表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「サザンの嵐篇」~時の道標(みちしるべ)~第六部
98/236

~最終話~

「ハロルドさん、俺は……」


 憎しみがないと言えば嘘になる。

 サンダーの所為で大切な人たちを……

 多くの貴い命が失われたのは紛れもない事実だ。


 俺は、国を取り戻して世界を安寧に導く等という崇高な志を持っていた訳じゃない。王子としての自覚も希薄だった。


 けれど旅をして、サンダーの治世で苦しむ人々を見る度に、彼等を助けたいと……皆が平和に、そして幸せに暮らせる世界になればいいと、そう思うようになった。


 だから会って聞きたかったんだ。

 何故、サンダーは父レグルス・ナスルを裏切ったのか?

 何故、ここまで人々を苦しめるのか?

 その理由を知りたいと思った。


 けれど、それがこんな……!

 これでは、誰も救われない。誰も憎めない!


 いっそサンダーが純然たる悪で、己の私利私欲の為だけの行為だった……と言ってくれた方が楽だったかもしれない。


「俺は、それがあんたの願いなら叶えたい。あんたは俺の命の恩人で、自分を犠牲にして、ずっと俺を護ってくれてた。その想いに報いたいと思う」


 どんなに辛かったろう。

 わずか八歳だったあんたが、俺の為に選んだ修羅の道。

 

 あんたに命を救われ、何も知らずにじっちゃんと安穏とした(とき)を俺が過ごしていた間――あんたは裏切り者と罵られ、その手を血に染めながら……どんな想いで生きてきたのか?


 俺を王の座に就かせる事が出来たら、全ての罪を背負って逝こうと……

 “俺に裁かれて死ぬ事”を、唯一の救いと見定めた生なんて哀し過ぎる。


「でも、あんたは俺を誤解してる。俺は、そんな出来た人間じゃない。……優しくもない! サンダーが父上を大切に想ってくれてた事は解る。父上を裏切ったのがサンダーの意志じゃなかった事も。彼がずっと苦しんでた事も、頭では解るんだ。けど……失ったものが多過ぎて、今の俺にはサンダーを許す事なんて出来そうにない。そんな俺に、彼の心を救える筈がないんだ……っ!」

「……我が、(きみ)……」


「でも、父上ならっ! レグルス・ナスル王なら、出来るかもしれない!」

「……?」


 母上から聞かされた、父上の最期の言葉。

 あの時は解らなかった。

 何故、最期の最期――母上との今生の別れ際に、父上はあんな言葉を遺したのか?


 けれど、今なら解る気がする。

 父上は、きっと……


「ハロルドさん」



     挿絵(By みてみん)



「我が王。それがレグルス陛下の最期のお言葉……陛下の御心、なのですか?」

「ああ」

「…………」


 そう、ですか。ならば、私にはもう何も思い残す事はない。

 これで逝ける。エリカ、貴女の許へ!


 父上がレグルス陛下を。

 そして、私が貴方を“我が王”と見定めた事は、決して間違いではなかった。

 貴方を御護りする事が出来て……

 貴方にお仕えする事が出来て、本当に良かった。


 血に染まった手。

 幸せなど望むべくもない、罪深い穢れた身。

 私は貴方に(かたき)として討たれ、死んで逝くのだと……

 それでいいと思っていた。

 けれど――


「我が王。貴方を“我が王”とお呼び出来る日が来る等と思ってはおりませんでした。それだけで、私は……。そんな資格等ない身でございますれば……」

「そんな事っ!」


「貴方が世界の王の座など望んではいらっしゃらない事は、百も承知しています。ですから、貴方はただ貴方の信じた道を、貴方の望む道筋で……人々が平和に幸せに暮らせる御世を御築き下さいませ。我が父サンダー・フォル・レオニスの想いが決して無駄ではなかった、と……。どうか、我が……き、み……」

「ハロルド、さんっ!?」



     挿絵(By みてみん)



