~第十話~
「貴方があの男を知ってたのは意外だったけれど、あの男を……ハロルド・コル・レオニスを絶対に信じちゃダメ! 貴方を助けたのだって、きっと何か魂胆があるに決まってる。あの男は顔色一つ変えずに何人もの仲間の命を奪った……血も涙もない、悪魔のような男なのよ!」
「…………」
セレナの言葉が信じられない訳じゃない。
だけど俺にはどうしても、彼が敵だとは思えなかった。
彼は俺に『生きてサザンに辿り着け』言った。
もし本当に“敵”であるならば、そんな事を言うだろうか?
俺を助けたのがテラやリマリオの為だったとしても、あそこまで人の心を慮る事の出来る人が、沢山の人々の命を平然と奪ったなんて信じられない。
それとも、それは敵である人間には向けられないものなのか?
俺の考えは甘過ぎる……のだろうか?
あの人を敵だと思えないのは、そうであってほしくないという俺の願望に過ぎないのか?
敵に回せば勝ち目がないから?
もしもこの時、ハロルドの瞳の奥底に隠された“慟哭”に気づく事が出来ていたならば、後に訪れるであろう悲劇的な結末を回避出来たかもしれない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「いよいよ明日は出航ね。キアヴェンナ大陸は広大だけど、ティールに着けばもう其処からはサザンまで陸続き。気を引き締めないとね」
俺たちはシュンガの港に辿り着いていた。
明日の始発の船でナルサースク公国随一の港町ティールへ向かう事になっている。
「ああ……」
セレナの言葉に答えようとした途端、奇妙な違和感に襲われた。
「これは……っ!?」
だが、そう思った時には既に遅かった。
俺とセレナは再びリマリオの張った結界の中――異空間に居た。
前のように、予め張られた結界の中に誘い込まれた訳ではない。
あの時は俺とセレナが並んで歩いていた為に彼女も巻き添えになった。
しかし、今回は二人共が強制的に結界内に移動させられたのだ。
「リマリオ、さん?」
声をかけようとした途端、いきなり彼女は力を発動した。
「な……っ!?」
俺とセレナは咄嗟に防御壁を張る。
「何するんだ? 誤解は解けたんじゃなかったのか!?」
「…………」
だがリマリオは俺の問いに答えようとはせず、無言で攻撃を仕掛けて来る。
今度はセレナにまで容赦がなかった。
「何故なんだ、リマリオさんっ!?」
彼女は沈黙したまま、攻撃する力を徐々に上げていく。
「きゃあっ!」
セレナの防御壁はリマリオの力に耐え切れず、彼女の身体は防御壁が破られた衝撃で後方に弾き飛ばされた。
「セレナ……大丈夫か!?」
「えっ、ええ……」
思わず彼女に駆け寄って抱き起こした。
リマリオの力は辛うじて防御壁が防いでくれたが、弾き飛ばされた時に地面との摩擦で負った擦過傷があちこちに見受けられた。
しかし、それでもリマリオの攻撃は容赦なく続く。
だが、どうする?
防戦だけではセレナを護りきる事は出来ない。
かと言って、下手に反撃して……また以前のように力が暴走すれば、この人を傷つけてしまう。
この人は誰よりもテラを愛し、そしてテラが愛した人。
傷つけたくない!
「止めてくれ、リマリオさん! 何故、俺たちが闘わなくちゃならないんだ!? 俺はあんたと闘いたくない!!」
「何故、闘う? 陳腐な質問ですね」
それまで無言だった彼女が初めて口を開いた。
「それは私と貴方が“敵同士”だからですよ」
「えっ?」
「ロト王子、誤解が解けようが解けまいが、貴方が私を敵だと認識しようがしまいが……私たちが“敵”である事に何ら変わりはないのです」
「っ!」
「私はイサドラ様から貴方を殺せと命じられた。私は私の使命を忠実に遂行しているにすぎません。防戦一方では貴方はご自分の命は元より、セレナ姫を護る事さえ出来ませんよ。敵に情けを掛けていては、生きてサザンに辿り着く事など到底不可能です!」
『敵に情けを掛けるな! 躊躇えば自らが命を落とす事になる!』
ハロルドの言葉が蘇る。
「あの人の言う通りなのか?」
一体、どうすればいいんだ!?




