~第二話~
「もう~淑女になんて事しますの? それに"助けてくれ"なんて頼んだ覚えはありませんわ!」
追っ手を振り切ったのを確認してから、フリーは小脇に抱えていた少女を地面に下ろした。
その途端、少女は開口一番にそう言うと同時に、ぷいっと顔を横に背けた。
別に感謝の言葉を期待していた訳じゃない。
でも何なんだ、この態度は?
きっと良い家の“お嬢様”なんだろう。身なりと言葉遣いがそれを物語る。
歳は俺より四つ五つ下だろうか?
まだ幼さが残る、プラチナ・ブロンドの髪とエメラルド・グリーンの瞳の勝気そうな美少女だった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
悲鳴が聞こえた方向に走って行くと、一人の少女が数人の男に追われているのが目に入った。
男たちの服装から、彼等はどうやら役人のようなのだが、一体あの娘は何をして"お役人"に追われる破目になったのか?
周囲をぐるりと取り囲んでいる黒山の人だかり(=野次馬たち)の話をそれとなく聞いていると、悲鳴を上げたのはその少女ではなく、あわや捕まりそうになったのを見た無関係の女性が思わず叫んだらしい。
非は役人の方にあるらしく、その“追いかけっこ”を見ている群衆は誰もが内心は少女の味方だったが、役人を怖れて大っぴらに少女の味方を出来ずにいたのだ。
「ちょ、ちょ~待てっ! 王子……」
フリーが制止する間もなく俺は飛び出した。
「あちゃあ~! これはマズい事になった……なんて言ってる場合じゃないな!」
フリーも透かさず後に続く。
「確かに此処で、騒ぎを起こす訳にはいかないからな」
流石に俺もその位は心得ていた。
少女と役人の間に、密かに“力”を使って出店の品物をぶちまける。
ちょうど其処に店を出していた店主には悪いと思ったが、役人の目を逸らす為には仕方が無かった。
おじさん、ごめん!
俺は心の中で手を合わせた。
足許に転がってくる障害物に役人が気を取られている隙に、連携宜しくフリーが少女を小脇に抱えて一目散にその場を走り去った。
それは一瞬の出来事で、彼等は俺たちの顔を見る余裕すらなかった筈だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お嬢様ぁ~。リンお嬢様ぁあ~! どちらにいらっしゃいますかぁ~?」
遠くの方で声が聞こえた。
「爺っ!」
どうやらこの少女の“御付き”の者らしい。
そう言えば、野次馬の中に「誰かお嬢様をお助け下さい!」とか言って、右往左往していた老人が居たような?
息も絶え絶えに俺たちの許に辿り着いた老人は
「これはこれは……何処の何方かは存じませんが、リンお嬢様をお助け頂き真にありがとうございます」
と深々と頭を下げた。
「爺! こんな淑女の扱いも知らないような無粋な田舎者に礼なんて言う必要はありませんわよ!」
「お嬢様、何という事を……。本当に申し訳御座いません」
御付きの老人は更に深く頭を下げて陳謝した。
「…………」
こんな高飛車な奴は初めてだ!
俺は開いた口が塞がらなかったが、こんな我儘な“お嬢様”に付き従わなければならない老人が気の毒になった。フリーも
「いえいえ、お気になさらず」
そう言いながら苦笑いしている。
「それでは、我々は先を急ぎますので」
そう言って老人がその場を辞そうとした時、リンと呼ばれた少女が徐に俺の顔を覗き込んだ。
あまりの至近距離に俺は驚いて、思わず後ずさる。
「淑女の扱いはなってないですけど、それで髪が銀色なら見目は“合格”ですわよ。でも私、銀髪の殿方じゃないと興味ないんですの。残念でしたわね!」
「俺だってロリコンの趣味はない! 君みたいな“高飛車”な女の子は猶更だ!」
「何ですって? 失礼な! やっぱり良いのは“見目”だけ、ですわね!」
そう言うと、くるりと背を向けて歩いて行ってしまった。
その後を老人は何度も振り向いては頭を下げながら追いかけて行く。
「気の毒な御仁だなあ。ありゃあ~苦労が絶えんぞ。それにしても銀髪の殿方が好みって、それってモロに王子が“理想”って事じゃないのか?」
去っていく二人の後ろ姿を見送りながらフリーがそう呟いた。
「ええ~っ!? 勘弁してよ、フリー。確かに顔は可愛いと思うけど、性格があれじゃあ~」
「だよなあ~!」
(まあ、王子の好みは分かってるけどな。しかし、あの娘と御付きの老人……何処かで見たような気がするのは気の所為、か?)
誰にも見られていないと思っていた。
束の間の“救出劇”だった。
しかし……
「どんな格好をしようと私の目は誤魔化せん!」
「……未だ、ホンの子供のようですね」
「ああ、だが力は侮れん。お前の“蒼い炎”を自在に操る力に期待している。見事、王子を仕留めて見せろ! さすればお前の……否、一族の悲願が叶うのも夢ではないだろう」
そう……これは私自身が望んだ闘い。
我がレイヴァ一族の悲願の為に。
そして何より、あの方と交わした約束の為に!