 我が王、私の死を悼まないで下さい。

 貴方が私の為に涙を流す事などあってはならないのです。


 どうか、真実は貴方の胸に。

 私の事は、自らの覇権の為に世界を牛耳ろうとした簒奪者として、闇に葬って下さればよいのです。


 そして、貴方は私の事など忘れて、ただ真っ直ぐに……

 光の道をお歩み下さい。



  ★     ★     ★     ★     ★



【補足】


 アガスティーア・エルゲバルでの『ハロルドVSブラッド一族&サンダー精鋭軍』との戦闘の経緯とイサドラとの確執を簡単に書いておきますね。


 ハロルドがこの戦いを仕掛けた理由は、勿論ロトを護る為です。

 この時点で、ロトの力がカラバッジオを凌駕している事はハロルドは当然知っています。

 サンダー精鋭軍は対サザン連合軍に任せても問題はないでしょう。

 けれど、能力者と対抗出来るのは能力者だけ。

 ロトの戦いはどうしても“一対多”になってしまいます。

 然も、ロトは相手に止めを刺せない。

 それがロトには命取りになるかもしれないし、後の禍根となるかもしれない。

 それを憂慮したハロルドが玉砕覚悟で挑んだ戦いでした。



《戦いの経緯》


 幾らハロルドがブラッド一族を凌ぐ力の持ち主と言えど、能力者を含めた多勢に無勢の戦いは分が悪すぎます。

 特に一族最強の能力者と謳われたカラバッジオや三位一体の攻撃を得意とするラガン三姉妹とまともに戦えば、ハロルドも無傷という訳にはいきません。

 そこでハロルドは最初の一撃でカラバッジオを、二撃目でラガン三姉妹の長女ロイを絶命させたのです。

 それは、本来ならハロルドが最も嫌う卑劣な戦法。

 己を仲間だと信じて疑わない者への突然の攻撃――不意討ちでした。

 だからこそ効果は絶大で、カラバッジオとロイは何が起こったかも判らぬまま命を絶たれたのです。


 他のブラッド一族やサンダー精鋭軍は、最初何が起こったのか分からず呆然としていましたが、この段になって漸くハロルドの裏切りに気づいて反撃を開始します。

 彼等の使命は、このアガスティーアを死守する事ですから、相手がハロルドと雖も攻撃は熾烈を極めます。

 その為にハロルドは左腕を犠牲にしたんですね。


 敵の数が多く、長期戦になる事は覚悟していましたが、その為には力を使い続ける訳にはいきませんし、防御壁(シールド)も張り続けていた訳ではありません。

 ハロルドは剣士でもありますので(サンダー直伝)能力者以外には剣を使う事もありました。

 なので、防御が間に合わない場合は左腕で受けたんですね。

 粗方の敵を倒した後、使い物にならなくなった左腕を切断したのはハロルド自身ですが……。


 その直後、左後方からイサドラに刺されたのです。



《イサドラとの確執》


 勿論ハロルドはイサドラの動向に気づいていました。

 幾ら力を使い果たして疲労していても、幾ら負傷していたとしても、ハロルドが背後から忍び寄るイサドラに気づかない訳はないし、かわせない筈もない。

 でも知っていたけれど、敢えてイサドラの刃を避けなかった……と言うか、自ら望んで受けたんですね。

 それは、刃を受けたと言うよりは、イサドラの想いを受け止めた……というニュアンスの方が正しいかもしれませんが。


 ハロルドはイサドラの自分に対する想いを子供の頃から知っていました。

 ハロルドにとってイサドラは(かたき)の娘ですけれども、イサドラに対して個人的な恨みを抱いていた訳ではありません。

 寧ろ“妹”に近い感情を持っていました。

 ハロルドはイサドラの痛みも哀しみも分かってるんですね。

 それ故に歪んでしまった事も。


 一族がサザンに辿り着いてから産まれたテラとは違い、イサドラは迫害の苦しみや哀しみを知っています。

 幼い頃に受けた身体の傷は癒えても、心の傷は今も尚、生々しく残ってるんですね。

