涙の流れ星
むかしむかしのそのまたむかし、大地と空が、ぴったりと繋がっていたころ。
とある国に、双子の王子様がおりました。
ふたりはとてもやんちゃで、王宮の人たちを困らせるようないたずらを繰り返していました。
ある日、兄の王子が言いました。
「僕たちは、いろんな人が怒ったり、驚いたり、泣いたりする顔を見たことがあるけれど、お父様のものだけは、見たことがないなぁ」
すると、弟の王子は言いました。
「聞くところによると、お父様は、よその国の王様たちを泣かせてしまうほど、怖くて強いといいます」
「まさか。お父様はいつも、僕たちの頭を優しくなでてくれているじゃないか。そんなに怖いなんて、きっとうそに決まっている」
兄王子はそう言うと、あることを思いつきました。
「そうだ。お父様が大事にしている剣をかくして、怒らせてみよう。きっと、泣きながらさがすに決まっている」
そしてふたりは夜のうちに、お城の宝物庫に飾られている王家の剣を持ち出し、弟王子のマントの中にかくしてしまいました。
さあ、王家に伝わる王の証がなくなって、王宮はおおさわぎです。
「あの剣がないと、息子たちに王位を継がせることができないぞ」
そう言って、王様は頭をかかえます。
ちょうどそのとき、とある召使いがこう言いました。
「昨晩、王子たちが宝物庫に入ったと、扉を守る兵士がいっていました」
それを聞いた王様は、ふたりの息子を自分のもとへ呼びました。
「お前たち、剣をどこにやったのだ」
「しりません」
王様に聞かれても、ふたりはうそをいいます。
しかし、王様は、弟王子のマントから剣の柄が出ているのを見つけてしまいました。
「うそをつくな!」
王様はひどく怒って、王子たちのほほを打ちました。そして、ふたりをお城からつまみ出してしまいました。
「ああ、どうしよう」
王子たちは困ってしまいました。このままでは、美味しい食事をたべることも、暖かい寝床でねむることもできません。
「そうだ。空の女神様のところには、この世界でいちばんきれいな宝石があるという。それを見せれば、お父様も怒っているのをわすれてくれるだろう」
兄王子の提案で、ふたりは空の女神様のところへ行くことにしました。
しかし、空まで行くことはできても、ふたりは女神様のいる場所を知りません。
女神様がどこにいるのか知るために、双子の王子は空を旅することにしました。
王子たちははじめに、空の星を作るという星の民が住む村を訪ねました。
「ごめんください。どなたか、空の女神様がいるところを知りませんか」
しかし、返事はありません。
「どなたか、いないのですか」
王子たちは家のドアをひとつひとつ叩きましたが、どの家も留守のようです。
「これはおかしいぞ。星の民はみんな、どこへいってしまったんだ」
王子たちが村を出ようとしたそのとき、村の入り口から、ひとりの娘が駆けてきました。
兄王子は、娘を呼び止めました。
「おーい、そこのお嬢さん。いったい、この村はどうしてしまったんだい」
「ああ、地上の王子様たち。どうか、私たちを助けてください。村のものはみんな、星を集める魔女にさらわれてしまったのです。私は助けをもとめて逃げだしてきましたが、私の家族や友だちが、魔女のところで無理やりはたらかせられているのです」
「なんてむごい話だ。待っていなさい、僕たちがきっと、魔女を倒してみせよう」
王子たちは娘に約束して、村の西にある魔女の館に入っていきました。
「わあ、すごい。星だらけだ」
館の中は、魔女が集めた星の光できらきらと光っていました。
ふたりは館のいちばん奥で、分厚い鉄の扉を見つけます。そっと扉をひらいて中をのぞくと、魔女と星の民たちがいました。
「さあ、お前たち。もっともっとうつくしい星を作るんだ。そうでないと、お前たちを頭から丸飲みにしてしまうよ」
魔女におどかされ、星の民たちは震えながら星をつくります。彼らがハンマーをふりおろすと、さびれた鉄や枯れた葉っぱがきらきらとかがやき、色とりどりの星になりました。
