~第二話~
「わざわざ呼び立てて済まなかった。報告書は読ませてもらったよ。“SILVER・WOLF”に接触出来たようだな」
ノアールは再びサンダー長官の呼び出しを受けていた。
「はい、しかし……」
答えようとしたノアールを、サンダーは無言のまま左手で制すると、徐に椅子から立ち上がり窓際に歩み寄った。
そして外の景色に目をやりながら
「あれは今も“ロト”と名乗っているかね?」
と訊ねた。
「失礼ですが、長官とあの少年はどういうご関係なのですか?」
「私とロトの関係? 命の恩人だと言った筈だが?」
「それだけ、ですか?」
「どういう意味かね?」
「いえ彼が……“SILVER・WOLF”が長官を“フォーマルハウト”と呼んでいたものですから」
「そうか」
そう答えたまま、サンダーは暫く無言で外の景色を眺めていたが
「27年前、私はSDAのエスパーに襲われて瀕死の重傷を負った。彼が来てくれなかったら、恐らく私は死んでいただろう。私の身体がこうなったのは、その時の怪我の為だ。公には任務中の事故という事になっているがね」
サンダーの任務自体が最重要機密事項だったが為に真相は闇に葬られた。
勿論、その事故の記録に“SILVER・WOLF”の名は記載されてはいない。
「その時は勿論、名すら聞けなかった。私は意識が混濁していたし、彼は直ぐに居なくなってしまったからね。命を救ってもらった礼が言えたのも、名を聞けたのも、それから12年後だ。そしてその3年後、任務中にもう一度だけ……いずれも束の間の邂逅だった。それだけの関係だ」
「…………」
「ただ、私の名を知った時の彼の反応が……“サンダー”という名を聞いた時、感情をほとんど表に出さない彼の表情が僅かに曇った。理由は分からんがね」
「…………」
“SILVER・WOLF”がサンダー長官をファースト・ネームで呼ぶのは、長官自身ではなく“サンダー”という名の方に理由があるという事か?
その名を口にしたくない訳が過去にあったという事なのか?
暫く沈黙が続いた後――
「ところでウェルナー大尉。その後の彼の足取りは掴んでいるのかね?」
「いえ、残念ながら今のところ有力な情報は……。けれど少し調べたい事があって、GHI-EK4に行ってみようかと」
「ほぉ~“エターナル・サザン”にかね? だが、サザンはSDAの勢力が最も強い星域に在る惑星。連邦の力は及ばんよ」
「分かっています。ですが、隠密捜査はお手の物ですから」
ノアールはそう答えた。
グラファイス少尉からGHI-EK4の事を聞かされて以降、ずっと考えていた。
“SILVER・WOLF”の事は連邦より、多分SDAの方がよく知っている。
連邦内で“SILVER・WOLF”の実在は上層部の、それも極一部しか知らされていない最重要機密事項だ。
だが明らかにSDAは、連邦と“SILVER・WOLF”の接触を阻止しようとしている。
“SILVER・WOLF”の情報を連邦内で得る事は難しい。
だが、裏の情報を得たくとも、ソールを頼る事はもう出来ない。
再び彼を巻き込む事になる。
正攻法で“SILVER・WOLF”の情報が得られないのなら搦め手を使うしかない。
ノアールは、SDAを調べてみようと思い立った。
SDA自体が本拠地すら分からない謎の組織。
SDAを探れば、必ず“SILVER・WOLF”に突き当たる。
確かな根拠がある訳ではなかったが、ノアールはそう確信していた。
「ウェルナー大尉。一つだけ忠告しておこう。27年前、私がSDAのエスパーに襲撃されたのは“エターナル・サザン”だったのだよ」
――くれぐれも気をつけ給え――
挿絵、後ろ姿ばっかりで申し訳ありません。
背中で語る男を目指してたんですが、気がついたら後ろ姿ばかりになっちゃいました(苦笑