~第三話~
今回は、前半はエリカ視点、後半はロト視点に戻ります。
「貴女に戦いは似合わない」
あの方は何時も泣いていた私にそう言った。
それは七年前。
あの方が14歳、私が13歳の秋の事だった。
サザンの事実上の支配者となられたサンダー・フォル・レオニス右大臣閣下。
十年前、父はそのサンダー様の逆鱗に触れ、我がレイヴァ家は伯爵位を剥奪されレイヴァ一族は失脚を余儀なくされた。
父は失意の中で非業の最期を遂げ、本来であれば忌むべき筈の能力(蒼い炎を自在に操る力)を持っていた私は「その力をレイヴァ家の再興の為に役立てよ」という祖父の期待の下“戦士”として育てられ、過酷な修行の日々を強要されていた。
――この力を人を傷つける為になど使いたくない!
誰かを傷つけるのも傷つけられるのも嫌だ!――
そんな時、私は“あの方”に出逢ったのだ。
私と同じ漆黒の髪を持つ端整な顔立ちの少年。
けれど、真っ直ぐに私を見つめるその澄んだ瞳の奥底には、何時も深い孤独と哀しみが宿っていた。
――この方も私と同じような……。
いえ、それ以上の途轍もなく重い何かを背負っているのだ――
それは当然の成り行きだったのかもしれない。
私は次第にその少年に心魅かれていった。
「貴女は貴女の望む人生を生きて下さい。貴女の幸せが私の幸せなのですから」
幼い恋。
でも、それ故に純粋で一途だった。
その言葉を残してあの方が去った後も、私はその言葉を守り続けた。
祖父の言葉には従わなかった。
私は私の望むままに生きようとしたのだ。
それがあの方の願い、そしてあの方の幸せだと信じたから。
けれど……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「「あ~~~っ! 何で君(貴方)が此処に!?」」
宿に帰った時、俺とフリー、そして宿で俺たちの帰りを待っていた“客人”はお互いを指差してそう叫んだ。
「まさか、貴方がロト王子っ?」
「……だとしたら何なんだよ?」
何でこの子がこんな処に居るんだ?
それは都を見物している時に出会った“リン”と呼ばれるあの高飛車な“お嬢様”だった。
「ええ……っ! 二人は知り合いなの? 一体、何時の間に!?」
セレナの疑問は当然だった。
「えっ? 否、町に出てる時に、ちょっと……」
言葉を濁す俺の代わりに、フリーが事の成り行きを説明してくれた。
「おお……それは重畳! なんという偶然! この方が私たちがお待ち申し上げていたアドラ・ジャウザ様からの使者でございますよ。まさか姫御自らが使者としてお越し下さるとは思ってもおりませなんだが……」
ハーリスの言葉に
「姫?」
……と俺が聞き返した時、御付の爺がフリーに
「いやいや、周りは大反対したんですが、姫様が"私が行く"と我儘を通されて王も仕方なく……」
と耳打ちしているのを俺は聞き逃さなかった。
「はい。この方はアドラ・ジャウザ王の第三王女イドリア姫様。ロト王子、貴方の“従兄妹”に当たられる御方ですよ」
「従兄妹ぉ~!? この子がっ!?」
「何なんですの、その嫌そうな反応は? それはこっちの台詞ですわよ。こんな淑女の扱いも知らない田舎者が従兄妹だなんて! それに……」
そう言うや否や、リンは(“イドリア姫”って言うより“リン”ってイメージだよな、この子は)無理矢理俺の鬘を剥ぎ取った。
「やっぱり“鬘”だったんですのね! この見目で銀の髪なんて卑怯ですわ!」
「はあぁあ〜!?」
(肖像画でしか存じ上げませんけれど、前のサザン王レグルス・ナスル陛下生き写しの見目にグロディア伯母様譲りの青銀の髪とエメラルド・グリーンの瞳なんて、贅沢過ぎますわよ!)
「何で卑怯なんだよ!?」
「…………」
リンは俺を睨みつけたまま何も語らない。
どうやら俺たちの相性は出会いの時から最悪らしい。
「リンお嬢様……いえ、イドリア姫様。悪ふざけは大概になさいませ。我らの使命は……」
「はいはい。分かってますわよ、爺」
その瞬間、リンの顔つきが変わった。
それは今までの我儘で高飛車な“お嬢様”とは打って変わった一国の“王女”の顔。
リンは俺の前に跪くと
「いえ、レグルス・ナスル陛下亡き現在、貴方こそが“サザン王”! そして対サンダー戦における我らの“旗頭”! これは我が父、アル・サドマリク国王アドラ・ジャウザからの親書でございます。ロト・オリオニス・サザン様、どうぞお受け取り下さいませ」




