~第一話~
「ウェルナー、大尉?」
背後から躊躇いがちに名を呼ばれて、ノアールが徐に振り返ると
「やっぱり、ウェルナー大尉だ! 地球に戻られてたんですね、お帰りなさい! 通りで、フロントの女の子たちが騒いでた訳だ」
合点がいったとばかりに、ウォルフは破顔する。
「この間はガイロスから帰られて、直ぐにまた任務だったでしょう? 彼女たち、がっかりしてたんですよ。今度はゆっくり出来るんですか?」
「いや、ジャマーを修理する間だけだ。また直ぐ任務に戻る。それよりいい処で会った。ウォルフ、お前に聞きたい事があったんだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ノアールは地球――銀河連邦本部――に帰還していた。
オーバーフローしたジャマーは物理的な故障もあって修理を必要としていたし、幾つか確認しておきたい事もあったからだ。
ウォルフ・グラファイス少尉は、ノアールの士官学校の後輩に当たる人物で、ESP研究開発部門のエキスパートでもあった。
「ウォルフ……連邦には現在、特Aランク以上の超能力者は何人居る?」
連邦本部のMESSROOM(食堂)の窓際のテーブルに着くや否や、ノアールは単刀直入にウォルフにそう切り出した。
「九人です、が……」
何故、大尉がそんな質問を?――そう言いたげな、怪訝そうな顔をしながら、それでもウォルフは端的に問いに答えてくれた。
「そんなに少ないのか?」
「はい。ESPはランクが一つ違うとその発現する能力は格段に違います。特AランクはかつてはSランクに分類されてましたから」
「かつて?」
「はい。現在Sランクに分類されるエスパーは、連邦・SDA合わせても一人しか存在しません。でもこれは“眉唾物”なので、Sランクは存在しないと言った方が正しいです」
この時点でノアールは、SDAの情報まで求めてはいなかったが、ESP研究は連邦よりSDAの方が遙かに進んでいるという理由で、ウォルフは彼の組織を引き合いに出す。
「眉唾物?」
「はい。大尉も噂くらい聞かれた事があるでしょう? “SILVER・WOLF”です」
「っ!」
「でも居もしない伝説のエスパーの為に、Sランクを空席にするなんて馬鹿げてますよね? 上層部は何を考えてるんだか……」
溜息混じりに呆れ顔でそう話すウォルフに
(知らないのか? ESPのエキスパートにさえ“SILVER・WOLF”の実在は知らされてはいない、のか?)
ノアールは自らの任務の重要性を再認識せずにはいられなかった。
「ところでウォルフ。ESPジャマーはAランクのESPを無効化出来る筈だな?」
「はい、Aランクまでなら完全に無効化出来ます」
「それ以上なら、どうなんだ?」
「それ以上? 特Aランクという事ですか?」
ウォルフの問いに、ノアールが肯くと
「特AランクのESPはBランクレベルにまで下げる事は出来ますが、完全に無効化するのは今のところ不可能です。許容範囲を超えると付加がかかってシャットダウンします。でも、Bランクまで下げられれば対ESP戦においては格段に有利になります。実際、実戦に登用出来るのはAランク以上ですから」
「…………」
ESPランクはD⇒C⇒B⇒A⇒特A⇒Sランクに分類される。
Dランクは潜在的な素養ありと認められる者。
Cランクは訓練によりその素養引き出す過程の者(ESPカードを中てるくらいが関の山だが)
BランクはPK(念動力)が使える――と言ってもスプーン曲げやごく軽量のものを動かせる程度。
連邦の戦力として実際に役立つのはAランク以上の者たち。
だからこそ、ESP能力を持つ者は稀少だった。
(えっ? ちょっと待て! ジャマーが作動してる時のSDAの力は、Bランクなんてレベルじゃなかったぞ! だからシャットダウンする前に本体がいかれちまったのか?)
許容量を遙かに超えるESPを瞬時に受けた所為で?
それとも“SILVER・WOLF”の力なのか?
何時そうなったのか分からないから、断定する事は出来ないが……。
「ウォルフ、ジャマーは本当に特Aランクの力をBランクにまで制御出来るのか?」
「ええ、連邦の特Aであれば」
「連邦の?」
「はい、SDAの特Aには当てはまりません。彼ら、SDAの特Aランクのエスパーには特別な“何か”が付与されていて、彼らのESPは増幅されてるみたいなんです」
「ESPを増幅? 特別な何かって、何なんだ?」
ノアールの質問に、ウォルフは"やれやれ"と言わんばかりの深い溜息をつきながら
「それが分かれば苦労はしません。連邦だって使ってますよ。連邦がSDAに手を出せない最大の要因ですからね、ESP部門の著しい遅れは! ただ、その何かはSDAの勢力圏にある或る惑星から産出されるものだという話は聞いた事があります」
「或る惑星?」