表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「サザンの嵐篇」~時の道標(みちしるべ)~第四部
73/236

~第三話~

 世界はサザンの脅威に曝されていた。


 既にサザンの占領下に置かれ、その圧政に苦しむ人々。

 サザン侵攻に因って更に拡大する戦禍──増大する人々の怨嗟と嘆きの声。

 けれど、そんな状況に在ってサザンと国境を接するにも係わらず、この国だけが平和だった。


 聖アル・サドマリク王国──

 英雄王伝説に護られた唯一不可侵の国。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「オリオニスお兄ちゃん!」


 ハマルは俺をそう呼んで四六時中、俺の傍を離れない。


 もし俺に弟が居たら、こんな感じなのかなあ~?


 何時の間にか、そう思うようになっていた。

 最初は煩わしさしか感じなかった。

 "頼むから独りにしてほしい"と思っていた筈なのに。


 俺はハマルの屈託のない笑顔と明るさに救われていた。

 ハマルを可愛いと心底思う。

 タラゼドやこの村の人々にも良くしてもらっている。

 なのに俺は、その恩に報いる術もない。


「ハマルが俺を、伝説の英雄王の名で呼ぶ理由か……」


 トゥバンの言葉が脳裏を過ぎる。


「そんな事を今更言われても、俺に何が出来る? 皆は俺の中に英雄王と父王レグルス・ナスルの幻影を勝手に重ねてるだけなんだ。でも俺は二人とは違う。俺は、ただの無力で愚かな子供に過ぎないんだ。俺は、俺の大切な人さえ護れなかった。世界なんて救える訳がない!」


 俺は、もう少し傷が癒えたら、此処から離れようと思っていた。

 セレナが居たからこそ、彼女を護る為にアドラ・ジャウザ王を頼ろうと思った。

 けれど彼女を失ってしまった今、俺には“此処”に居る理由がない。

 いや、此処には居ない方がいい!

 俺にその気がなくても、多分周りはそんな事を許してはくれない。

 俺はサザンの王子にも、何も知らなかった頃にも戻れない。


 だからもう、スィーには帰れない。

 この世界の何処にも、俺の居場所はないんだっ!


「どうしたの、オリオニスお兄ちゃん?」


 心配そうにハマルが俺の顔を覗き込んだ。


 しまった! そんなに深刻そうな顔をしてたのか、俺は?


 気がつけば悲観的な事ばかり考えてしまうけれど、この子にだけは余計な心配を掛けたくはない。

 ハマルを安心させようと


「あっ、いや! 何でもな……」


 そう答えようとした瞬間……



 ドゥオォォオオオ――――――ン!!

 


 凄まじい轟音と共に地面が揺れた。


「爆発音っ!?」


 それはクドリアビーの方角からだった。


「オリオニスお兄ちゃん……今の、何っ!?」


 腕にしがみ付きながら不安げに俺を見つめるハマルに


「クドリアビーの方からだった。砦で何かあったのかもしれない。此処に居ろ、ハマル! ちょっと見て来るから!」

「えっ? でも、お兄ちゃん怪我してるのに」

「大丈夫、無理はしないから」


 そう言って、砦の方に向かおうとした時


「ハマル! オリオニス様!!」


 俺たちを呼ぶタラゼドの声が聞こえた。


「オリオニス様、今直ぐ長老様のお屋敷へ。此処は危のうございます!」


 タラゼドの切羽詰まった様子に、それが只ならぬ事態である事を直感した。


「此処が危ない? 一体、何があったんですか?」

「アルマンディンです! アルマンディン軍が国境を越えて侵攻して来たのです!!」

「アルマンディンが? どうして急に? そんな事をしたら一挙に全面戦争に突入するかもしれないのに!? それに此処は、唯一不可侵の国じゃ……?」


 ま、まさか……俺が居る、から?

 俺が此処に居る事をサザンに知られたから、なんじゃ……!?


