~第四話~
遠い記憶が俺に教える──
ツイホォンの唯一無二の弱点と封印の法。
しかし“知っている”からと言って、それは決して容易い事ではなかった。
ツイホォンは復活する度に……
歳月と共に弱まる“俺”の結界を破る度に……
その力を増していく。
そう、魔獣は蘇るほどに強大になるのだ!
「浮いてる? ううん、空を飛んでる! 今までロトにそんな力は……」
セレナは目の前の光景が信じられなかった。
「お婆様。これがアマラントの青い石の力、なんですか?」
「いいや、これはロトの力――念動力の応用だよ」
「えっ? でも、防御壁を張りながら、あれだけの念動力を使うなんて……」
「大丈夫だ。心配は要らぬよ、セレナ姫。ロトは元々、万能の能力者。異なる複数の力を同時に使う事が出来る。だがまあ、それは多大な力を使う事ゆえ、石が無くばそうそう大きな力を使う事も、長時間持続させる事も容易ではないがな。しかし、ロトはどれほどの力も使ってはおらぬ。僅かな力でもアマラントの青い石があれば、その力は何百倍、何万倍にも膨れ上がる。そう、恰も“無限の力”を使えるが如くにな」
「無限の力? “アマラントの青い石”は、それを持つ者の力を増幅させるという事ですか? だから、能力者でなければ使えない?」
「そうだ。アマラントの青い石は一種の増幅器。それ故に、力の加減が難しい」
もし、その事を知らずにロトが普段通りに力を振えば、この辺り一帯は瞬時に焦土と化していただろう。
だからこそロトは、ツイホォンとの闘いの記憶だけは受け入れた。
幾度も幾度も繰り返されてきた(宿命の)闘いの記憶。
前世の記憶そのものは無意識化で拒絶したにも係わらず……。
だが、その事にロト自身が違和感を感じていない筈はない。
己の前身が英雄王ロト・オリオニス・アル・サドマリクだと薄々は気づいているのだとしても。
それとも現在は、皆を護りたい一心で他の事を考える余裕がない……という事が幸いしているのか?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
魔獣を封印するには、唯一の弱点である額の角を破壊して、怯んだ隙に結界に封じ込める。
英雄王がアマラントの青い石を封じたあの二重結界。
「でも、それは前世ほど容易くはない」
実際に闘って俺は確信した。
「ツイホォンは、過去よりも強くなっている。恐らく、俺の全ての力を石で増幅しても封印出来るかどうか分からない」
しかし、躊躇っている暇はなかった。
「考えても仕方ない。出来なければ世界が滅びる」
――それだけは!――
ツイホォンの身体は紫暗の霊衣に護られているが、仮令それを破ったとしても、奴の全身は強固な鱗状の皮膚に護られて傷一つつける事は叶わない。
唯一、破壊する事が可能なのは、魔獣の額に穿たれし一本角。
それは最大の攻撃力を誇る“最強の矛”ではあったが、同時に“諸刃の剣”でもあった。
俺は手にした剣を“力”で強化してツイホォンの紫暗の霊衣を切り裂いた。
……と同時に瞬間移動でツイホォンに肉薄した。
角は破壊しても直ぐに再生する(再生能力を持つツイホォンの角が弱点足り得るのは、対アマラントの青い石戦に限定される)
その数秒間にツイホォンを二重結界に封じ込める。
その瞬き一つの刹那こそが、唯一の勝機だった。
ツイホォンの角が折れたと同時に力で強化していた剣が粉々に砕け散った。
ピシュッ!
その欠片の一つが俺の頬を掠めて血飛沫が飛ぶ。
「痛っ!」
だが、躊躇してはいられない。
魔獣が怯んだ、その一瞬が勝負だった!
俺は渾身の力をアマラントの青い石で増幅し、ツイホォンの身体を封じ込める。
グオォオオオ――─――─ッ!
青銀に輝く光に包まれて、もがく魔獣から一際大きな咆哮が発せられた後、まるで、それが断末魔の叫びであったかの如く、魔獣は静かに瞼を閉じて 全身の動きを止めた。
ドックン……
ドッ、クン……
心音が、徐々に低下していく───
ドッ、ク……ン ドッ……ク……
ドッ…… ッ…… ………… ………………
…… …… ………… ……………… ………………
俺はツイホォンの鼓動が聞こえなくなったのを確認して、青銀の結界の上に更なる結界を結んだ。
淡いエメラルド・グリーンに輝くその結界は、魔獣を異空間の彼方へと封じ込める。
「……終わ、った……」
そう思った瞬間、俺は意識を失った。
だが……
ツイホォンの心臓は完全に停止した訳ではない。
一年に数回、魔獣のそれは鼓動する。
仮死の眠り――そう、魔獣は結界の中で、ただ深く静かに眠っているに過ぎないのだ。




