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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「サザンの嵐篇」~時の道標(みちしるべ)~第二部
51/236

~第六話~

 少女が泣いていた。

 身体中傷だらけの少女は、深い森の奥でたった一人で泣いていた。


「何故、こんな処に?」


 そう思いはしたが、係わり合いにはならない方がいい。

 このまま通り過ぎるのが最善だと思った。

 けれど一旦その場から遠ざかったものの、気がつくと私の足はその少女の許へと舞い戻っていた。



 少女は“エリカ”と名乗った。


 爵位こそは彼女の唯一の味方であった父親が継いではいたが、それは形骸に過ぎず、先代である彼女の祖父の力が一族の中では未だ絶対だった。

 それ故、忌むべき力を持って産まれた彼女を毛嫌いする先代の影響もあり、彼女は一族中から異端視されて育つ。


 幼い頃、未だ力の制御(コントロール)が上手く出来なかった彼女は、先代に大火傷を負わせてしまい、それ以降二人の仲は修復不可能となった。


 だが――

 或る事件の所為で彼女の父親は爵位を剥奪され、一族は失脚を余儀なくされた。


 失意の中で彼女の父が身罷った後、先代は一族再興の為に彼女の異能(ちから)に目をつけた。

 先代(かれ)は今も残る火傷の痕を彼女の目前に晒しながら


「呪われた力を持ったお前を、私をこんな目に遭わせたお前を……今まで育ててやった恩を今こそ返す時だ! その力を一族の為に役立てよ!」


 そう言った。


 そして彼女は“戦士”たるべく過酷な修行を強要されたのだ。


「ずっとこの力が嫌いでした。それでもこの力を誰かの為に役立てるなら……そう思っていたのに。やっと私が一族の為にお役に立てる時が来たのだ……とそう思ったのに。その為に他の誰かを傷つけるなんて!」


 過酷な修行ではなく人を傷つけたくない……と、そう涙する彼女を私は放っておけなかった。



「身体は大事無いか? 何処か痛むところは?」

「ハロルド様こそ、私の炎の所為で貴方が……」

「心配は要らない。エリカ、貴女の炎が私を焼く事はない」


 自分ではどうにもならぬ運命(さだめ)を背負った者同士。

 お互いに魅かれ合っている事は自覚していた。

 それ故に私は貴女の許を離れなければならなかった。

 私は貴女を決して幸せには出来ないのだから……。


「もう何処にも行かないで下さいますね、ハロルド様? 貴方のお傍に居られるのならば、私は……エリカは他には何も望みません」

「……エリカ、それは出来ない」

「何故ですか? 私の身分が低いから、貴方にはつり合わない……そういう事ですか?」

「それは違う! エリカ、私は……」

「いいえ、違いません! 貴方は私に名前しか教えて下さらなかった。どんなにお訊ねしても、それ以上の事は何も答えては下さらなかった。けれど、それには何か訳があるのだと……。私は、貴方が去った後も貴方の言葉を守り続けた。何時か貴方が私の許に帰って下さると信じていたから」

「…………」


「けれど私は知ってしまったのです。貴方の素性を……貴方が“ハロルド・コル・レオニス様”だという事」

「っ!」

「貴方はサンダー右大臣閣下の後継、やがては世界の王となられる方。私とは身分が違いすぎる。だから私は、一旦捨てた戦士の道を再び歩んだのです。私が貴方のお傍に居る為にはレイヴァ家の再興が必要不可欠だと……」


 その為に。ただ私の傍に居る為に……!

 貴女はあんなに拒んでいた戦士の道を再び選んでしまったのか。


 いいや、分かっていた。


 ただ一途に純粋に、私を慕ってくれる貴女だからこそ……こうなる事が怖かった!


 だから私は、私の素性を貴女には告げなかったのだ。

 貴女には……貴女だけは普通に生きて、そして幸せになってもらいたかったから。


「貴女に戦いは似合わないと言った筈だ。私が貴女の許を去ったのは、決して貴女の所為ではない」

「私の所為ではない? ならば何故なのですか、ハロルド様?」

「…………」


 私は一度、何も告げずに貴女の許を去った。

 その場凌ぎの誤魔化しの言葉では貴女はもう納得しないだろう。



    挿絵(By みてみん)



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 エリカの瞳から涙が零れ落ちる。

 幾筋も、幾筋も――


「それが理由なのですか、ハロルド様?」

「ああ」

「そんな……っ! では貴方の幸せは、貴方の人生は一体何なのですか!?」


 エリカの問いに


「私は“あの日”から己の使命に殉ずると心に誓った。己の幸せなど望むべくもない。私の望みは私の使命を果たす事。ただ、それだけの筈だった。……貴女に出逢うまでは」

「ハロルド様?」

「あの時、貴女の許を去る間際に……貴女に告げた言葉は偽りではない。貴女が幸せである事、それが私のもう一つの願い。どうか私の事など忘れて、一人の女性(おんな)として幸せ、に……」



    挿絵(By みてみん)



 この私からハロルドを奪おうとする者は、たとえ誰であっても決して許してはおかない!

 ロトの回想という形で書いている「時の道標」ですが、今回は珍しく一話丸々ハロルド視点です。

 ロト視点で書くと↑の場面はロトの与り知らぬところでの出来事なので書けないですしね。

 後から補足という形で紹介しても良かったんですが、紹介するまで本篇がかなり『?』な感じになると思うので今回はこういう形を採らせて頂きました。

 今までも別視点が無かった訳ではないですし。


 ハロルド✕エリカを気に入って下さってる方も多いので良いかなあ~と←最近ハロ×エリと呼ばれている二人。

 でも、これからは視点が変わる事も度々あるかもです←一人称から三人称になる事も。

 サザン側も書かないと分かり難いと思いますしね。

 どうしてもロト視点だけでは書ききれない部分がありますので、ご了承下さいませ。

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