 一瞬、目の前が真っ暗になった。


 ――また俺の所為で、何の関係もない人達を巻き込んでしまうのか!?――


「理由は分かりません! 確かにここ数日、アルマンディンに不穏な動きが見られるという報告はあったのですが、まさか何の前触れもなく……」

「…………」

「兎に角、此処に居ては危険です。早く長老様のお屋敷へっ! あそこには、こんな時の為に極秘裏に作られた避難壕があるのです」

「えっ? でも、タラゼドさんは……?」

「私にはやらなければならない事があります。兎に角、貴方はそちらに!」


「嫌だっ! 俺だけ避難するなんて、そんな事出来る訳ない! それに、これは俺の所為かもしれないんだ! 俺が何時までも此処に居たから!」

「それは違います! お気持ちは分かりますが、今はお聞きわけ下さい! それに、これはシュトルーフェ領主トゥバン・クリューゲル様のご命令でもあるのです!」

「ダメだ! もう俺の所為で、誰かが犠牲になるのは嫌なんだ! 俺が行く! 俺がアルマンディンに投降すれば……」


 そう言いながら砦に向かおうとした俺の腕を、タラゼドは握りしめると


「おやめ下さい! ロト・オリオニス……王子殿下!!」


「っ!!」


 一瞬、身体が硬直する。


「やっぱり、知ってたんだな。……だったら尚更だ! 俺が行けば、それで済む! あんたたちが俺の所為で傷つく必要なんかないんだ!!」

「いけません! 貴方は我らの唯一の希望(ひかり)。貴方を失う訳にはいかないのです!!」

「や、やめてくれ! もう聞きたくない! 俺にはそんな価値はないんだ! 放してくれ、タラゼドさん! 俺は……」


 俺がタラゼドの手を振り解こうとした瞬間――



    挿絵(By みてみん)



「御無礼をお許し下さい、ロト様。けれど、貴方だけは絶対に失う訳にはいかないのです!」



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 どれくらい気を失っていたのだろう?

 俺は微かに聞こえてくる爆発音と振動で目を覚ました。


「地、響き?」


 天井からバラバラと埃が落ちる。──薄暗い部屋。


「此処は……?」


 思わず飛び起きた。


「皆はどうなったんだ? タラゼドさん……ハマルは!?」


 こうしてはいられない!


 多分、此処がタラゼドが言っていた"避難壕"なのだろう。

 俺は避難壕(ここ)を出ようと、扉の取っ手に手を伸ばした。

 だが鍵は外から掛かっているようで、取っ手はびくともしない。

 天井近くにある明かり窓は位置が高すぎて届かなかったし、小さすぎて出られそうもない。


「誰か……誰が居ませんか? ここを開けて下さい! 誰か――――っ!!」


 思いっきり扉を叩きながら、声の限りに叫んでも――返答はない。


「誰も近くに居ないのか?」


 そうするうちに、外の爆発音が更に激しくなった。


「タラゼドさん! ハマル――っ!!」


 居ても立っても居られない。


「また俺の所為で大切な人を失うのか? どうして、俺は……」


 喪失の痛みが再び全身を駆け巡る。

 胸が、苦しい!


 俺は思いっきり扉に体当たりした。

 何度も、何度も力の限り。

 けれど、避難壕として作られている扉は頑丈で、俺の力ではどうにもならない。

 扉に激突する衝撃で、まだ治りきらない背中と蟀谷の傷口が開いて出血し始めた。

 何度も扉を叩いた所為で拳にも血が滲む。

 それでも止める訳にはいかない。諦める訳にはいかないんだ!


「力さえ、使えたら……」


 こんな力、要らないと思った。

 大切な人も護れずに、ただ他人(ひと)を傷つけるだけの力なら、こんな力は要らないと確かに願った。

 でも、その力があればハマルたちを救えるのなら!


 “力”が欲しい!

 なのに……何故、使えない!?


 俺はまた、何も出来ずに失うのか?

 俺の所為で……。心優しい、大切な人たちを!

 セレナを護れなかった、あの時のように――っ!!



    挿絵(By みてみん)

 補足ですが……

 実はハマルは、このシュトルーフェ領主トゥバン・クリューゲルの孫に当たります。タラゼドはトゥバンの娘婿なんですね。

 トゥバンの最も信頼する部下でもありました。

 だから、極秘裏に作られた避難壕の存在も知っているのです。

 タラゼドの妻=トゥバンの娘は既に故人ですけどね。

 ハマルが産まれて直ぐに病死しました。

 因みにハマルは、普段はトゥバンを“長老様”、一緒に居る時は“おじい様”と呼びます。


 細かい話ですが、一枚目の挿絵でタラゼドがロトの左手首を掴んでいるのは、ロトが右手首を怪我してるからです。

 外傷もですが、骨にヒビが入ってるんですよ←ロトに手を放させる為にセレナが剣でつけた例の傷です。

 大分良くなってはいたんですが、無茶してるから悪化してますけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