~最終話~
それは一瞬の出来事だった。
銀色の閃光が走ったと思った直後、SDAのエスパーたちは皆、地面に倒れ伏していた。
「殺ったのか?」
「いや、気を失ってるだけだ」
ノアールの問いに、少年は抑揚のない声でそう答えた。
「…………」
(特Aランクのエスパーを一瞬で戦闘不能状態にするだと?)
ESPジャマーが作動している状態で、こんな超絶パワーを発揮出来るとは――本当はこの時、既にジャマーはオーバーフローだったのだが――これが伝説のエスパー“SILVER・WOLF”の力なのか?
信じられない出来事だった。
相手を一蹴する力がなければ、こんな事は不可能だ。
対象を殺さず戦闘不能にするより、息の根を止める方が遙かに容易い。
しかも、少年は息一つ切らしてはいなかった。
「君が……否、君は本当に伝説のエスパー“SILVER・WOLF”なのか?」
思わず口から出た言葉。
今さっき見た光景を忘れそうになるほど、その少年は戦場には不似合いだった。
美しい青銀の髪と湖の底よりも深く透明な翠玉の瞳を持つ少年は、映写幕で見た時よりも遙かに繊細で儚げに見える。
「…………」
だが、彼はノアールの問いには答えず
「特Aランクのエスパーと対峙するのは初めてのようだな。これに懲りたら俺の周りをうろちょろしない事だ。命が幾つあっても足りない」
とぶっきらぼうに言い放った。
「俺を監視する必要はない。無駄な犠牲が増えるだけだ。俺は連邦に味方する気は更々ないが、敵に回る気もない……とな」
そう言うや否や、少年の姿は掻き消すように、その場から消え失せた。
「瞬間移動? しまった、追えるか?」
ノアールは腕時計に内蔵されているESP探知機のエリアを最大限に拡げた。
だが反応はない。
「索敵圏外まで跳躍したのか? 何て力だ!」
ノアールは思わず長嘆息を漏らす。
これでまた振り出しに戻ってしまった。
サンダー長官の言葉通り、“SILVER・WOLF”の力は連邦にとって脅威以外の何者でもない。
本人に敵対する意志があろうと無かろうと、彼を監視下に置くという連邦の方針は変わらないだろう。
――私は再び彼の跡を追わなくてはならない――
「“フォーマルハウトに伝えろ”か……」
フォーマルハウト・R・サンダー上級大将。
銀河連邦軍最高司令長官サンダー将軍をファースト・ネームで呼ぶ少年。
彼は一体何者なのか?
監視する者とされる者――
まだお互いの名すら知らない束の間の、これが二人の出逢いだった。
~指令№Z.30432~ 完
結局、主人公の名前を出しそびれちゃいました。
久しぶりに高校の時に描いた漫画を参考の為に引っ張り出して見たんですが、それはお互いの名前知ってるんですけどね。
自己紹介って訳ではないですが。
もっと込み合った会話もしてたし。
まあ、その時とは若干展開が違うので仕方がないんですが、ここまで淡々とした出逢いになっちゃうとはなあ~。
これから、この二人がどうやって歩み寄って行くのか、トト自身が不安になっちゃいました(笑