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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「サザンの嵐篇」~時の道標(みちしるべ)~第五部
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~最終話~

 俺がトゥバンの屋敷のベッドの上で目を覚ましたのは、それから二日ほど後の事だった。


「ごめんなさい、ロト。誰もお婆様に御礼が言えなかった……」


 セレナは申し訳なさそうに俺にそう告げた。


 セレナやトゥバンたちは、事後処理(対アルマンディン戦とツイホォンに因る被害等)に追われていて、その最中(さなか)に占い師のお婆は何時の間にか姿を消していた。


 ――ほんと、お婆らしいな――


 お婆が居なかったらどうなっていただろう?

 本当に彼女には世話になった。

 その礼が言えなかったのは確かに心残りだったが、“お婆にはきっとまた会える。彼女は何時も俺を見守ってくれている”そんな根拠のない確信が俺の中に在った。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 それから更に一週間ほど経ち、俺は自身の体力の回復を待ちかねて、かつて英雄王ロト・オリオニス・アル・サドマリクがそうしたように、“アマラントの青い石”を封印した。

 その俺の決断に、トゥバンもタラゼドも否やを唱えた訳ではなかったが、その直後の俺の決意を知って……


「それで宜しいのですか、ロト王子殿下?」


 トゥバンは襟を正して俺にもう一度そう問いかけた。


「ああ。俺はレグルス・ナスルの後継、サザンの次代の王として、叔父上――アル・サドマリク王アドラ・ジャウザ陛下に会おうと思っている」

「それは、対サザン勢力の“旗頭”として起つという御決意をされたという事ですか? サザンと戦う御覚悟を決められたと?」

「戦う覚悟があるかと問われても、“ある”と断言する事は俺には出来ない。未だ、そんな甘い事をと言われるかもしれないけど、出来る事なら俺は誰とも戦いたくはない。誰も傷つけたくない。でも、逃げる事は出来ないから。サザンの所為で、サンダーの治世で苦しんでる人は沢山居るから。俺はそれを止めたい! そして、会って聞きたい事があるんだ、サンダー大臣に」

「サンダーに? 一体何を?」


「裏切りの理由(わけ)を」

「っ!?」


「彼は父レグルス・ナスルの最も信頼する臣下であり、“腹心の友”だったと聞いた。何故、父を裏切ったのか? 何故、必要以上に人々を苦しめるのか? 同じ事を、ブラッドにも聞いてみたい」

「では何故、現在(いま)アマラントの青い石を手放されたのですか? あの力があれば、貴方様の望みは容易に叶う筈……」

「…………」


 俺は一瞬、答えに戸惑った。トゥバンの疑問は尤もだと思う。

 けれど……


(あれ)は魔獣との闘いに置いてのみ使用する事を許されるものだ。あの力を人との争いに使うべきじゃない。あれは人智を超えるものだから……。だから、英雄王は(あれ)を封印したんだ」

「っ!!」


 伝説の英雄王の名を出されては、彼らに反論の余地はない。


 アマラントの青い石の制御は容易ではない。

 使い方を誤れば、石は魔獣以上の脅威になる。

 もし(あれ)が邪な人間の手に渡れば、世界は滅亡への一途を辿る。


 英雄王ロト・オリオニス・アル・サドマリクがアマラントの青い石を封じた真の理由は、石を“魔獣”からではなく“人”から護る為だったのだという事を、俺は敢えて口にはしなかった。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 それから間もなくトゥバンの計らいで、タラゼドを供に俺とセレナはアル・サドマリクの王城を目指す四頭立ての豪奢な四輪馬車(コーチ)の中に居た。

 タラゼドの傍らには「共に行く!」と強引について来たハマルの姿もある。


 その道中で、俺はタラゼドからトゥバンがアドラ・ジャウザから咎めを受けていた事を聞かされた。


「貴方のご無事を何故もっと早く王にお知らせしなかったのか……という事に、いたくご立腹されておいでだったのです」

「そうか。トゥバンさんには申し訳ない事をしちゃったなあ~。でも、それは俺も不思議に思ってた。トゥバンさんもタラゼドさんも、最初から俺の素性に気づいてたよね? 何で叔父上に知らせなかったんだ?」


