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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「サザンの嵐篇」~時の道標(みちしるべ)~第四部
76/236

~第六話~

 ――俺の一番会いたい人? 一体、誰の事なんだ?――


 問い質そうとしたが、ネメシスはそれ以上何も言わず、腕組みしたまま窓の外を眺めているばかりだった。

 彼の真意を、その表情から読み取る事は難しい。

 だが彼の言葉通り、程なく騒然としていた室外が静けさを取り戻した。


 戦闘が終わったのか?


 ……と思う間もなく、この部屋へと走り寄る複数の足音が聞こえた。


「オリオニス、お兄ちゃんっ!」


 部屋の扉が開くなり、ハマルはそう叫んで俺にしがみ付いた。


「ハマル、無事だったのか? 良かった!」

「うん! お兄ちゃんこそ、本当に良かった!」


 ハマルは俺の身を案じて避難壕には戻らず、丘の上から軍施設の入り口付近まで降りて来たところをシュトルーフェ軍の兵士に保護されたようだった。


「ロト王子殿下、ご無事で何よりです」

「トゥバンさん、タラゼドさん!」


 ハマルと一緒に二人の姿もあった。


「傷は、大丈夫なのか?」

「はい。ほんの掠り傷ですので」


 タラゼドは左腕に包帯を巻いていたが、その腕を軽く上下に動かしながらそう答えた。


「そうか、良かった」


 俺はホッと胸を撫で下ろす。


 ネメシスが言った『俺の会いたい人』とはハマルたちの事だったのか。

 そう思った刹那、その様子を入り口近くで見ていた見知らぬ男達の一人が、ゆっくりと前に歩み出た。


「それではネメシス提督、御身を拘束させて頂く!」


 そう言いながらネメシスの両手首に枷をはめた。

 その男の目配せで背後に居た男たちがネメシスを連行しようとする。


「ちょ……ちょっと、待ってくれ! ネメシスは……」

「ロト王子殿下、何も仰いますな。私は敗戦の将、これが当然の処遇なのですから」

「でも、お前は俺の為に!」

「それ以上は……」


 ネメシスは首を横に振りながらそう言った。


 そうして徐にタラゼドの方に向き直ると


「それでは、後の事は宜しく頼む」


 そう言って自ら歩を進め、部屋の外へ出て行く。


「ネメシスっ!」



    挿絵(By みてみん)



 大切な者を失う度に、幾度となく繰り返してきた問い。


 こんな作戦……。

 自ら汚名を着て、しかも敗戦の将というレッテルを貼られる事も覚悟して。

 何故、そんな事が出来るんだ? 彼は俺を知らないのに! 

 サザンの王子というのはそんなに大切な存在なのか? 

 それは単なる幻影に過ぎないのに! 

 俺にはそこまでしてもらう価値なんてないのにっ!!

 

 伝説の英雄王と同じ髪と瞳を持つというだけで……

 そして、名君と謳われたレグルス・ナスル王の血を継ぐというだけで……

 俺には何の力もない!

 大切な人さえ、護れない!

 ……なのに何で?


 捨てようとしても捨てられない。

 俺はサザンの王子なんかじゃない! 

 そう叫んでも誰もそれを認めてくれない。

 許してはくれない!


 苦しい。

 苦しくて、苦しくて……

 その重圧に押しつぶされてしまいそうだ!



 再び襲う全身を貫く心の痛み。

 だが、その時……


「貴方がロト・オリオニス様ですか?」


 先ほどネメシスに枷をつけた男が、俺にそう問いかけた。


 男の名はアガード・ルクバー。

 ネメシスの朋友(とも)で、彼と内通している反乱軍の指導者の一人だった。


「確かに! これでは見間違う筈もございませんなあ~」


 ルクバーは俺の顔をマジマジと眺めながらそう言った。


「アル・サドマリク王家独特の青銀の髪とエメラルド・グリーンの瞳。そして何より、レグルス・ナスル陛下生き写しの、その麗しき御尊顔! 間違いございませんよ、姫! ロト・オリオニス王子殿下、ご本人に相違御座いません!!」


 ――姫っ?――


 思いもよらぬ男の言葉に、彼が何を言っているのか分からず、呆然している俺の背後から……


「……ロト!」


 予期せぬ声が聞こえた。


「えっ?」


 まさか、そんな筈ない! 

 彼女が此処に居る訳が。でも聞き違える訳、ない! 

 この声は……っ!!


 それが夢ではない事を祈りながら、俺は恐る恐る振り返った。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「セレ、ナ……」


 名を呼ぶのが精一杯だった。

 俺は思わずセレナに駆け寄って彼女を抱きしめた。

 傷の痛みなど微塵も感じなかった。



    挿絵(By みてみん)



「ごめんね、ロト。貴方を哀しませて本当に、ごめんなさい」


 ――私を失った貴方がどうなるか。

 私、ちゃんと解ってたのに……

 なのに私の我儘の所為で、こんなに貴方を苦しめた。

 でも、貴方は生きていてくれたんだね。


 ロト……

 私、解ったよ。私は、貴方を護るだけじゃダメなんだね。

 私は、私自身も護らなくちゃならないの。

 ロト、貴方の為に――



 サザンに組する事を良しとしない者たちで構成される反乱軍の拠点は、アルマンディンのあちこちに点在していたが、その最大勢力はアル・サドマリクとアルマンディンを隔てる“天然の要塞”と呼ばれる切り立った崖が連なる山々の谷間にその本拠地を構えていた。

 谷間の岩壁には幾つかの横穴が存在し、それは奥で一つの巨大な空洞を形成して、“隠れ家”とするには最適の場所だったのだ。

 しかし、落差の激しいこの渓谷を通って行き来するには上からの落石は命取り。

 そこで、その落石から身を護る為に彼等は何重もの頑丈な(ネット)を渓谷の上空に張り巡らせていた。

 セレナは偶然にもそのネットの上に転落し、奇跡的に掠り傷程度で済んだのだった。



 ――良かった! 君が無事で、本当に良かった!――



 俺とセレナは生きて再び逢えた幸せを噛み締めていた。


 けれど、それは束の間の安息に過ぎなかった。

 宿命(さだめ)は、俺にひと時の安らぎさえも与えてはくれない。



    挿絵(By みてみん)




 一瞬、風が吹いたような気がした。


 いや、窓は開いてはいない。

 俺が感じたものは“風”ではなく、何者かの“気配”。


 これは、空間を切り裂く感覚? 

 前にも同じ経験をした事がある。……遥か遠い昔に。


 ――そして何かが、来るっ!――


 そう思った瞬間、凄まじい轟音が鳴り響いた。

 それと同時に地面が揺れる。

 この音は何かが爆発した音ではない。

 そして揺れは、地震のそれとは明らかに違っていた。


 一体何が起こったのか?

 思わず外に飛び出した俺たちが見たものは、大凡この世のものとは思えぬ存在(もの)


「何だ、あれはっ!?」

「まさか……っ!?」


 兵士たちが口々に叫んだ。


 天まで届くかと思われるほどの巨大な体躯と背から生えし漆黒の翼。

 そして額に穿たれた一本角。

 正しく伝説に語られた姿そのままに!


 それは、英雄王オリオニス・アル・サドマリクに因って封じられた、世界を滅ぼす“魔獣”の復活した姿。


 アル・サドマリクは唯一不可侵の国。

 その禁忌を破った、これは代償なのか?


 かくして数百年の歳月(とき)を経て、封印されし伝説の魔獣は復活を遂げる──

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