~第七話~
炎が完全に消えた事を確認してから俺は防御壁を解除した。
「みんな大丈夫か?」
背後に振り向きながらそう問いかける。
辺りには未だ噴煙が立ち込めていた。
何時もと変わらぬリンとのやり取りに、さっきまでの凄まじい戦闘がまるで夢だったような気がしてくる。
けれど……
あのエリカって人はハロルドさんの知り合い?
まあ部下には違いないんだろうけど、多分それだけじゃないよな?
それにしても、あれだけの力の暴走を瞬時に止められるなんて……もしハロルドさんが来てくれなかったらどうなっていただろう?
俺にあれが止められただろうか?
俺たちを助けくれたって訳じゃないんだろうけど、もしあの人が敵だったら今の俺の力では到底敵わない。
俺の中で様々な想いが交錯する。
あのエリカという女性とはもう戦いたくないという想いと、ハロルドが敵として自分の前に立ちふさがる事態になったら……という懼れ。
強くなりたいと思った。
全ての人を護りたい等という大それた望みを持ってる訳じゃない。
けれど、せめて目の前に居る“大切な人たち”を護れるだけの“強さ”を――!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「では、レイヴァ家の再興は諦めるんだな?」
「はい。残念ですが、私の力ではロト王子を葬る事は不可能です。お役に立てずに申し訳ないのですが……」
イサドラの言葉にエリカはそう答えた。
「確かに、な。私も王子の力があれほどとは思わなかった。それにお前は我が一族の者ではないからな。私には“それでも闘え”と命ずる権限はない。だが、お前さえ良ければ……もう一度だけ私に協力してほしいのだが」
「いえ、それは……本当に申し訳ございません」
イサドラの言葉を遮るようにエリカは深々と頭を下げた。
もう彼女に“闘う意志”はなかった。
「そうか、ならば仕方がない。お前に頼もうと思っていた役目は、カラバの配下にでも頼む事にしよう」
(カラバ……っ?)
その場を辞そうとしたエリカは、そのイサドラの言葉で立ち止まった。
「カラバ……それは“カラバッジオ様”の事ですか?」
「ほぉお~エリカ・リシュルフドルフ、お前までがカラバを知っているとはな。流石に“彼女”の力は思った以上に知られているようだな」
「…………」
「そうだ、ロト王子抹殺の為にカラバを呼んだ。お前の蒼い炎を一蹴するほどの力を王子が持っている以上、最早“彼女”に頼るしかあるまい。我が一族最強の能力者、カラバッジオにな!」
(そんなっ!)
エリカの顔から血の気が引いていた。
カラバッジオはリマリオと並び称された能力者。
リマリオ亡き後、ブラッド一族最強と謳われている女戦士だった。
エリカは意を決したように口を開いた。




