~最終話~
「ウェルナー大尉。君の任務は“SILVER・WOLF”の所在を突き止め、彼を監視する事。そして彼を連邦に、この私の許に連れて来る事だ!」
それが、銀河連邦軍最高司令長官・サンダー将軍からノアールに下された厳命だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ノアールはエル・ナトから惑星シュアトへと向かう旅客船に乗船していた。
傍らには“SILVER・WOLF”が居る。
惑星GHI-EK4行きを断念するのは些か心残りだったが、そもそも“エターナル・サザン”を調べてみようと思ったのはSDAを探る為、それが“SILVER・WOLF”に繋がると確信していたからに他ならない。
「まさか、君が私に同行する事を承諾してくれるとは思ってなかったよ、ロトくん」
「別に、あんたの為じゃない。俺には俺の理由がある」
ロトはぶっきらぼうにそう答えた。
此処はまだSDAの勢力圏。
ノアールは相変わらず“シェダル・アルファンド”の偽名を使っていた。
この旅客船べクルックス号が惑星シュアトに到着すれば、其処はもう連邦の勢力圏。
シュアトの連邦軍基地から直接、地球(連邦軍本部)に帰還出来る。
“SILVER・WOLF”をサンダー長官の許に連行すれば、取りあえずノアールの任務は終了する。
その後の事は連邦本部が決める事だ。
「君は何故、サンダー長官を“フォーマルハウト”と呼ぶんだ?」
べクルックス号の通路でガラス越しに暗い宇宙を眺めていたロトにノアールはそう問いかけた。
「……?」
「いや、ファースト・ネームで呼ぶほどの間柄ではないんじゃないかと」
そのノアールの言葉に、ロトは心底驚いた顔をした。
「えっ? ああ……そう言えば、そうだな」
まさか、自覚がなかったのか?
無意識で“サンダー”という名を避けていたという事なのか?
「ひょっとして、過去に何かあったのか? “サンダー”という名の人物と?」
その途端、ロトの表情が剣呑としたものに変わる。
「そんな事を、あんたに話す必要があるのか?」
声の口調はさほど変わらないが、明らかに怒気を含んだ物言いに
「あっ……いや、話したくないなら別に構わないが……」
触れてはいけないものに触れてしまったようで、ノアールは思わず言葉を濁すしかない。
「…………」
ロトは無言のまま暫く星々を見つめていたが
「まあ、そうだな。今となっては、そいつが憎いとか恨んでる……なんて感情はない。一番苦しんでたのも辛かったのも“そいつ”だったんだって分かってるから。でもだからと言って、敢えて口にしたい名ではないな」
「そいつ?」
「ああ。“仇”だと言えば満足か? 俺から全てを奪った張本人の名だと答えれば、あんたは納得出来るか?」
「っ!」
ノアールはその瞬間、言葉を発する事が出来なかった。
不用意な質問をしてしまった詫びの言葉すらも。
“SILVER・WOLF”と呼ばれるこの少年には、一体どんな過去があるのだろう?
その言葉とは裏腹に、ほとんど感情の籠らない淡々とした口調が、伝説のエスパーの持つ途方もない孤独を余計に感じさせずにはおかなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「後一時間ほどで惑星シュアトに到着する。此処はもう連邦の勢力圏だ」
客室の椅子に座っていたロトにノアールがそう話しかけると
「そうか。なら、もう潮時だな」
ロトはそう答えながら徐に立ち上がった。
そして……
「ノアール……さん。もう一度だけ、あんたに忠告しておく。今は未だ、サザンには近づくな。行けば必ず殺される。あそこはSDAにとって、それだけ重要な惑星なんだ」
――そして、俺にとってもな――
「あんたがサザンに行くべき理由があるなら、何時かそのチャンスは巡って来るだろう。俺もフォーマルハウトに会わなければならないとは思うが、今は未だその時じゃない」
そう言うと、ロトの姿は忽然と消え失せた。
「くそ……っ!」
ノアールは悔しさの余り、両の拳をテーブルに叩き付ける。
「最初からそのつもりだったのか? 彼は連邦に来る気など更々なかった。俺を連邦の勢力圏まで無事に送り届ける事が、彼の目的だったんだ!」
こうしてロトは再びノアールの前から姿を消した。
監視する者とされる者の、これが二度目の邂逅だった。
~エターナル・サザン~ 完
まあ、エル・ナトで「サザンに近づくな!」ってノアールに言っても無駄だと分かってるんでロトはこういう方法を採ったんですけどね。
この時点でノアールの事を知ってる人物だと認識してるので、ロトは最初の出逢いより態度が軟化してます。
逆にノアールを自分の監視役に選んだサンダー長官に憤りを感じてますけどね。
この二人の関係が分かるのはノアールの過去話「風のオルフィー」までお待ち下さいませ。