表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「サザンの嵐篇」~時の道標(みちしるべ)~第六部
94/236

~第六話~

 それから三週間後――


「父上が、レグルス陛下を? 嘘だっ! そんな事、ある筈ないっ!!」


 それは正に驚天動地、寝耳に水の出来事だった。

 私は知らせを聞いて、すぐさま屋敷(レオニス侯爵邸)を飛び出した。


【突如、右大臣サンダー・フォル・レオニス侯爵が挙兵し、各国からの使者や祝いに駆けつけた人々で賑わう王城に攻め込んで主君レグルス・ナスル王の首級を挙げた】


 世継ぎの御子がご誕生あそばしてから一ヶ月。

 その日、王城ではロト王子殿下ご生誕の祝賀の儀が盛大に執り行われていた。

 それは、国中がお祝いムード一色に染まっている最中、突如起こった内乱だった。


「嘘だ! そんな事、絶対にない! 父上がレグルス陛下を裏切るなんて……陛下を弑逆するなんて! そんな事、天地がひっくり返ったって、ある筈がないんだっ!!」


 けれど、思い当たる節が皆無という訳ではなかった。

 私はその日――ロト王子殿下の祝賀の儀に同席させてもらえなかった。

 何度、父に懇願しても許しはなく、それ故に私はその知らせを屋敷で耳にする事になったのだが……。


 そして一週間ほど前の、父のあの(・・)言葉。


「違う! 何を考えるんだ、私は! 父を……あの父上を疑うなんて、そんな事っ!!」


 混乱しながら王城への道を急ぐ私の耳に、その時、微かに金属の擦れるような音が聞こえた。


「これは、剣を打ち合う音? 誰かが、戦ってるのか!?」


 そう思った直後、今度は呻き声と何かが倒れる音、そして激しい赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


「赤ちゃんの……泣き、声?」


 先を急いでいた私だったが、妙な胸騒ぎがする。


「まさかっ!?」


 それが取り越し苦労である事を祈りながら、私は思わずその“声”のする方角に向かって走り出した。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 男が倒れていた。

