~第八話~
「セレナ姫、お前まで此処に来るとは想定外だったよ」
不意に声が聞こえた。
見ると前方に人影が見える。
「でもまあ、来てしまったものは仕方がない。黙って其処で見ておいで。邪魔さえしなければ、お前は元の世界に帰してあげるよ。私が用があるのはロト王子、お前だけだ!」
白い肌、白い髪の……透き通るように美しい女性だった。
だが、その風情から想像も出来ない氷のように冷たい殺気を感じる。
「テラ様を、私の姫様を殺した……ロト王子、お前だけは絶対に許さないっ!」
それは俺一人に向けられた明確な殺意だった。
「違う、テラを殺したのは……」
思わずそう叫ぼうとしたセレナを俺が制した。
その後に続くであろう言葉をこの人に聞かせる事は出来ない――そう思った。
「あんたがリマリオか?」
「何故、私の名を知っている?」
「…………」
やはり、そうか。
以前、テラから聞いた事がある。
――私には母が二人居る――と。
一人は生母。
そしてもう一人は、幼くして母を失った彼女を我が子のように愛し育ててくれた女性。
その女性の名が“リマリオ”だった。
テラを殺したのは実の姉イサドラだと、この人が知れば余計に傷つく。
憎まれるのは俺一人でいい。
テラは俺を庇って死んだ。俺が殺したも同然なんだ!
――テラ様を、私の姫様を殺した――
そう叫んだリマリオの言葉が胸に突き刺さる。
防戦するのが精一杯だった。反撃する余裕はなかった。
否、反撃する事は……出来なかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「結界が……私の結界が破られた? そんな馬鹿な!? この私の結界が破られるなど、一体誰が……っ!?」
リマリオはいち早く異変に気づいた。
彼女は元々ブラッドの一族の出身ではない。
流浪の民だった彼らは、諸国を放浪する間に、その土地土地で迫害を受けていた能力者を取り込み、力をつけていった。
彼女はその中でも一、二を争う能力者であったが、戦いを嫌いテラの後見として生きる事を選んだ。
彼女が一族に加わる直前に実の娘を失った事もあるのだろう。
テラは彼女の“生き甲斐”だった。
「姫様が……ロト王子に殺された!?」
復讐を決意した彼女は、他の犠牲者が出るのを避ける為に強力な結界を張って俺を其処へ誘い込んだのだ。
「このままでは、王子の仲間が此処に来てしまう……」
彼女は傍に居るセレナを気遣って力を制御していたが、最早一刻の猶予も出来なかった。
渾身の一撃が俺目掛けて放たれる。
その凄まじいエルネギーに……
「なんて力だ!」
セレナが俺の巻き添えになる事だけは避けなければ……!
俺は渾身の力で彼女を突き飛ばした。
それが精一杯。
攻撃を避ける時間も、防御壁を張る余裕も俺には残されていなかった。
その時――!
「ハロルド様? 何故、貴方が此処に!? 何故、私の邪魔をなさるのですか!?」
予想もしなかった事態に、リマリオの攻撃の手が止まった。
「セレナ、何言ってるんだ? この人は今、俺を……」
「ロト、こいつは敵よ!」
「えっ?」
「この男の名はハロルド・コル・レオニス。私たちの宿敵サンダーの後継!」
そしてブラッドと互角……。
否、それ以上の力を持つ“最大最強”の敵なのよ!




