笑う。

あかりも恥ずかしさで顔が紅潮するのを必死で隠し、言葉を繋ぐ。

『 エリィさんって、普段もそんなにやらしいんですか? 』

『 だって、処女じゃないもの。 』

『 えっ? 』

その突然の言葉に、あかりは軽くショックを受けた。

『 ちなみに、ミキは処女よ 』 

そう言うと、エリィはいたずらっぽく笑った。

『 そうですか・・・ 』

『 あれ、リアクションおかしくない?

私が処女じゃないことにショックを受けるとかさ、

いろいろあるでしょ? 』

エリィは隣に座るあかりを小突き始める。

『 そんなにエロいこと言っていたら、ショックも何もありませんよ 』

そうは言ったが、あかりは心の中は無性に騒がしくなった。

正直ショックだった。


『 ほんと、君をからかうのは楽しいな 』

『 冗談、ですか? 』

『 だと、うれしい? 』

『 割と・・・ 』

『 君は分かり易いな。 私に惚れてるだろ? 』

エリィは、そう言うと隣のあかりに擦り寄る。

その動作にあかりは少し戸惑い、足を閉じて真面目に正面を見つめる。

『 おちょくらないでください。さっきは、ほんとに心配したんですから。 』

あかりの真剣な表情に、エリィは口を尖らせながら謝罪する。

『 悪かったよぉ~、機嫌直してよぉ 』

それでも尚、すりすりを止めないエリィ。

『 ふざけないで下さい! 』

あかりの一喝にエリィが動きを止める。

『 ちょっと、マジにならな・・・ 』

『 あの! 』

エリィの言葉をあかりが掻き消す。

その表情は今までになく、真面目な顔つきだ。

その表情にエリィはあかりに向き直り姿勢を正す。

『 その、そんな風な気持ちになったら、

その・・・必ず伝えますから・・・。 』

あかりは消え入りそうな声でそうつぶやいた。

『 君は真面目だなぁ。そういうところ・・・ 』

そう言うと、エリィはそのまま、また動かなくなった。

『 エ、エリィ、さん? ちょっと、また・・・ 』

あかりは再度フリーズした彼女に戸惑い、あわてる。

( ど、どうしよう・・・。 え~と・・・。 )

あかりは彼女の腕を取り、軽く揺らす。しかし、やはり無反応だ。

( そんなぁ、どうしたらいいんだ? ) 

あかりは頭を抱えながら、自分の足元を見る。

すると、すぐに

『 うそだよぉ~、バーカ! 』

エリィが本当にバカなモノを見るような目でそう告げ、

思いっきり笑った。





~つづく~

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