 私がその場に辿り着いた時には、男は既に息絶えていた。

 そして、その男を手にかけたであろう複数の男たちの一人が腕に赤子を抱いている。


 ――泣き声は、あの赤ん坊のものか?――


「何をしている?」


 私は無謀にもその男たちに声をかけた。


「っ!?」


 瞬間、男たちが殺気立つ。


 だが、振り向いて私の顔を確認した途端……


「ハロルド様っ!」


 男たちは一挙に緊張を解きほぐした。

 その男たちは父サンダー直属の兵たちだった。

 屋敷を訪れる度、私に剣の手ほどきをしてくれる顔見知りも混じっている。


「どうしてこんな処に? その人は、死んでるのか? その赤ん坊は何なんだ?」


 状況が状況だけに安心は出来なかったが、それでも私は見知った者たちにこの場で出会えた事が嬉しかった。

 彼等に訊ねれば、城の……父の様子が少しでも把握出来るかもしれない。


 だが、彼らに歩み寄って男の一人が抱いている赤子の顔を見た私は


「我が(きみ)っ!?」


 一瞬、目の前が真っ暗になったような気がした。

 見間違える筈もない、青みがかった銀髪と翠玉の瞳。


「何故、我が王が? ロト王子殿下がこんな処にいらっしゃるっ!?」

「そ、それは……」


 男たちは言葉を濁す。


「まさか、本当なのか? 父上が、サンダー・フォル・レオニスがレグルス陛下を裏切ったと言うのはっ!?」

「ハロルド様っ! まさか……御存知なかったのですか!?」

「っ!!」


 その男たちの返答が私の希望を打ち砕く。


 ――やはり、父上は?――


 私はちらりと倒れている男を見た。


 ――アウストラリス家の紋章……。ハーリス様配下の者、か?――


「王子殿下をどうするつもりだ!?」


 私は剣に手を掛けながら彼らに詰問した。


「このまま城にお連れします。それが貴方のお父上サンダー・フォル・レオニス閣下の命でございますれば」

「っ!!」 


 ――父上、何故っ!?――


「城にお連れして……そして父上は、王子殿下をどうなさるおつもりなんだ!?」

「それは私共には与り知らぬ事でございます。右大臣閣下の御心一つかと」

「…………」


 ――どうして、こんな事を!?――


「……なら、このまま行かせる訳にはいかない! 王子殿下をこちらに……」


 そう言いながら、私は手を差し出した。


「それは、如何にハロルド様のご命令でも承服致しかねます」

「……どうしても?」

「我らにとっては、右大臣閣下のご命令こそが至上っ!」

「なら、力ずくでも止めるっ!」


 そう言って、私が剣を抜いた瞬間――


「邪魔立て為さるおつもりなら、如何にハロルド様と言えども容赦は致しません!」


 男たちの顔から表情が抜け落ちた。


【……コロ、ス……。ワレラノ、シメイヲ……ジャマスルモノニ、シヲ!】


「えっ!?」


 男たちが一斉に剣を抜いて、問答無用で切りかかって来る。


「これは……!?」


 私は辛うじて、その最初の一撃をかわした。


 全身から滲み出る殺気。だが、何処か男たちの様子がおかしい。


「誰かに操られてる? これは、ブラッドの催眠暗示かっ!?」


 そうであるならば、私に勝ち目はない。

 異能の能力者一族の長であるブラッドは、他人の精神を操る力に長けていた。

 私には、その催眠暗示を解く程の力はない。

 それに複数の大人、しかも熟練した兵士を相手に今の私の剣の腕で勝てる筈がなかった。

 しかも操られている彼等は一旦“敵”と見定めた者に容赦はない。

 そして、自らが傷つく事を厭う事もなかった。

 そんな彼等に私が勝てるとしたら、それは――!


 私は産まれて初めて、自らの“力”を攻撃の手段として使うしかなかった。

 勿論、手加減はするつもりだった。

 私は我が王さえ取り戻せれば、我が王の安全さえ確保出来れば……それで良かった。

 けれど……我が王を抱いていた男が、この場を切り抜ける為には足手纏いだと判断したのだろう。


「閣下は生死は問わぬと仰られた!」


 そう言うなり、我が王に剣を突き立てようとした。


「やめろぉぉおおお――――――っ!!」


 我が王の命が危ない!

 そう思った刹那、私は自分の中でプツリと何かが切れたような気がした。



 気がつくと、私は我が王を胸に抱いて立っていた。

 傍らに男が倒れている。

 私は、男の許に跳躍(ジャンプ)すると、“力”を使って男を絶命させ、我が王を抱いて再び跳躍したのだ。

 それは一瞬の出来事で、私はその一連の動作をほぼ無意識で行っていた。

 力を制御する事は勿論出来なかった。


 それを見ていた残りの男たちは恐怖のあまり一斉に私に剣を向ける。

 その目は同じ人間ではなく、異端の者(バケモノ)を見る厭忌の目。



     挿絵(By みてみん)



 我に返った時、男たちは皆、私の足許に倒れ伏していた。

 思わず生死を確認したが、息のある者は誰一人居ない。


 ――これ、を? 私が殺ったの、か?――


「ぐ……っ!」


 突然、襲う吐き気と全身の震え。


 ――怖いっ! 気持ちが悪、い。 誰か、私を……助け、てっ!!――


『ハロルド、其方の力は天から授かった貴い力だ。その力は自分の為ではなく、主君の為、人々の為に使うのだぞ』


 そう、父上から教えられていたのに――っ!


 主君の為、我が身を護る為とはいえ、初めて人を傷つける為に……

 否、他人(ひと)の命を奪う為に力を使ってしまった!


「怖い……私は自分が怖い! これは天から授かった貴い力なんかじゃなかったんだっ!!」



 その日、私は産まれて初めて人を殺めた。

 己が一瞬で他人の命を奪える“化け物”だと悟った日。


 自分への嫌悪から来る凄まじい吐き気と

 償いきれぬ罪を犯してしまった罪悪感と

 恐怖に因る全身の震えと

 拭っても拭っても溢れる涙と――


 私は我が王を抱きしめたまま、その場にしゃがみ込んで泣き崩れた。


 背後から近づく人影にも気づかぬまま……。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 どれ程、時間(とき)が経ったのだろう?


 我が(きみ)を抱きかかえたまま泣いていた私の耳に、落ち葉を踏む乾いた音が聞こえた。


「……誰、だっ!?」


 ――こんな近くに来るまで、気づかなかったなんてっ!――


 私がそう叫んだ瞬間……

 背後の人物は、それ以上近づかず、その場で立ち止まった。

 私は我が王に危害が及ばぬよう自身の身体を盾に、ゆっくりと振り向いた。


「ハロルドさ、ま? もしや、貴方はハロルド・コル・レオニス様ではありませんか?」

「っ!?」


 我が王を抱く(かいな)に力が籠る。


「何故、私を知っている!?」


 私は更に警戒を強めた。


「やはり、ハロルド様! 王城やお館で、お父上様とご一緒のところを何度がお見かけした事がございます。私はレグルス陛下直属の部隊に配属されておりました、マイク・フライハイトと申します」

