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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「サザンの嵐篇」~時の道標(みちしるべ)~第二部
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~第五話~

 炎は自在に姿を変える。

 それは闘いの間、常に彼女の周りに存在し“灼熱の盾”となっていた。


 そして炎は――

 全てを焼き尽くす蒼き閃光にも、全てを焼き切る蒼い刃にも変わる。



  挿絵(By みてみん)



 常に防御壁(シールド)を張った状態でないと近づく事すら出来ない相手(てき)

 多分、以前の俺なら手こずっていた。

 けれど……



  挿絵(By みてみん)



 その一撃で彼女の蒼光の剣も彼女を護っていた灼熱の盾も消し飛んだ。


 俺は彼女の攻撃をかわしながら彼女の力を推し量っていた。

 彼女自身を傷つけずに済む力加減を。


 俺に"個人的な恨みはない"と言った女性(ひと)

 出来得るならば、傷つけたくはない。

 それが甘い考えなのだと分かっていた。

 分かってはいたが――


 俺は衝撃で弾き飛ばされ、地面に倒れ伏した“敵”に手を差し伸べた。


「あんたの力じゃ俺には勝てない。あんたは俺に個人的な恨みはないと言った。あんたの一族の悲願の為だとも」

「っ!」

「俺には俺の望みがある。あんたの悲願を叶える為に死ぬ訳にはいかない。でも、俺はあんたを傷つけたくはないんだ」

「…………」


 彼女は驚いたような顔で俺を見ていた。

 一目見た時から感じた、哀しそうな……愁いを帯びた美しい紫水晶の瞳。

 だが……


(勝てない? 私にはこの王子を倒す力が、ない? まさか、王子の力がこれほどとは……)


 彼女の身体が震えていた。


(ずっと忌み嫌っていた。こんな力さえなければ、と)


 呪われた力。

 全てのものを焼き尽くす蒼い炎。


 人を傷つけるのも傷つけられるのも嫌だった。

 祖父の狂気もこの力ゆえ……。

 私がこんな力さえ持っていなければ、祖父の一族再興の夢など疾うに潰えていた筈だった。


 全ては私の所為!

 けれど、この力があの方の為に役立つのなら……そう思った。

 

 あの方のお傍に居たかった。

 あの方との約束を果たす為に! あの方の幸せの為に!

 私にはそれしかなかったから。


「これが私に与えられた最後のチャンスだった、のに……」



 彼女の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

 その瞬間、彼女の気が異常なほど膨れ上がった。


 ――マズいっ!――


「伏せろ――っ! みんな地面に伏せるんだっ!!」


 俺はそう叫びながら咄嗟にセレナたちの処に駆け寄って防御壁(シールド)を張った。


 凄まじい爆発音と共に辺りは“火の海”と化す。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「力の暴走っ!?」


 その襲撃波は、遠く離れた林の中まで届く程だった。

 凄まじい灼熱の熱波が林の木々を焦がし始める。


 ――エリカっ!――


「このまま此処に居れば私たちも危ないわ。行きましょう、ハロルド」

「…………」


 だがハロルドは無言のまま動かない。


「何をしてるの? 巻き込まれるわよ!」


 イサドラはハロルドの腕を掴んで強引にその場を離れようとした。


「お前は先に行け! 私はエリカを……」

「エリカ? ……あんた、エリカ・リシュルフドルフを知ってるの!?」

「…………」


「助ける必要なんてないでしょ! 所詮は“捨て駒”に過ぎないんだし。このまま王子と共倒れになってくれれば一石二鳥だ!」

「何を、馬鹿な! 放せ、イサドラ!!」


 ハロルドはイサドラの手を振り解いて跳んだ。



    挿絵(By みてみん)



 凄まじい力だった。

 多分、彼女自身にも制御(コントロール)出来ない“力”。


 俺も皆を護る為に防御壁を張るのが精一杯。

 だが、何時までもこのままではいられない。

 何より、あんな力を放出し続けては彼女の命に係わる!


 何とかしないと……。でも、どうする?


 そう思った時だった。

 俺は微かな空間の揺らぎを感じた。


瞬間移動(テレポート)? ……ハロルド、さん!?」



  挿絵(By みてみん)



 業火の中で防御壁を解除する事さえ無謀だった。

 灼熱と化した彼女の身体に直接触れる事は命取りになりかねない。

 しかしハロルドは、肌を焦がす炎を物ともせず彼女を抱きしめた。


「エリカ……私だ! エリカ――――っ!!」


「……ハロ……ルドさ、ま?」

「ああ、そうだ!」

「…………」


 彼女の瞳から涙が零れ落ちる。


「力を抑えるんだ! このままでは貴女の命が危ない!」

「……ハロルド様、やっとお逢い出来た。帰って来て下さったのですね」


  挿絵(By みてみん)



 蒼い炎が終息していく――

 

 炎と共に、二人の姿は掻き消すように消えた。


 後にはただ静寂が残るのみ。

 けれど、焼け爛れた大地が、林の木々が、闘いの凄まじさを物語っていた。


 ハロルドはエリカの許へは帰れない。

 決して帰る事は出来ないんですが、この場を収める為にはそう言わざるを得なかった。

 其処にハロルドの苦悩があったりします。

 多分、何もなければ生涯逢うつもりはなかったのではないかと。

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