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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「サザンの嵐篇」~時の道標(みちしるべ)~第三部
64/236

~第四話~

「ロト……ど、の……」


 母グロディアは最期の力を振り絞って俺の頬に手を伸ばした。


「母上っ!」


 優しく温かな母の手の感触。

 けれど、その温かさが少しずつ失われていく。


「あの言葉を……。貴方の父君、レグルス・ナスル陛下の最期の御言葉を、どうか……忘れずに。私は、貴方を息子に持てて……本当に幸せ、でし……た……」

「母上?」


「見守って、いますよ。レグルス様と共に……貴方の行く末を。私たちは何時も、貴方の傍……に…………」


 ぽとり……と、母の手が彼女の胸の上に落ちた。


「母上っ?」

「グロディア様!?」


「あ……」


 声が出ない。

 その瞬間、まるで俺と母だけが異空間に迷い込んでしまったような……そんな気がした。


 何も見えない。何も聞こえない!

 俺はただ、母の亡骸を抱きしめる事しか出来なかった。

 けれど……


「王子、何をしてるっ!? しっかりしろ! 此処は戦場だっ!!」


 フリーの切羽詰まった声に思わず我に返った。


 何時の間にか防御壁(シールド)は消滅していた。

 喪失の哀しみで胸が痛い! 身体が、動かない――っ!!


 だが非情にも、フリーの言う通り此処は戦場。

 しかも敵の狙いは俺の首級(くび)

 戦意を失い無防備にその場に座り込んだ俺は、彼らにとって絶好の標的(ターゲット)でしかない。


「王子ぃ――――っ!!」


 その叫びが、俺が聞いたフリーの最期の言葉だった。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 顔を上げた俺の目に映った光景。

 それは、俺とセレナを庇って無数の矢と敵兵の刃を一身に受けるフリーの後ろ姿。



    挿絵(By みてみん)



 俺の声に応えるようにフリーは振り向くと、微笑みながら小さく頷いた。


 王子と姫が無事なら、それでいい! 

 心配するな。俺は大丈夫だから――そう言っているようだった。


 まるで何事もなかったかのように。



 ――なあ、王子。俺は貴方に一つだけ嘘をついてた。


 前に貴方に『俺が父上に……レグルス・ナスル王に似てると思う?』って聞かれた時、『俺は思った事もないぞ、そんな事』って答えたよな。

 あれは嘘だ。 

 いや、嘘って言ってしまうと語弊があるかなあ~?


 確かに髪と瞳の色の違いで受ける印象は違うんだ。

 でも貴方はもっと奥深いところでレグルス陛下に似ている。

 その外見だけじゃなく、想いがな。

 限りなく優しくて、強い。


 今の貴方にはレグルス陛下の存在は重荷かもしれない。

 だが、何時か陛下の事を……。

 貴方が陛下の血を継いでるいる事を誇りに思える日がきっと来る。

 そして、その時こそ貴方は、陛下を超えていける(・・・・・・)と俺は信じてるんだ。


 それにしても、まだ死にたかねぇなあ~。

 もっと貴方の傍に居てやりたかった。

 臣下の分際で、不遜な想いだと分かっちゃ~いるが、俺は貴方を歳の離れた弟。

 否、無二の友だと思ってた。

 まるで息子のように可愛くて、愛おしかったんだ――



 フリーは槍や弓が何本も刺さったままの状態で一歩、二歩と歩み出た。


 その鬼気迫る様相に敵兵たちは恐れをなして後退る。

 死しても尚"王子たちを護るんだ!"というその強固な意志のままに。



 ――姫と幸せになるんだぞ。王子、貴方は決して不幸になっちゃ駄目だ!――



 彼は両腕を広げた状態で立ったまま絶命する。


 俺はそれを身動き一つ出来ず、ただ見ている事しか出来なかった。



 ……何で? 

 フリー、どうして……こんな事に、なる?



    挿絵(By みてみん)



「ロトっ! ダメぇえええぇぇ――――っ!!」


 セレナの必死の叫びも届かなかった。

 心の奥底から湧き上がる己自身に対する怒りと喪失の哀しみ。

 その凄まじい“想い”は“力”を伴って暴走する。



「何だっ? この爆発音と地鳴りはっ!?」


 その衝撃波は数十キロも離れたシドウィルにも届いていた。


「王っ! アドラ・ジャウザ王、大変です! 坑道が、シドウィル・クリストバル坑道が崩れ落ちました!!」

「何だとっ!?」


 ――一体、何が起こっている? 姉上、ご無事か? ロト王子っ!?



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 それはエリカの時と同様だった。


 否、あの時とは比べ物にならない凄まじい“力”の爆発!

 俺自身にも制御(コントロール)不能な力は、全てのものを飲み込んでいく。


 その巨大な力の奔流の中で、だがセレナは……防御壁を張って辛うじて耐えていた。


「いいえ、違う。分かっている! これは私の力じゃない! 私の消えかけた力で、この凄まじい力を防げる筈がない。意識がなくても、たとえ自我を失っていても……ロトは私を護ってくれている。でも、このままじゃいけない。この力はロトの身体だけじゃなく、心まで壊してしまう! 止めなければ……何としても、この私の命に代えてもっ!」


 セレナは防御壁を解除して俺を抱きしめた。

 我が身を顧みない無償の行為。

 そう、あの時のハロルドのように。


 そして俺の心に直接語りかける。


 それはセレナに残された最後の“力”。

 “俺を護りたい”と願う彼女の想いの強さによって増幅された、ただ一度の“奇蹟の力”だった――


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