~第九話~
「刺客は四人。いずれもブラッド一族の能力者です」
「っ!」
「ロト様、この場所を選んだのは私ではありません。此処は見通しが悪く、身を隠すには最適です。私が貴方と闘っている間に、既に刺客は各々の持ち場に散った筈。貴方は四方からの一斉攻撃を受ける事になります」
「どうして? 何故、そんな事を俺に教えてくれるんだ?」
思わず動きが止まる。
「攻撃の手を緩めないで下さい……怪しまれます。あくまでも私たちは敵同士――そう思わせなければなりません」
「それは、あんたが俺の味方をしてくれるって事なのか? でも、どうして?」
しかし、彼女は俺の質問には答えず言葉を続けた。
「ロト様、私の傍から決して離れないで下さいませ。私と距離を置けば、貴方への集中攻撃が開始されます」
「っ!」
「このまま接近戦を続けるフリをしてお味方の処へ。そして、後はお味方と共にこの場を離脱する事のみをお考え下さい。貴方は私が必ずお護り致します」
「えっ? でもそれじゃ、あんたが……」
「ロト様!」
戸惑う俺の言葉を遮るように彼女は言った。
「この度の刺客は今までの刺客とは訳が違います。逃げる事さえも至難な敵なのですよ。貴方は今、ハロルド様と闘って勝つ自信がおありですか?」
「え……っ?」
「カラバッジオ様はブラッド一族最強の能力者。その力はハロルド様に匹敵します。そして、その配下のラガン三姉妹は三位一体の攻撃を得意とする。一人一人の能力はそれほどではありませんが、三人揃えばカラバッジオ様に引けを取りません」
――ハロルドさんに匹敵する、敵っ!?――
俺はその瞬間、事態の深刻さを理解した。
「わ、分かった。でも、逃げる時はあんたも一緒だ。あんたが裏切ったって分かれば、あんただって……ただじゃ済まない!」
それはテラの件で痛いほど分かっている。
この人が何故、俺の味方をしてくれるのか、それは分からない。
けれど、俺を護る為に誰かが犠牲になる――それだけは、もう絶対に嫌だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
だが、攻撃は唐突に開始された。
俺と彼女は咄嗟に防御壁を張って防御する。
蒼い炎との二重の防御壁。
異質の力が反発し合って防御壁は強度を増す。
しかし、四方から浴びせられる凄まじい力に、その防御壁でさえも辛うじて持っているに過ぎない。
もし俺一人の力だったら、防御壁はどれほども持たなかっただろう。
「何で? あんたが居るのに……」
驚愕しているエリカの顔を見た途端、俺は次の言葉を飲み込んだ。
――奴らは俺もろ共、エリカさんも抹殺する気なんだ!――
何があったのかは分からない。
彼女が裏切るつもりだった事が初めから露見していたのかもしれない。
けれど今まで味方だった人間を、こうもあっさり切り捨てられるものなのか?
テラの最期が脳裏に蘇る。
何故? どうして、こんな事が平気で出来る!?
その時――
――そんな筈、ない!――
エリカの顔は蒼白だった。
無理もない。こんな力を放出し続けたら命だって危ない。
多分、この前の闘いで力が暴走した……そのダメージもまだ回復してないんだ。
だが、防御壁を解除する事は出来ない。
防御壁の解除、若しくは破られる事は即、死を意味する。
何とかしなければ――!
「エリカさん、何であんたはこんなになってまで……味方を裏切ってまで、俺を助けてくれるんだ?」
「ロト様、どうかそんな事はお気になさらずに。貴方の為ではありません。これは私自身の望み。私は、私の望みの為に行動しているにすぎません。それが私の誰よりも大切な方の願いだから」
「エリカさんの大切な人?」
そう言って、彼女は微笑んだ。
それは綺麗で。
今までに見た誰よりも綺麗で、儚げで。
そして、幸せそうな笑顔だった。