 トゥバンは、アドラ・ジャウザ王が俺を捜している事を知っていた筈だ。

 俺の素性に確信が持てなかったとしても、その事をも含めて主君に事の次第を報告するのは臣下としての当然の責務だろう。……にも拘らず、彼はその報告義務を怠った。

 ……と言うよりも、その事実を黙殺した。


「それはロト様、貴方の意思を尊重したいとトゥバン様が思われたからです」

「俺の、意思?」

「はい」


 シドウィル・クリストバル坑道が崩落した時点で、俺たちの生存は絶望視されていた。

 だが、伝説の魔獣を封印した事で俺が生きているという事実を隠し通す事は不可能になった。

 噂だけが独り歩きする――


 それは当然、アドラ・ジャウザ王の耳にも入る。

 事の真相を確かめたいアドラ・ジャウザ王は何度もトゥバンに使者を送ったが、トゥバンは最後まで白を切り通した。

 全てを失ったと思っていた俺に、サザンの王子という“位置”は重荷でしかない。

 それを知っていたトゥバンは、主君よりも俺の意思を尊重し、俺の意思を確認した後、初めて動いたのだ。


「貴方に王としての御自覚が、旗頭としての御覚悟がお戻りになるまで、アドラ様だけには貴方の御生存をお知らせするべきではないと……」

「……?」

「我が王アドラ・ジャウザ陛下は賢帝と名高く、豪胆で、しかも情け深い素晴らしき御方ではございますが、唯一つだけ欠点がおありになりまして……」

「欠点?」

「それは追々、お話すると致しましょう。王都までの道程はまだまだ長うございますから」

「…………」


 タラゼドは苦笑いを浮かべながらそう言葉を濁した。


 叔父上の、欠点?


 それが気にならない訳ではなかったが、いずれ分かる事だと思っていたし、俺は敢えてそれを問い質そうとは思わなかった。

 そして、その件はすっかり忘れ去っていたのだが、叔父アドラ・ジャウザに会った時、俺はタラゼドの言葉の意味を嫌と言うほど思い知らされる破目になる。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 王都に到着した俺は、無事にアドラ・ジャウザ王との再会を果たした(俺に記憶はないが、俺は叔父上に抱かれた事もあり、初対面ではないらしい)

 勿論、それは“叔父”と“甥”が再会するのとは訳が違う。

 公の席での、アル・サドマリク王と次代のサザン王との対面である。



      挿絵(By みてみん)



 アル・サドマリクは元々、公然と対サザンを明言している国である為、サザンの圧政に苦しむ人々の拠り所となっている。

 しかしアドラ王は、彼ら反乱軍の支援はしても、自らが動く事は決してなかった。


『打倒サザンを掲げ、対サザン勢力を束ねた連合軍の旗頭足り得るのは、伝説の英雄王と同じ髪と瞳の色を持ち、名君と名高かった亡きサザン王レグルス・ナスルの血を継ぐ御子――ロト・オリオニス・サザンでなければならない!』


 それがアドラ・ジャウザの持論だった。


 絶望視されていたサザンの正統なる御子の生存。

 しかも、その御子が復活した魔獣を再び封印した事実――英雄王の再来――は、長きに渡り虐げられていた人々の心を鼓舞し、立ち上がらせるには充分過ぎた。


 各地で反撃の狼煙が上がる――


 アルマンディンをはじめとするサザンに従属を余儀なくされていた国々は一斉蜂起し、連合軍に組する為にアル・サドマリクに集結する。

 その中にアルゴール・ネメシスの姿も在った。


 そして、それはサザン国内も例外ではない。

 否、寧ろサザン本国の方が苛烈だった。

 主君を弑逆し、サザンを牛耳った反逆者(サンダー)を民は決して許さなかった(裏を返せば、それだけ父レグルス・ナスルが民から慕われていたという事なのだが)

 強大な武力と、逆らう者には容赦ない恐怖に因る統治で世界を牛耳っていたサンダーの治世は、内と外から徐々に崩壊しつつあった。


 ――時代は動き始める――


「俺はもう、運命から逃れる事は出来ないんだな」



 而して――俺を“総大将”に掲げ、アル・サドマリク軍を主軸とする対サザン連合軍は彼の国に宣戦布告!

 サザン本国への進軍を開始した──――


 ロトの回想という形で書いている「時の道標」は、それ故に淡々と話が進んでいる訳ですが、最終話は何時も以上にその傾向が強いです。

 カットしたエピソードも沢山あったりします。

 なので次回からは、その補足も兼ねて番外篇をアップさせて頂こうと思っています。


 番外篇~それぞれの決意~全三話です。

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