~第二話~
「ハロルド・コル・レオニス、そんな事はさせん! ロト王子殿下はこの私が命に代えてもお護りする!!」
ネメシスが俺を背後に庇いながら、そう叫んだ。
「ハロルド? あれが“漆黒の悪魔”!?」
「サンダーの後継にして、ブラッド一族の力を凌駕する最強の能力者!」
「これは、あの男の仕業だったのかっ!?」
アガスティーア探索の為に散っていた兵士たちが俺を護る為に次々に集まって来る。
「ロト王子殿下、お退がり下さい。此処は我々が……」
ネメシスの言葉に
「ダメだ! 力には“力”でしか対抗出来ない。それに、ハロルドさんは、敵なんかじゃないっ!」
「っ!?」
『次は、お前の番だ!』
そうハロルドから告げられたにも係わらず、俺には未だ彼が“敵”だとは思えなかった。
【漆黒の悪魔】――仮令、彼がそう呼ばれる存在なのだとしても。
――俺はそんなハロルドさんは知らない。
俺の知っているハロルドさんは、そんな人じゃないっ!――
『あの男を……ハロルド・コル・レオニスを絶対に信じちゃダメ! あの男は顔色一つ変えずに何人もの仲間の命を奪った……血も涙もない、悪魔のような男なのよ!』
セレナの言葉が蘇る。
セレナにとっても、ハロルドは“悪魔”以外の何者でもなかった。
ただ、エリカの件があってからは、彼女もそれまでの印象とのギャップにかなり戸惑っていたようだったけれど……。
「未だ、そんな甘い事を言っているのか? 私は忠告した筈だ! 『敵に情けを掛けるな! 躊躇えば自らが命を落とす事になる』と」
「っ!!」
その時、俺とハロルドの会話に
「ちょ、ちょっと待って下さい! ロト王子殿下、貴方はあの男と面識があるのですか?」
ネメシスが割って入った。
彼の疑問は尤もだった。
今までの経緯を知らない者にとっては、俺たちの会話は奇異以外の何者でもない。
俺たちは紛れもなく“宿敵同士”なのだから!
「ああ、何度も助けてもらったんだ」
「助けた? あの男が、貴方をっ!?」
俺の言葉を聞いて、ネメシスは信じられない――と言わんばかりに目を見開いた。
ハロルドはゆっくりと階段を降りながら更に言葉を紡ぐ。
「私はお前を利用していただけだ。ブラッド一族の力を削ぐ為に」
「え……っ!?」
「お前もブラッド一族も、私にとっては等しく邪魔者以外の何者でもないのだからな!」
「そ、んな……」
今までも見た事もない、氷のように冷たいハロルドの微笑み。
俺はまるで金縛りにあったようにその場から動けない。
「ハロルド・コル・レオニス! ブラッド一族は貴様に……サンダーに忠誠を誓った者たちだろう? それをこうも簡単に切り捨てるなどっ!?」
俺の心を代弁するかのようにネメシスが叫ぶ。
「力を持つ者など、最早必要ない。ロト王子、お前には感謝している。ここまで戦力を削ぎ、そしてお前を倒す為にこの場に集結してくれたお蔭で、ブラッド一族殲滅が容易になったのだからな。後はお前さえ葬れば、この私に対抗出来る者はこの世に存在しない。私がこの世界の覇者となるのだ!」
「ハロルドさん……そんな事、本気でっ!?」
「それが貴様の狙いか? やはり、噂通りの悪魔だな!」
「…………」
「最早、問答無用だ! お前たちには此処で死んでもらう!」
そう言うが早いか、ハロルドは右手に持っていた剣を投げ捨てると“力”に因る凄まじい攻撃を仕掛けてきた。
俺はネメシスを突き飛ばすと、防御壁を張って応戦する。
何て力だ!
以前の俺の力なら、防御壁を張ったところで、簡単に破られていた。
ハロルドさん……あんた、まさか本気で俺たちをっ!?
「し、しかし……」
その場に居ても何も出来ない事は一目瞭然だったが、俺一人を此処に残す事を躊躇うネメシスに
「能力者との戦闘に、それ以外の者は足手纏いにしかならない! 早く、此処から離れて! そして、タラゼドさんに伝えて下さい! 出来るだけ、このアガスティーアから離れるようにと!」
「えっ!?」
「もし俺とハロルドさんが本気で闘えば、アガスティーアは崩壊するかもしれない。巻き添えになったら大変だから!」
「そ、そんなに……!?」
ネメシスの言葉に俺は頷きながら
「だから、早くっ!」
(これが、最強と呼ばれる能力者同士の闘い? 何という……)
「承知しました。けれど、ロト王子殿下。どうか、くれぐれもご無理はなさらずに」
「ああ、分かってる!」
俺はネメシスたちがアガスティーアから撤退するのを確認してから防御壁を解除。
……と同時に、剣を抜いてハロルドの許へ跳躍した。
ハロルドの懐に飛び込んで、彼の真意が知りたかった。
離れていたのでは、彼の本心は分からない。
ハロルドは俺の剣を防御壁で受け止めながら不敵に微笑んだ。
その途端、防御壁に触れた俺の剣が木端微塵に砕け散る。
「な……っ!?」
彼が俺の剣を避けずに、受け止めるであろう事は予想していた。
だが、まさか砕け散るとは――!
彼の力の前では、剣など、どれ程の役にも立たない。
「何て、力だ」
俺は、ハロルドの力に脅威を感じた。
けれど躊躇している暇はない。
容赦なく降り注ぐハロルドの攻撃をかわしながら
「どうして、こんな事をっ!?」
彼に疑問を投げかける。
「私が世界を牛耳る為だ、と言っただろう」
「嘘だっ! あんたはそんな奴じゃない! 他に何か理由があるなら言ってくれ!」
「…………」
だが、彼からは俺の望む答えは返って来ない。
「……?」
しかし俺は闘いながら、ある“事実”に気がついた。
それは最初に彼が攻撃を仕掛けて来た時から感じていた違和感。
「ハロルドさんは何故、左手を使わない? 俺の相手など片腕で充分だと思っているのか? それとも、使わないんじゃなくて……使えな、い?」
――まさかっ!
彼は左手を負傷しているの、か!?――




