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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「SILVER・WOLF篇」~ブルーの章・Ⅱ~詩&SS
79/236

~天の花・地の星(ひかり)~

 少年は疲れ果てていた。


 ESP(超能力)を使い果たした訳ではない。

 何故なら少年は、どれほどの力も使ってはいなかったから。


 他者を一蹴する凄まじい力を行使しながら……しかし、それは少年にとって、掌を反すほどの細やかな力に過ぎなかった。

 けれど、それ故に少年は力を制御(コントロール)する為に神経をすり減らす。


 誰も傷つけず、周りへの被害を最小限に止める為には、そうするしか術はなかった。


 遠い昔――

 その場から逃げる為……その女性(ひと)の注意をほんの一瞬逸らす為に放った一撃で、その女性を死に追いやった哀しみを……

 暴走した己の力の所為で、大勢の罪なき人々の命を奪ってしまった悔恨を……

 昨日の事のように憶えている少年は、だからこそ、もう誰一人傷つけたくはなかった。


 圧倒的な力で襲撃者(てき)を昏倒させて、その場を離脱する――それが少年の闘い方。

 だが、相手(てき)にとっては“圧倒的な力”でも、少年にはそうではない。

 それは恰も……怪力の持ち主が、壊れやすい繊細な代物を取り扱う状態に酷似していた。


 かつての自分を遥かに凌駕する力。

 その力の制御(コントロール)を未だ出来かねて、少年は己の力を持て余していた。

 それ故に、擦り切れる精神。

 疲弊しきった心と身体。


「……疲、れた」


 少年はその場に蹲った。



…───…───…───…───…───…───…───…───…



「どうしたの? 具合、悪いの?」


 頭上で声がする。

 見上げると、若い母親と幼い兄妹が心配そうに少年を見つめていた。


「……何でもない。放っておいてくれ!」


 そう素っ気なく答えて、立ち上がろうとした途端……


(うち)、直ぐ近くなんだ。……こっち、こっち!」


 そう言って、幼い兄と妹が少年の腕を掴んで歩き出した。


「えっ? いや、俺は……」


 強引に振り解く訳にもいかず、どうしたものかと縋るように母親を見ると、彼女は優しく微笑みながら頷いた。



…───…───…───…───…───…───…───…───…



 ――どうして直ぐに其の場を去らなかったのか?――


 後悔だけが募る。


 人の温もりに飢えていた。

 人の優しさに縋りたかった。

 ほんの僅かな時間でもいい――!


 その少年の弱さが、無関係の優しい人たちを己の闘いに巻き込み……

 そして、その貴いの命を失わせた。


 どんなに力を得ようとも……

 どれだけ(とき)を重ねようと……

 俺は、誰も護れない――っ!



 ――優しい人たち……俺が、殺した――



 その強烈な想いは、更に少年の心を追いつめる。


 己の闘いに誰も巻き込まない為に、人里を離れ、険しい山道を彷徨う少年。


 そんな時……

 少年は瀕死の狼の赤ん坊を見つけた。


 母狼は既に死んでいた。

 もう一匹の仔狼も既に息絶えていた。


「この仔だけは救いたいっ!」


 少年は己の生命エネルギーをその仔に注ぎ込む。


「死ぬな……お前は生きろ。お前の母と兄弟の分まで――っ!」



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



《降って来ましたね》


 その“声”は少年の頭の中で聞こえた。

 否、心に響いた……と言った方が正しいだろうか?


 それは言葉ではない。

 想いを、感情を――─言葉を介さずに相手に伝える。

 “彼”の言葉は思念波(テレパシー)と呼ばれるものだった。


 それに対して


「ああ、そうだな」


 少年は思念波ではなく、言葉でそう答える。


 それが少年の優しさ。

 彼に極力ESPを使わないように諭す為。

 何時か――普通の狼として自然の中へ、仲間の許へ帰す為。

 そして何よりも、己が“人”である事を忘れぬ為!



…───…───…───…───…───…───…───…───…



 一目に付かぬ雪深い山の中で、少年と狼はひっそりと暮らしていた。


 少年の容姿は、彼が望むと望まざるとに拘わらず、一目で他人の目を惹きつける。

 その少年の傍らに白銀の狼が居れば、その存在は――!


 一人と一匹が肩を寄せ合って生きる様は、寒さから身を護る為、小鳥が身を寄せ合う姿に……何処か似ていた。



    挿絵(By みてみん)



《ロトっ!》


 彼(白銀の狼)の瞳は少年を護ろうと、瞬時に銀から金へと変化する。


 そして、少年もまた……。



    挿絵(By みてみん)



 風花が舞い散る薄暗い空に、天に向かって真っ直ぐに伸びる青銀の光は、麓の村だけではなく、遠く離れた町からも、はっきりと見る事が出来たのだった。




           ブルーの章SS~天の花・地の(ひかり)~ 完

「ブルーの章・Ⅱ」のSS(ショート・ストーリー)です。


 前回、ロト&ブルーのイラスト&詩をUPしたので、何となく書きたくなりました。

 Ⅰの紹介も兼ねたSSですし、当然の如く続きません。


 因みに、狼の数え方は一匹でも一頭でもOKみたいなんですが、厳密に分けると、普通&小型なら一匹、大型なら一頭って感じだったので、ブルーは普通サイズだし、“一匹”と表記した方が“野良犬”という雰囲気が出ていいかなあ~と思いました。

 あっ、“野良狼”ですね。

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