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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「サザンの嵐篇」~時の道標(みちしるべ)~第六部
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~第五話~

「私は、全てを胸の内に仕舞って逝くのだ――と心に誓っておりました。その誓いを自ら破る事は出来ません。それを覆す事が出来るのは、我が(きみ)、貴方のご命令だけです」

「命令は、したくない。俺は、あんたの意思で話してほしいんだ。それじゃ、ダメか?」

「……いいえ」


 貴方なら、そう仰ると思っておりました。


「充分過ぎる……お言葉です」


 それは貴方が、私を対等の人間だと思って下さっている証しなのですから。

 本来ならば、貴方の御前にこうして姿を晒す事さえ許されないと身だというのに。

 我が王、私は……。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 サザン王国は広大な領土を誇る南の大国。

 そして王家は“北のアル・サドマリク、南のサザン”と並び称された名門だった。


 私はそのサザン王家に代々お仕えし、右大臣という要職を賜ったレオニス侯爵家の嫡男として生を受けた。

 現当主である父、右大臣サンダー・フォル・レオニス侯爵はサザン一の剣士と誉も高く、勇敢で思慮深く、そして誰よりも忠義を重んじる誠実な男だった。

 私はそんな父を誰よりも尊敬し、その父が主君と仰ぐレグルス・ナスル王との深い絆に幼い頃より憧れにも似た感情を抱いていた。


 レグルス陛下にとって父は“最も信頼する臣下”であり、“腹心の友”であり……

 そして父は――


『陛下は素晴らしい方だ! あの方こそが、この世界の王に相応しい!』

 

 ……と少年のように瞳を輝かせて誇らしげに語り、私はそれを子守唄代わりにして育った。

 私の主君に対する忠誠心は、この父から学んだと言っても過言ではない。


 御尊顔を拝し奉った事は何度かあったが、それは遠目からの事で、これほど父が心酔しているレグルス陛下とは一体どのような御方なのか?


「陛下にお会いしたい!」


 ……という私の意を汲んだ父に連れられて、私は五歳の時、初めてレグルス陛下への謁見を許された。


「…………!!」


 お会いした瞬間――

 私は暫く言葉を失って、ただその場に立ち尽くしていた。


 美しい方だとは知っていた。

 男にしておくのが惜しいほど麗しい御方だ――という噂話もよく耳にした。

 けれど、陛下のそれは単に綺麗とか、美しいと言うのとは訳が違う。


 “春の陽射しのように柔らかく暖かい光”とはよく言ったものだ。

 陛下がいらっしゃるだけで空気が変わる。

 穢れたものが洗い流されるような……そんな清浄な“気”を身に纏われた方だった。


 然も、剣を手にすれば……


「父上を、一瞬でっ!?」


 サザン一の剣士と謳われた父がまるで赤子同然だった。

 そのお姿からは想像も出来ない、正にその名の如く“獅子星(レグルス)”そのもので、私は一度に陛下の虜になってしまった。

 今なら、父の気持ちが手に取るように理解出来る。


「父上! 私も早く大きくなってレグルス陛下にお仕えしたいです! そして、私も父上のように“陛下の最も信頼する臣下”にっ!」


 陛下にお会いした感激冷めやらぬ私が、興奮した面持ちでそう父に告げると、父は真顔で


「ハロルド、其方は私の後継。右大臣の位置も、侯爵の地位も全て――いずれ其方に譲るつもりだが、陛下の“最も信頼する臣下”……これだけは如何に其方と言えども譲れぬな」

「えっ?」

「その位置だけは永遠に、この父のものだ!」

「そんな~っ! 父上はズルいです! 私も父上のようになりたいのに……」

「ははっ」


 父は苦笑しながら私の頭を大きな手で撫でると


「まあそう言うな、ハロルド。其方は“次代を担う者”だからな。其方がお仕えするのは“次代の王”だ」

「次代の、王?」

「ああ。やがて陛下も后を娶られよう。さすれば遠からず、お二人の間に世継ぎの御子がご誕生あそばすだろう。其方はその御子にお仕えするのだ。陛下とこの父のようにな」

「レグルス陛下と父上のように、私と世継ぎの御子様がっ?」

「ああ。どうだ、その座を勝ち取る自信はあるか? 好敵手(ライバル)は多いぞ」

「はい! 必ずそうなってみせます。誰にも譲るつもりはありません。この私が、次代の王の最も信頼する臣下に! 御子様の腹心の友にっ!!」


 私は瞳を輝かせてそう答えた。


 些か、父に言いくるめられた様な気がしないでもなかったが、それでも私は“その言葉"に憧れた。


 次代を担う者――

 これからご誕生あそばすであろう世継ぎの御子と私は、レグルス陛下と父のように、二人で“時代”を築いていくのだと……そう思った。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 それから暫くして、父はある一族の存在を知る。

 

 その一族は異能の能力を持つという理由だけで人々から蔑まれ虐げられ、家を追われ国を追われ――流浪の民となった哀しき人々だった。


 私が生まれ持った力を『其方の力は天から授かった貴い力だ。その力は自分の為ではなく、主君の為、人々の為に使うのだぞ』と説き続けた父は、私と同じ力を持つ一族が迫害を受けている……という現状を見過ごす事は到底出来なかった。

 父は、その事実をレグルス陛下にお伝えし、大層御心を痛められた陛下は、直ぐさま、その一族をサザンに迎え入れられた。

 その一族が“ブラッド一族”だった。


 ――私と同じ力を持つ一族――

 

 父が一族の族長(おさ)ブラッドを屋敷に招いた時、私は初めて会う能力者に少なからず興味を持っていた。

 しかし、その男を見た瞬間……



     挿絵(By みてみん)



「……これは、何っ!?」


 私は思念波(テレパシー)を遮断する術を幼い頃から心得ていたし、それ以降、他人の思考を読もうとした事はなかったが、その私の遮蔽をすり抜けてその男の感情が私の中に流れ込んで来た。


 それは言葉ではなく凄まじい“憎悪”。

 この世の全てを壊したい――と願っているような、どす暗い“怨嗟”の念。

 男は私と同じように思念波を遮断しているようだったが、それでも抑えきれない想いが全身から滲み出す。

 私は人の持つ“負”の感情を初めて垣間見たような気がした。


 ――この男をこのままにしておいていいのか? 

