~最終話~
「ロト――っ!」
「王子っ!」
セレナたちが駆け寄ってくる。
逃げなければならない事は分かっていた。
でも、身体が動かない。
何故、どうして、こんな事になる?
もう誰も死なせたくない……そう思っているのにっ!
その頃――
「くそっ……不覚をとった。まさか、リマリオ殿と同じ力を使えるとはっ!」
カラバッジオとラガン三姉妹は体勢を立て直して、再度俺を――否、今度はセレナたちも共に葬り去ろうとしていた。
しかし、彼女等が攻撃を開始しようとした刹那
「ロト王子! エリカ――っ!!」
その場にハロルドが現れた。
「ハロルド様っ!」
瞬間移動してきたハロルドの姿を確認した途端、彼女たちは暗黙の了解のように俺たちへの攻撃を断念してその場から離脱する。
『よいな。もしハロルドが其の場に現れたら、何があっても直ぐに撤退しろ。それまでに二人とも始末出来ればいいが、もしそれが叶わぬようなら……エリカ・リシュルフドルフだけは絶対に仕留めろ! 失敗は許さん!!』
「逆なら分かりますが、何故お味方をそこまで……と思うておりました。成程、そういう事ですか。姫様も思い切った事をなさる。邪魔者は消す……お気持ちは分かりますが、それではハロルド様の御心を手に入れる事は永遠に叶いませんよ」
カラバッジオはそう独り言た。
「ロト王子! ……エリカ!?」
「エリ、カ……」
瞬間、ハロルドの周りの空気が凍りつく。
俺は人の心が哀しみで結晶される様を、初めて見たような気がした。
「ハロルドさん……エリカさんは、俺を……っ!」
「…………」
だが彼は、無言のままエリカの亡骸を抱き上げると、そのまま何処へともなく消え去った。
「ハロルドさん……」
何か言ってほしかった。
お前の所為だ……と罵ってくれた方が楽だったかもしれない。
――俺はどうやってハロルドさんに、そしてエリカさんに償えばいい!?――
声にはならぬハロルドの叫び……
彼の慟哭が、俺の胸を貫いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
私の道は血塗られた修羅の道。
己の見定めた“終焉”に向かって突き進む闇の道。
だからこそ貴女を巻き込みたくはなかった。
けれど、分かっていた。
本当は分かっていたんだ。
貴女に“真実”を語れば、こうなるであろう事を!
許してくれ、エリカ。
全ては私の所為。
貴女を死に追いやったのは、他ならぬ私自身。
ただ、貴女が笑っていてくれればいいと……
貴女の幸せを願いながら
結局、私は――
出逢わなければ良かったのだろうか?
あの時、貴女に声をかけなければ……。
でも何度繰り返そうと、私は貴女と出逢えぬ“幸福”より
貴女と出逢えた“不幸”を選ぶだろう。
エリカ、長くは待たせない。
私も直ぐに貴女の許へ逝く。
その時こそ貴女の傍に……。
私は永遠に貴女のものだ――――!
補足ですが……
テラにリマリオという後見人が居たように、カラバッジオはブラッド一族最強の戦士であると共にイサドラの後見人でもあります。
ですから彼女は昔からイサドラのハロルドに対する想いを知っています。
故に(ハロルドがこの場に現れた時)瞬時にイサドラの本心を悟ったという訳ですね。
幼くして実母を亡くしたテラにとってリマリオは母代わりでもありましたが、イサドラとカラバッジオの関係はもっとシビアですけどね。




