~第四話~
「何で? どうして気づかなかった!? 俺がもっと早く気付いていたらっ!!」
俺はハロルドの傷口に手を当てて、心霊治療を試みた。
「兎に角、この出血だけでも早く止めなければ……っ!!」
「ロト王子、そんな事をしても無駄だ。この傷ではもう助からない。私に止めを、刺せっ!」
「嫌だ! 何で俺がそんな事っ!? あんたは必ず助ける! もう、喋るな!!」
そんな事は百も承知していた。
彼がもう助からないであろう事は、傷を見れば一目瞭然だ。
それでも、何もせずに諦める事は出来ない。
「無駄な事をするな、と言っている!」
ハロルドは治療している俺の手を振り払いながら叫んだ。
「何故、分からない! 私を殺すのはお前……。私は、お前の手で死ななければならないんだっ!!」
その瞬間、ハロルドを襲う激痛。
「ぐっ……!」
「何故? どうして、あんたはそこまで? 何で、自分を悪者にして死のうとするんだ!? 何かそうしなければならない理由があるのなら言ってくれ!!」
「…………」
だが、ハロルドは頑なに口を噤んで話そうとはしない。
「あんたは悪い奴なんかじゃない! 何時だって、あんたは俺の為に動いてくれてた。あんたは何時も俺を護ってくれてたんだ!」
「何を、馬鹿な! 私はサンダー・フォル・レオニスの後継、お前とは宿敵同士だ。何故、私がお前を護る必要がある?」
「俺たちが敵同士なんて、そんな事分かってる! でも、立場はそうでも、あんたはずっと俺の味方だった! 俺がアルマンディンで山賊に襲われた時も、俺を助けてくれたのはハロルドさん、あんたなんだろう?」
「っ!!」
「タラゼドさんが言ってたんだ。誰かが俺をタラゼドさんの家まで連れて来たんだって。タラゼドさんが俺に気づいた時にはもう、傷には応急手当てがしてあったって。その手当てが適切だったから俺は助かったんだって! あれは……あんた、なんだよなっ!?」
……気づいていた……のです、か?
「エリカさんは……」
「……?」
「俺を護る為に死んだエリカさんは、それが“あんたの願いだから”命を懸けると言ったんだ! だから俺は、あの時から確信してた。あんたは俺を護る為に傍に居てくれてたんだって!」
「…………」
「俺は……今の俺なら、あんたの心を読む事だって出来る」
「……っ!」
「あんたの力が万全ならば無理かもしれないけど、今のあんたなら多分……出来る。でも、そんな事はしたくない! 俺は本当の事が知りたい。あんたの事をもっとよく知りたいんだ! このまま、あんたの事を何も知らないまま、あんたを失うのは嫌なんだっ!!」
「……失いたく、ない? 私を……?」
「ああ! 俺はもう大切な人を誰も失いたくないんだ!」
「…………」
――貴方という方はっ!――
伝えない方が良いと思った。
その方が貴方を傷つけずに済むだろうと。
私は悪で……
貴方はその悪を打ち倒し、世界を救った英雄で。
私の事など忘れ去って、ただ光の道を歩んで下さったらと
……そう願っていた。
けれど、貴方は誰よりも純粋でお優しくて
仮令、私が純然たる敵だったとしても、私が死ねば……
否、誰を失ったとしても……
貴方はその優しい御心を痛めるのだろうと、私は知っていた筈なのに
私の為に貴方を苦しめるなど、そんな事があってはならなかったのに……
全ては私が至らぬ所為。
私が何も告げずに貴方の許を去る事が、更に貴方を苦しめる――というのならば
私は……
「それが貴方のご命令ならば従います。それが貴方のお望みならば、是非もありません」
「ハロルド、さん?」
「敵を欺く為とはいえ、今までの数々のご無礼……どうか、お許し下さい」
「…………」
そうしてハロルドはゆっくり目を閉じると、淡々と……
その壮絶な己の人生を語り始めた。
何時もはロト視点で書いている「時の道標」ですが、今回はロト&ハロルド両視点で書いております。
そして次回からはハロルドの回想、ハロルド視点になります。