 いずれこの国に……レグルス陛下に災いとなるのではないかっ!?――


 そう思った私は、男が帰るや否や、その男から感じた“不安”を父に吐露した。

 けれど……


「それは仕方のない事なのだよ。彼等はそれほどの仕打ちを世の中から受けて来たのだ。だが心配するな、ハロルド。ブラッドたちの憎しみはやがて消える。レグルス陛下がそうして下さる。あの方のお傍に居れば、誰もが平和に幸福に生きられるのだからな」


 父は微笑みながら、私を諭すようにそう答えた。


 確かにその通りだと思った。

 レグルス陛下ならば、あの男の凍てついた心も融かす事が出来るのではないかと。でも、それで全てのを不安を拭えた訳ではなかった。

 しかし……


 その男が屋敷を訪ねる毎に、その負の感情が払拭されていくのが手に取るように解る。


「父上の仰った通りだ。やっぱり陛下は素晴らしい御方なんだ。あの男の、あの凄まじい負の想いすら変えてしまわれるのだから……!」


 私は益々、レグルス陛下に。

 そして陛下を心から信頼し敬愛している父との絆に、心魅かれるようになった。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「この方が、ロト王子殿下っ!」


 それから二年後――

 私は父と共に、産まれたばかりの世継ぎの王子にお目通りを許された。


「陛下によく似ておられる。ご成長あそばせば、陛下に勝るとも劣らぬ麗しい王になられるだろう」


 父は目を細めてそう言った。


「然も、王妃様譲りのアル・サドマリクの髪と瞳をお持ちとはっ! ハロルド、其方のお仕えする次代の王は“英雄王”の色をお持ちだぞ。何と素晴らしいっ!!」


 アル・サドマリクの髪と瞳。

 それは青銀の髪と翠玉(エメラルド・グリーン)の瞳を言う。

 聖アル・サドマリク建国の王にして、伝説の魔獣から世界を救った英雄――オリオニス・アル・サドマリクの髪と瞳の色を人々はそう呼んで憧憬し、アル・サドマリク王家は代々、その色を至高の色と定め偶像化してきた。

 彼等が殊更に英雄王の色に拘るのは、彼等が英雄王の血を継いではいても、直系の子孫ではない――という引け目から来るものだったのかもしれないが。


 しかも、長い年月を経て、その色は更に稀な色になっていた。

 現在のアル・サドマリク王家でこの色を持つのは、サザン王家に嫁がれたグロディア王妃以外には存在しない。

 それほど稀少な色を次代の王は持たれていたのだ。


 ――レグルス陛下に生き写しの見目と、英雄王の色を持たれた世継ぎの御子様。

 私がお仕えすべき次代の王!――


 けれど、産まれたばかりの王子殿下はあまりにも小さく頼りなげで、触れただけで今にも消えてしまいそうで……。

 今にして思えば恐れ多い事だが……思わず身を乗り出して覗き込んだ私の姿が、王子殿下の宝石のように美しい翠玉の瞳に映る。

 そして王子殿下の小さな手が、しっかりと私の指を握られたのだ。


「……っ!!」


 見た目の弱々しさからは想像も出来ない、その手の力強さに、私は“命の重さ”と”貴さ”を感じとった。


「この方は、こんな小さな御身体で精一杯生きていらっしゃるっ!」



     挿絵(By みてみん)



「貴方は私がお護りします。だから、早く大きくなって下さいね。そして私たちも陛下と父上のように……」


 夢にまで見た世継ぎの御子の誕生。

 そして未来への希望。


 父が、レグルス陛下と王妃様が――微笑みながら私たちを見守って下さる。

 泣きたくなるほど幸せな(とき)


 ――どうか、この刻が永遠に続きますように――


 その日……

 私は、産まれたばかりの世継ぎの御子に“永遠の忠誠”を誓った。

 我が(きみ)――貴方に、“私の全てを捧げる”とお誓いしたのだっ!

 補足ですが……

 アル・サドマリクの王族が、英雄王の血を継いではいても、直径の子孫ではないというのは、英雄王が早世した為に世継ぎが居なかったからです。

 後を継いだのは英雄王の兄の子でした(二代は青銀の髪と翠玉の瞳ではありません)

 英雄王には歳の離れた兄が居たんですね。

 兄自体は英雄王より先に戦死しておりますが。

 この事実を出来れば心の片隅にでも置いておいて頂けると幸いです。


 そして、サンダー&ブラッド挿絵初登場です。

 中学時代に描いていた漫画ではテラ&イサドラと一緒に登場するんですが、ロト視点ではなかなかサザン側は書けないので。

 ……って言っても14年前なので、サンダーもブラッドもまだ若いですけれども。

 この時はサンダー29歳、ブラッド32歳です。

 レグルスが21歳でグロディアが17歳ですね。

 レグルスとサンダーは8歳違いです。

 奇しくも、ロトとハロルドも8歳違いなんですけどね。

 ハロルドは父親似なんですよ。

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