~最終話~
「リマリオさん!」
俺はそう叫びながら、崩れ落ちたリマリオに駆け寄って抱き起こした。
「何で避けなかった? あれくらいの力、あんたになら難なくかわせた筈だ! 俺は……」
「…………」
リマリオはそっと手を伸ばして俺の頬を流れる涙を掬い取りながら
「私の為に泣いて下さるのですか? お優しい方ですね。でも、貴方が哀しまれる事はありません。私は姫様の最期の願いを叶えて差し上げたかっただけです」
「テラの願いを叶え、る?」
「そう……貴方が生き延びる為の術を少しでも貴方にお伝えしたかった。貴方は今の闘いでご自分の力を制御する事が出来た筈。もう力を揮う事を怖れる必要はありません。貴方は貴方の思うままに……。敵を生かすも殺すも貴方の御心一つです」
「その為に? そんな事の為に、命を懸けたのか!?」
「はい。それが、私の“真実”。これでやっと私も姫様の許に逝ける。先に逝った夫と娘も、私を喜んで迎えてくれるでしょう」
「そんな……っ! でも、それでも俺は……あんたに生きててほしかった! あんたはテラの大切な“お母さん”なんだぞ! あんたに何かあれば、テラが哀しむ!」
俺の言葉を聞いた瞬間、リマリオの瞳から涙が零れ落ちた。
『辛い目に遭われたのですね。その償いが出来る等というおこがましい事は思っておりません。けれど、この地でその傷ついた心の何分の一でも癒す事が出来るなら、その為のお手伝いを精一杯させて頂こうと思っています』
この上もなく美しくお優しい。
そして、まるで春の陽射しのように柔らかく温かな笑顔。
ただ、人とは違う能力を持って産まれたというだけで迫害され、愛する夫と幼い娘を失った。
その不条理を。
我らを迫害したこの世界を恨んで、憎んで、“復讐”という想いで凝り固まった凍りついた心が、その“御心”に触れて融けていくのを感じた。
――私はこの地で、この方の御傍で……初めて安住の地を得たのだ――
そう思った。
サザン王――レグルス・ナスル様。
しかし、そのレグルス様を我らの族長が裏切った。
一体、何故? 理由は分からない。
大恩あるブラッド様に従わない訳にはいかない。
……かと言って、レグルス様の想いを踏み躙る事も私には出来なかった。
母を亡くしたばかりの幼い姫様を不憫に思った事も真実。
けれど、どちらも選べなかった私は、姫様の後見人になる事で一線から退いた。
――姫様、貴女がこの方を愛した理由……私にも分かる気がします――
結界が消滅していく。
リマリオはテラと同じように、俺の腕の中で微笑みながら逝った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ロト、何をしてるの?」
甲板で一人、ぼんやりと周囲の景色を眺めていた俺にセレナがそう問いかけた。
俺たちは予定通り、シュンガの港から始発の船に乗ってティールの都へ向かっている。
「朝陽を見てた」
俺はそう答えた。
キアヴェンナはシュンガから西に位置する広大な大陸。
朝陽を背にした出航だった。
どちらにしても、心に傷を負った者に朝陽の鮮烈な“白”は残酷だと――俺は初めてそう思った。
リマリオがブラッドにテラの後見人になることを志願した時、ブラッドにしてみれば、一族で一、二を争う“力”の持ち主を宛がう事は抵抗があったと思うんですよね。でも敢えて許した。
それはリマリオの心情を酌んだからです。
ブラッドにもそれくらいの温情はあるんですよ。
だからこそ“敵”は純粋に“悪”かって事になるんですが……ほんと、正義と悪の定義は難しいですね。




