~第十話~
防御壁を張った状態で相手を攻撃する事は決して不可能ではない。
でもそれは、俺が単独で張った防御壁の場合だ。
今の防御壁は二つの異なる力が反発しあって強化された異質の防御壁。
もし内側から力を使って防御壁を破る事になったら(この時の俺の力では、この防御壁を破ること自体不可能だったのだが……)防御壁自体が消滅する危険性がある。
だが、どうする?
このままでは、何れ力尽きて防御壁は破られる。
そうなったら二人とも命はない。
俺が死ねば、多分セレナたちも無事では済まないだろう。
誰も護れない。それだけは絶対に嫌だ!
その時……
『これは私の結界、異空間を統べる能力を攻撃に特化したもの! 防御壁に触れる直前に異空間に入り、防御壁を抜けた瞬間、再び現空間に出現する』
リマリオの言葉が脳裏を過ぎった。
リマリオさんのあの力……あれを使えば、防御壁を破壊せずに攻撃する事が出来るかもしれない。
でも、果たして俺に出来るだろうか?
しかも別の場所に居る敵を同時に攻撃する事が……。
そうでなければ意味がない。
攻撃はあくまでも起死回生の一撃、この場から離脱する事が目的だ。
四方に散らばる敵を同時に攻撃して怯ませる。
その隙に何とかこの場から逃げ延びる為の苦肉の策。
今の俺にハロルドと同等の力を持つ複数の敵を相手にする力はない。
上手くいくという自信は持てなかった。
だが、躊躇っている余裕はない。
一か八か――
「エリカさん。もしかしたら少しの間、防御壁の力が弱まるかもしれない。でも……」
「大丈夫です。私にお任せ下さい!」
その言葉でエリカは俺の意図を察してくれたようだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
突然の反撃。
それはカラバッジオ等の意表を衝くには充分だった。
「防御壁を突き抜けた? そんな筈はない。まさか、これはリマリオ殿の……!?」
エリカとの二重の防御壁。
異質の力が反発し合って強化された防御壁を憎々しく思っていたカラバッジオだったが、それ故に反撃はないと高を括っていた。
防御壁を破るのも時間の問題だと、そう侮っていたが故の失態。
カラバッジオとラガン三姉妹は、その俺の攻撃をモロに食らって後方に弾き飛ばされた。
その瞬間、防御壁が消滅する。
「エリカさん、今のうちに……」
そう言いながらエリカの方に向き直った俺が見た光景は――
力尽きてその場に崩れ落ちる彼女の姿だった。
「エリカさんっ!?」
思わず駆け寄って抱きとめる。
「……ロト……さ、ま……今のうちに、早く……お逃げ下さ、い……」
「何を言ってるんだ! あんたも一緒にっ!」
「私は、もう……」
「エリカさんっ!?」
彼女にはもう、それ以上話す力さえ残っていなかった。
当然だ。
俺の力が発動するまでの間に弱まった防御壁を、彼女は最期の力を振り絞って維持してくれていたんだ。
「どうして? あんたはこんなになってまで、俺を……」
彼女の兜をそっと外して抱き寄せた。
絹のような美しい黒髪の感触が、その命が確かに未だ其処に在る事を感じさせるのに。
それなのに……っ!
私たちが出逢ったのも、ちょうど貴方くらいの歳でした。
どうか御無事で。
そして貴方は貴方の望みを叶えて下さいませ。
それが私の大切な、誰よりも大切なあの方の願いなのですから。
貴方の望みが私の望み。
貴方の幸せが私の幸せ。
この方が貴方の“全て”ならば
私にとってもこの方は“全て”
だから私は
私の命を懸けて、この方をお護りしたかった。
ハロルド様……
私は少しでも貴方のお役に立てましたか?
この方をお護り出来た事
貴方は喜んで下さいます……か?
エリカの瞳から涙が零れ落ちる。
「死んじゃダメだ! エリカさんっ!!」
けれど、その美しい紫水晶の瞳が開かれる事は……もう二度となかった。
この第二部で、トトがロトに黒髪の変装をさせたのは“黒髪のロト”を描きたかったからという理由の他に、エリカの死に際して、ハロルドと同じ漆黒の髪でいてあげてほしかったからという理由も実はあったりします。
今だから明かせる裏話ですけどね。