「これはひどい。魔女め、すぐに退治してやる」
王子たちは近くにあったハンマーを手にとると、魔女におどりかかりました。
「やあっ、覚悟!」
勢いよくふりおろしたハンマーは、魔女のマントをかすめて床に落ちました。
魔女は王子を見て、恐ろしい顔で笑います。
「おや、地上の王子様たちじゃないか。おしのびで空にくるなんて、めずらしい」
魔女が杖をふれば、ハンマーはばらばらになってしまいました。
「そうだ、お前たちもここではたらかせよう。王子の涙をもとにすれば、きっとうつくしい星ができるにちがいない」
そういって、魔女が王子に手を伸ばしたときです。
弟王子のマントの中が、星よりも強い光をはなちました。
「ぎゃあ!」
魔女は目を押さえ、後ずさります。そして、ちょうど後ろにあった机につまづき、星の民が持っていたハンマーにぶつかってしまいました。
すると、どうでしょう。みにくい姿の魔女は一瞬で光かがやき、紫色の星となって空にのぼっていきました。
「ああ、助かった」
王子たちはほっとして、星の民とともに村へ戻りました。
「お父さん! お母さん!」
村でひとり待っていた娘が、両親に抱きつきます。
その様子を見て、王子たちはお城が恋しくなってしまいました。お城に帰るためにも、王子たちは星の民に問いかけます。
「どなたか、空の女神様がいるところを知りませんか」
すると、村長が答えます。
「それなら、ここからまっすぐ北へ行ったところ、空の中心となる星のところへ行くといいでしょう」
村長がいった通りに、ふたりは北を目指します。
先へ進むにつれて人はいなくなり、あたりは星の散らばる雲だけになっていきました。
そしてついに、色とりどりの星の中でも特にふしぎな色をした、大きな星がくるくると回るのを見つけました。
ふたりはその場にひざまずき、願いをささげます。
「空の女神様、お願いがあります。世界でいちばんきれいな宝石を、僕たちにゆずってください」
すると、空から優しい声が降ってきたではありませんか。
「双子の王子よ。私は、あなたたちのことはなんでも見ています。だから、あなたたちに宝石をさずけることはできません」
王子たちはびっくりして、女神様に問いかけます。
「なぜですか」
女神様は少し黙ったあと、きびしい声でいいました。
「この世界には、どんな宝石よりもうつくしく、とうといものがあります。あなたたちは、それをわすれてしまっている」
王子たちは、かなしくなってしまいました。女神様の声が、王妃様の声のように聞こえたからです。
「さあ、国へ帰りなさい。お父さんもお母さんも、あなたたちを心配していますよ」
ふたりは、とぼとぼと国へ帰りました。
お城の門までくると、そこには王様と王妃様が待っていました。
「お前たち! こんなに長いあいだ、どこへ行っていたんだ!」
そういって、王様はまた息子たちのほほを打ちました。
地上と空では、時の流れがちがいます。王子たちにとっては一日もかからない旅でしたが、地上にいた王様たちからすると、王子たちは一年近く、ゆくえしらずになっていたのです。
双子はそれを聞いて、おどろきました。そして、わんわん泣きました。
「お父様、お母様、ごめんなさい。ばかなことをした僕たちを、ゆるしてください」
「ああ、ゆるそう。くいあらためる子供をゆるすのが、親のつとめだ」
「あなたたちが無事で、ほんとうによかった」
そういって、王様と王妃様は王子たちを抱きしめ、泣きました。
すると、どうでしょう。四人の涙が空へのぼっていくではありませんか。
涙はたちまち光かがやき、流れ星になりました。
「ああ。これは、空の女神様のもつ宝石だわ」
王妃様が空を見上げ、いいました。
「ほんとうに、きれいねぇ」
四人の家族は、泣いていたこともわすれて空を見ていました。
それから、何十年もたったころ。
優しい双子の王様がおさめるこの国は、世界一しあわせな国になりました。