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サザンの嵐・シリーズ  作者: トト
「サザンの嵐篇」~時の道標(みちしるべ)~第一部
39/236

~第九話~

「この人が、敵? しかも、サンダーの後継?」


 嘘だ……そんな筈、ない。

 彼が敵なら、俺たちの命は疾うになかった筈だ。


 あまりの衝撃に俺はその場を動けなかった。


「リマリオとこの男と、二人を相手に逃げ切る事は不可能だ。だけど、闘って勝てる訳がない。どうする? せめてロトだけでもこの場から逃がさなければ……。でも、どうやって?」


 圧倒的な力の差に、セレナもその場を動けずにいた。


「いずれにしても、こちらから攻撃を仕掛ける訳にはいかない。下手に攻撃して反撃されれば、一たまりもない」


 そして、それはリマリオも同様だった。

 

 彼女にとってハロルドは主筋。

 だが、味方である筈の(ハロルド)(おれ)を助けた。

 ハロルドの真意が掴めぬ以上、下手に動く事は出来なかった。


 奇妙な膠着状態が続く。


 だが、その均衡は直ぐに破られた。



…───…───…───…───…───…───…───…



「ロト王子ぃ――! セレナ姫ぇえ――――っ!」


 遠くの方から俺たちを捜すフリーたちの声が聞こえた。



「リマリオ、テラを殺したのは王子ではない」


 ハロルドはリマリオの方に向き直ると、矢庭にそう告げた。


「ハロルド様、何を仰います!? 私はイサドラ様から姫様を殺したのはロト王子だと……」

「テラはお前と同じ道を歩んでいた」

「私と、同じ道?」

「言葉は信じぬだろう?」


 ハロルドはいきなり俺の方に歩み寄ると、首に掛けていたテラの形見の首飾り(ペンダント)を引きちぎってリマリオに放り投げた。


「それはテラの形見の品だ。それに宿る残留思念……お前になら読み取れる筈。テラの想いが解る筈だ」

「姫様の、想い?」



    挿絵(By みてみん)



「姫様、貴女は……」


 リマリオの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。


「ハロルド様、これが姫様の御心なのですね」


 後から後から止めどもなく溢れ出す涙がリマリオの頬を濡らす。

 彼女の姿は、その涙と共に光に溶け込むようにその場から消えた。


 それを見届けたハロルドもまた踵を返す。



「あんたは……本当に敵、なのか?」


 気がついたらそう叫んでいた。


 このまま別れちゃいけない――そう思った。


「…………」


 俺の問いにハロルドは立ち止まったが、返事はなかった。


「答えてくれ! 俺はどうしても、あんたが敵だとは思えないんだ!」

「…………」

「答えないのは“敵”だから、なのか?」



    挿絵(By みてみん)



「リマリオにお前を殺させたくなかっただけだ」

「……?」

「そんな事になれば、テラの死は単なる“犬死”になってしまう。私はテラの想いを護ってやりたかった」

「テラの想い?」

「テラの最期の願いを、彼女を誰よりも愛したリマリオに踏み躙らせる訳にはいかない」

「…………」

「ロト王子、生きてサザンに辿り着け! お前が生きる事、それが身を挺してお前を護った彼女の願いだ!」



 そう言うとハロルドの姿は消えた。


 彼は一度も振り返らなかった。

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