 しかも、男児を授からなかったブラッドにとって、イサドラは“後継者”なので、女の身ではあっても時期族長たるべく厳しく育てました。

 ブラッドは自分に容姿も性格も似ているイサドラに対して殊更に辛く当たったんですね。


 勿論、愛情がない訳ではないのですが、それはブラッドが己自身に抱いている劣等感(コンプレックス)に起因しています。

 彼は自分が好きではない。寧ろ嫌っているのです(ほらっ、自分の嫌いなところ――自分に似てほしくないと思っている事ほど我が子が受け継いでて、同じような事をされたらイラっとするという……あれです)


 それに引き換え、亡き妻に生き写しのテラには無条件に優しくて甘い。

 母の顔を知らないテラを不憫に思っていたというのもありますが、このブラッドの娘たちに対する接し方の違いが(ブラッド自身は、多分無自覚だと思いますが)姉と妹の間に決定的な溝を作ってしまうんですね。

 それが後の悲劇に繋がります。


 そんなイサドラを子供の頃から見てきたハロルドは――もし自分がイサドラの想いを受け止める事が出来ていたなら、彼女の心は少しでも癒されただろうか? 彼女は救われただろうか?――という想いが常にあって、それが無意識にイサドラに対する負い目になっていたんですね。


 このアガスティーア・エルゲバルでの決戦で、ハロルドの裏切りが決定的になって、イサドラは本当にショックだっただろうなあ~と思います。“可愛さ余って憎さ百倍”でハロルドを刺すんですが、でも彼女は心の何処かで「ハロルドなら、こんな攻撃なんて簡単に避けられる!」って思ってたんだと思います。


 だからハロルドが避けずに剣を甘んじて受けた事にイサドラの方が動揺して「何で避けなかったの? あんたなら、私の剣なんて簡単に避けられたでしょっ!?」ってハロルドの身を案じるのですが、その直後にハロルドに剣で胸を貫かれて絶命します。


 でもトトは、ハロルドの想いはイサドラにちゃんと伝わっていて、彼女は救われたんだと思っています。

 ハロルドにとっては断腸の想いだっただろうと思いますけどね。



     挿絵(By みてみん)



 ハロルドはイサドラが苦しまないように一撃で仕留めました。

 これはイサドラだけにそうしたという事ではなくて、他の者たちも同様でしたけれども。


 ハロルドはアガスティーア・エルゲバルの最上階の部屋の長椅子にイサドラの遺体を安置した後、傷の応急手当てをして(止血をして、自らの能力で痛みを伝達する神経を遮断)自身の生に終止符を打つ為にロトが到着するのを待っていたのです。



…───…───…───…───…───…───…───…



 この後、ロトはイサドラの遺体を見つけますが、彼女を此処に運んだのがハロルドだという事は分かりますし、二人の関係を知っていた訳ではないけれど、思うところはあったと思います。

 ロトにとってイサドラはテラとエリカの仇ですが、テラとイサドラは姉妹でもあるので、イサドラに対する想いはロトにとっても複雑なものがあるんですけどね。


※余談ですが……

 アガスティーア・エルゲバルでの戦いの際、ハロルドは何時も着ている外套(マント)を脱いでいました。

 多分着ていたら戦闘でボロボロになっていたと思うんですよね。

 でもロトとの戦いの時に外套を着ていたのは、自分が傷ついている事を隠す為でした。

 服もボロボロでしたしね。

 ……って言うか、そうなる事を見越して外套を脱いでいたんですけどね。


 ハロルドは黒を着てるし、距離もあったし、直ぐに戦闘が始まったので、ロトはハロルドが重傷を負っている事になかなか気づきませんでした。

 因みにハロルドが何時も黒を主体とした服装なのは、死んで逝った者たち(己が命を奪った者たち)への喪に服していたからです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