~第七話~
防御壁を張る事も思い浮かばなかった。
気がついたら身体が動いていた。
……ああ、そうか!
君は、私にとってそれほど大切な存在になってたんだね。
「ロト、ごめんね。私の一族……父や姉の事、許してなんて言えないね。本当にごめん、ね……」
感謝と謝罪と……。
彼女は自身の不条理な運命を恨む事もなく……
俺の腕の中で微笑みながら逝った。
俺は彼女を護れなかった。
数日後――
「貴方が持っててあげて。その方が彼女も喜ぶと思うから」
テラの額飾りに付いていた紅い宝石を、セレナが首飾りにして俺に手渡してくれた。
「ありがとう」
俺は言われるままに、その首飾りを肌身離さず常に首に掛けていた。
それが俺たちに遺された、テラの唯一の形見だったのだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
やっとの想いで俺たちは、後三日程でシュンガの港に着く――という処まで辿り着いた。
峠を越えると港町に出る。
其処は山の中腹の一本道だった。
俺とセレナが並んで先頭を歩いていた。
ハーリス、母グロディア、そして最後尾をフリーが護る。
後から冷静になって考えてみれば、の話だが……確かに違和感はあった。
それまでとは違った不可思議な感覚。
気になって振り向くと、後ろを歩いていた筈のハーリスたちの姿が消えている。
「ロト、気をつけて。これは罠。此処は、誰かの張った結界の中……異空間だわ」
セレナが俺に耳打ちした。
「異空間……っ!?」
…───…───…───…───…───…───…───…
一方、俺たち以上に驚いたのはハーリスたちの方だった。
前を行く俺とセレナの姿が一瞬にして掻き消えた――と思った瞬間、ハーリスは何かにぶつかったような衝撃を受けた。
其処には目には見えない“透明な壁”が存在していたのだ。
「何だ、これはっ!?」
フリーが力任せに壁を叩くがどうにもならない。
「セレナ姫! 王子――――っ!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「それは結界だ」
途方に暮れていたフリーたちの背後から、いきなり声が聞こえた。
驚いて振り向くと、其処には漆黒の髪の男が立っている。
「ハロルド・コル・レオニスっ! 何故、貴様が此処に!?」
フリーは母グロディアとハーリスを背後に庇いながら、腰の剣に手を掛けた。
「これはブロッドの一族でも一、二を争う能力者リマリオの張った結界だ。お前たちでは到底破れん。王子たちの事は私に任せておけ」
「貴様になら破れると言うのか? だが、何故貴様が王子を助ける? 貴様は……」
警戒心を露わにするフリーに
「事態は一刻を争う。目覚めたばかりで、制御も碌に出来ない王子の力などリマリオには通用しない。私を信用しろとは言わないが、王子を死なせたくないのなら私の邪魔をするな! 其処で黙って見ていろ、フリー・サルガス!」
そう言い放つとハロルドは結界に手を伸ばした。
凄いっ! やはり、この男は強い!
ブラッドの一族でも一、二を争うほどの能力者の張った結界をこうも易々と。
確かにこの男がその気になれば、今の俺たちなど一たまりもない。
味方であるなら、これ以上に頼もしい存在は居ないだろう。
だが、この男を信用していいのか?
――こいつは紛れもなく、敵だっ!――