「マイク……フライハイト?」


 そう言えば、見覚えがある。

 父サンダー・フォル・レオニスからも何度か名を聞いた事もあった。


 マイク・フライハイト――

 一級の剣の腕を持ち、真面目で実直で、レグルス陛下の信任も厚く……

 しかし、故あって暫く(いとま)を願い出たと聞いていた。

 それは――


「ハロルド様、その赤子は?」

「……っ!!」


 私は解きかけた警戒を再び強くする。


「青銀の髪、翠玉の瞳の……まさか、この御方はっ!?」

「……だとしたら、どうする?」


 剣では敵わない。

 敵うとしたら、私には“力”を使うより外に手立てはない。


「一体、何があったのですか? 私は暫く登城しておりませんし、情勢がよく分からぬのですが、良からぬ噂も耳にしております。……まさか、右大臣閣下がレグルス陛下に反旗を翻したと言うのは真なのですか!?」

「違……っ!」


 即座に口から出たのは否定の言葉。


「否、違うと思う。そんな事ある訳ない! あの父上に限って、そんなっ!」

「…………」


 何を言ってるんだ? 

 この期に及んで、私は未だそんな幻想を抱いているのか? 

 此処に、我が王がいらっしゃるのに? 

 彼等は父上の命だと、はっきりそう言ったのに。


 でも、もしかしたら……彼等と同じように父上もブラッドに操られているだけかもしれない。

 そうだ! きっと、そうに違いない! 

 私は父上から真実を聞くまでは、この目で真相を確かめるまでは……父上を信じたいっ!


「私はそれを確認する為に王城に向かう途中だったんだ。そうしたら……」


 言葉に詰まった私に


「襲われていた王子殿下を貴方が御救いされたのですね?」

「あ、ああ……」

「それで、貴方は、これからどうなさる御つもりなのですか?」

「どうって……私は兎に角、父上に会って事の真偽を確かめなくては。でも、御子様を御連れする事は出来ない。城の様子が分からない現状で、そんな危険な場所に……」

「…………」


「何かの間違いなら、いい! でも……」

「でしたら、ハロルド様。御子様をこの私にお託し下さいませんか? このマイク・フライハイトが命に代えても、御子様をお護り致します」

「……っ!?」


 フライハイト夫妻は長い間、子宝に恵まれなかった。

 半ば諦めていた晩年になって漸く夫人が懐妊。

 それを我が事のように喜ばれたレグルス陛下は、彼女の身体を気遣い、出産予定日の一ヶ月前からフライハイトに休暇を与えていた。


 だが、その喜びも束の間。

 難産の末に夫人は他界し、赤子は死産。

 マイク・フライハイトは一度に最愛の妻と我が子を失ったのだ。

 その凄まじい喪失の痛みと哀しみで、彼は無期の暇乞いをしていたのだった。


 そんな彼には、産まれたばかりの我が王が死んだ我が子と重なって見えたのかもしれない。

 私は、この男になら我が王を託せるかもしれないと思った。

 否、それ以外に選択肢はなかった。


「……なら、今直ぐサザンから離れろ! 今なら未だ、アル・サドマリク以外の国境の警備に手は回っていない筈だ。出来るだけ遠くへ! 出来れば、このキアヴェンナを離れてキュプロス・ティアバイトへ――っ!」

「承知致しました。それで貴方様は?」

「私は父に真偽を確かめてから後を追う。間違いならいい。でも、もしこれが事実ならば、父上を御諫めして、そして……」

「…………」


「兎に角、行け! 私の事は気にするな! 貴方は御子様の御事だけを考えてくれればいい! 逃亡の痕跡を一切残さないように」

「それでは、ハロルド様は?」

「大丈夫だ! 何処に居ようが、必ず見つける。私がお迎えに行くまで、我が王を……」

「御意。ハロルド様も、どうかご無事で。くれぐれも無茶な事はなさいませぬよう」

「ああ、分かってる!」


 私は我が王を胸に抱いて走り去るマイク・フライハイトの後ろ姿を断腸の想いで見送った。



     挿絵(By みてみん)



「申し訳ございません、我が王。もしかしたら、お迎えに行く事は出来ないかもしれません。もしも父が、サンダー・フォル・レオニスがレグルス陛下を弑逆した大罪人であるならば、その時はこの私が……」


 全ての遺体を埋葬した後、私は“真実”を見極めるべく王城への道を急いだ。

 ロトが生誕した時からサザンは祝賀ムード一色だったんですが、国を挙げてのお祝いは一ヶ月後に行われました。

 まあ、産まれて一ヶ月までは新生児で大事な時期ですし、グロディアの体調も戻った頃だし、国民にお披露目も兼ねてには丁度良い時期ですよね。


 そして、じっちゃん(マイク・フライハイト)登場です。

 実はじっちゃんにロトを託したのは当時八歳のハロルドだったんですね。

 ちょっと八歳とは思えないくらいしっかりしておりますけれども。


 ハロルドはこの内乱を機に凄く変わるんですよね、色んな意味で。

 凄く哀しい変化ですけれども。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