~それぞれの決意~3
「おおぉおお~~~っ! あの方が陛下の、亡きレグルス様の御子!」
「なんと凛々しく、お美しい! ほんに、レグルス様に生き写しじゃっ!」
「そして、王妃様譲りのアル・サドマリクの青銀の髪とエメラルド・グリーンの瞳! 彼の英雄王の再来!!」
「復活した伝説の魔獣を再び封印し、世界を御救い下さった!!」
人々は歓喜の声を挙げる。
「そう、あの御方こそがサザン王! 我らの救世主だ!!」と──
人々の期待と信頼を一身に背負ってロトは進む。
彼等が自分を通して亡きレグルス・ナスルを見ている事も、英雄王を重ねている事も分かっていた。
かつて、それは重い枷となって彼の心を雁字搦めにしていたが、現在は違う。
フリー、今なら解るよ。
お前の想いが。言葉には出来なかった、お前の最期の願いが……。
『今の貴方にはレグルス陛下の存在は重荷、かもしれない。だが何時か、陛下の事を……貴方が陛下の血を継いでるいる事を誇りに思える日が、きっと来る。そして、その時こそ貴方は陛下を超えていけると俺は信じてるんだ』
そうだね、フリー。本当にその通りだ。
父上を超えられるかどうか……それは未だ分からない。
でも俺はもう、父上の存在を重荷だとは思わない。
父上は、何時も俺の傍に居て、俺を護っていて下さる。
否、父上だけじゃない。母上もハーリスも、そしてお前も……。
俺と共に在った全ての人々の想いが、俺を支えてくれてるんだ!
分かってるよ、フリー。
俺はもう、誰も泣かせたりしない。セレナも、そして皆も。
それが俺の望みであり、幸せだから。
俺はその為に(逃げずに)前に進む事を選んだんだ!
ロトを総大将に掲げた連合軍が国境を越え、サザン本国に進軍を開始してから、サザン軍兵士の連合への寝返りが更に加速していた。
否、彼等にしてみればサンダーこそが反逆者であり、サザンの正統なる御子は仕えるべき主君であり……。
彼らにとって、その行為は裏切りではなく、表がえったに過ぎなかった。
「我らの王が御帰還なされる!」
「サザンの正統なる後継者、ロト王子殿下の御為にっ!!」
「王城への道を開けよ!!」
各地で民衆までもが連合軍に加担する。
長きに渡り、人々を“力”で捻じ伏せ、“恐怖”で支配していたサンダー・フォル・レオニスの治世に対する、それが人々の応えだった。
僅かに残るのはサンダー直属の精鋭軍のみ。
しかも、その精鋭軍にさえも、連合に寝返ろうとする者が後を絶たない。
強大なサンダーの牙城は今や砂上の楼閣にも等しい存在であった。
……が、それでも尚、サンダーがサザンの支配者足り得るのは、彼の“ブラッド一族”の存在ゆえである――と言っても過言ではなかった。
人とは違う“力”を持って産まれたというだけで“化け物”と呼ばれ、恐れられ虐げられてきた弱き人々は、だが一反その力を行使すれば、只人に抗う術はない。
如何に連合軍の数が膨れ上がろうとも、それはサンダーにとって“烏合の衆”に過ぎず、決して“脅威”足り得なかったのである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アガスティーア・エルゲバル──
それは遙か昔、他国の侵略から王城(主君)を護る為に建設された要塞。
長い平和の御世には無用の長物であった為、14年前の内乱が勃発するまでは、全く違う目的で使用されていた建造物だった。
だが今、それは本来の姿を取り戻す。
「此処を落とされれば、我らにはもう後はない。だが、如何に連合軍の数が多かろうが、只人など我らの敵ではない! 狙うはロト王子ただ一人! 何としても王子の首級を挙げよ!!」
イサドラの下知が飛んだ。
ブラッド一族は“異能の能力”を持つ一族とは言っても、人の心が分かる、未来が見通せる――等の、大凡“戦闘”には不向きな者たちが大半を占めていた。
だが一握りとは言え、たった一人で一個師団に匹敵する能力を持つ者たちが存在する。
その一族最強と呼ばれる戦士たちを、父であり族長でもあるブラッドから託されたイサドラは、僅かに残ったサンダー直属の精鋭軍を伴って、連合軍の……否、ロト王子の王城への進軍を阻むべくアガスティーアに陣を敷いていた。
これが実質的な最終決戦となるであろう事は、誰の目にも明らかだった。
父ブラッドは王城にてサンダーの護衛に当たっている。
「何としても、サンダー様と父上をお護りしなければ……」
(サンダー様の御世が終われば、私の夢も潰える。それだけは、何としても阻止しなければならない!)
イサドラは再度、そう心に誓う。
幼き日の、今も忘れ得ぬ光景を脳裏に浮かべながら……。
…───…───…───…───…───…───…───…───…
『どうかされましたか?』
優しい声が響く。
『……っ!?』
『迷ってしまったんですね、此処は広いから。どうか、泣かないで下さい。私が貴女のお父上の処まで連れて行って差し上げます』
広い回廊でただ独り、蹲って泣いていた幼いイサドラが、不意に頭上から聞こえた“声”に驚いて顔を上げると、美しい漆黒の髪の少年が優しい笑顔を浮かべながら彼女に手を差し伸べた。
『……あんたは、誰っ?』
その日から彼女には“夢”が出来た。
そして、その“夢”を叶える為に生きている――
…───…───…───…───…───…───…───…───…
「イサドラ!」
物思いに耽っていたイサドラは、己を呼ぶ予期せぬ声に……ふと我に返った。
「ハロルド?」
「此処で、ロト王子を迎え撃つのか?」
「ハロルド、やっぱり来てくれたのね! 信じていたわっ!」
イサドラはそう言いながら、ハロルドに駆け寄った。
「勿論、一緒に戦ってくれるんでしょう!?」
「…………」
「確かに、その通りだ。私にとっても、此処が正念場。これで終わる。長かった戦いも、何もかも……全て! そして、私の宿願が成就するのだ」
エリカ、もう直ぐだ。
もう直ぐ、貴女の傍に逝ける――
~それぞれの決意~ 完




